第143話 魔王VS暗黒騎士
「ふんっ・・・ふふんっ・・・ふんっ」
陽気な鼻歌を歌いながら軽い足取りで荒れ地を進む道化服の男・・・魔王ジェミニを少し離れて歩く暗黒騎士フェアラートが呆れたように見ていた。
「・・・ジェミニ殿、つい先日も主にお叱りを受けたばかりでしょうに・・・何故そのように上機嫌なのです?」
フェアラートの疑問に魔王ジェミニはケラケラと笑いながらくるりと身を翻す。
「おやおやおやぁ? わかっておりませぬねぇフェアラート殿。私は魔王である以前に一人の道化師。陰気な道化師なんて冷たい太陽のようにありえませんヨ」
ジェミニのその言葉にフェアラートは小さくため息をついた。
(・・・わかっていた事だが、やはりこの御仁とは考えが合わない。我が主の命とはいえこの御仁と二人きりのチームとはなんともやりずらいものだ)
どちらかといえば無言で淡々と任務をやりとげるタイプのフェアラートに対し、ジェミニは道化という性質上、常に目立つような行動ををする。
それにフェアラートがジェミニに対して合わないと感じるのは、何もその性質の違いだけでは無かった。
性質の違いだけで言えばこの前の任務でチームを組んだ速見も、近接戦闘と遠距離狙撃という大きな性質の違いがあった。しかし速見に対して合わないと感じたことは無い。
フェアラートは隣で陽気にステップを踏むジェミニの顔をそっと盗み見た。
白と黒でペイントされた仮面の奥にある表情を伺い知ることは出来ない。しかしそんな顔の分からぬ道化師の姿を見た瞬間、フェアラートの中で得も知らぬ不快な感情が沸き上がってくる。
何故だかはわからない・・・わからないがこの道化師と自分は決してわかり合うことなどできない・・・そう、感じるのだ。
しかしこれは敬愛する主人の命・・・ならば理由もわからぬ個人の感情を優先すべきではないだろう。
フェアラートはぶるりと首を横に振って気持ちを切り替えた。
今回の任務は行方不明の勇者の場所をつきとめる事。魔王ジェミニの能力で勇者の追跡ができるらしい。先日の戦いで彼が勇者に返り討ちにされたので戦力の補強という意味でフェアラートが選ばれたのだろう。
周囲を見回す。視界に入るのは枯れた木と草もまばらな荒廃した大地のみ・・・。
「・・・ジェミニ殿、本当に勇者はここにいるので・・・ジェミニ殿?」
気がつくと隣に道化師の姿は無く。暗黒騎士はただ一人荒廃した大地に立ち尽くしていた。おかしい、先ほどまで確かに魔王ジェミニは隣で歩いていた筈だ。今この状況・・・考えられるのは隠密性に優れた敵の襲撃か、或いは・・・。
臨戦態勢に入ったフェアラート。次の瞬間背後から強い殺気を感じて反射的に背負っていた大盾を構えた。
遅れてくる衝撃と焦げ臭い香り。構えた大盾に火の玉が衝突したのだ。
「ほっほう! 流石はクレア様の作品、素晴らしい反射神経ですネ!」
「・・・何のマネだ魔王ジェミニ」
フェアラートは怒気を込めて目の前の人物を睨み付ける。
魔王ジェミニは、そんなフェアラートを嘲るように大仰な仕草で一礼をした。
「状況が変わりまシテ・・・アナタにはここで死んでいただきます」
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