第144話 魔王VS暗黒騎士

 どういう状況なのかはわからない。





 しかし目の前の道化師が、自分のことを本気で殺しに来ている事くらいはフェアラートにも理解が出来た。





 フェアラートは背に担いでいた大ぶりのランスを抜き構える。右手に伝わるズッシリとしたランスの重みが彼の意識を静かに研ぎ澄ました。





「フホホホッ!! 良いですネ! 凄まじい闘気デス。ですが私も魔王の端くれ・・・負けるつもりはありませんヨ」





 ヒョコヒョコとふざけたステップを踏みながら笑い声を上げる魔王ジェミニ。彼は右手をひょいと持ち上げ、その掌を上方に向けた。ボッという音を立てて掌の上に出現した火の球を、ジェミニは無造作に投げつける。





 投げた瞬間は掌に乗るほどの大きさだった火の玉は、しかし宙を走るその間にドンドンとその大きさを増していく。フェアラートの目前に迫った時、その火の玉は彼の体長を上回るほどの大きさに成長をとげていた。





 しかし自身よりも大きな火の玉を前にして、暗黒騎士はフッと小さく笑う。





 グッと振りかぶるは左手に構えた漆黒の大盾。おおよそ尋常なな筋力では扱いきれぬ重量を持つソレを、フェアラートは軽々と振り上げて思いきり前方に突き出す。





 衝突する火と鉄。





 重量のある大盾を勢いよく前方に動かした事で生まれた突風が、巨大な火の玉をかき消した。一気に開ける視界と、しかし前方にはすでに道化師の姿は無い。





 フェアラートはその事実を確認すると間髪入れずに自身の背後に向かって右手のランスを突き出す。目視すらせぬ迷いの無い攻撃、その切っ先の向かう先には両手を広げて飛びかかってくる魔王ジェミニの姿。





 正確に突き出されたランスの切っ先がジェミニの腹部にズブリと突きささる。腹を貫かれたジェミニは短くうめき声をあげた。





 しかし暗黒騎士の攻撃は終わらない。





 突き刺したジェミニを地面に叩きつけるとその体を右足で踏みつけ、ランスを強引に引き抜く。傷口から鮮血が吹き出しフェアラートの漆黒の鎧を紅く染めた。





 グリグリと踏みつけた右足に力を込めて、逃れられないように魔王を拘束したフェアラート。右手のランスをポイと地面に投げ捨てると左手の大盾を両手で持ち直す。ググッと大盾を振りかぶり、地面に横たわるジェミニに目がけて巨大な鉄の塊を思い切り振り下ろした。





 ぐしゃりと湿った音が荒野に響き渡る。





 盾をそっと持ち上げると、そこにはグチャグチャの肉片になった魔王の姿が・・・。





「酷いことしますネェ。私の可愛い可愛いジェミニ(双子)ちゃんが死んじゃったじゃないデスか」





 ケラケラと陽気な笑い声。





 視線を上げるとそこには無傷の道化師が立っているのだった。

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