第141話 ロイ・グラベル

「ああん? 弟子だぁ?」





 セシリアはその可愛らしい顔を歪ませてロイの言葉を反芻した。ロイは深く頭を下げたまま口を開く。





「そうです。先ほどの講演を聞いて是非ともアナタの弟子になりたいと感じました」





「・・・・・・さっきの講演を聴いて弟子になりたいと感じた? お前どっか頭おかしいんじゃねえの?」





 頭がおかしい・・・確かにそうかもしれない。しかし今はそんな事は些細な問題であった。ロイは自分の頭がおかしくても正常でもどっちでもいいのだが、彼女の反応で一つ気がかりな点があったのだ。





「あの・・・もしかして頭がおかしいと魔法使いとして大成しにくかったりするのですか? もしそうでも私は一生懸命頑張るつもりではいますが・・・」





 そんなズレた事を大まじめに語るロイの姿を見て、セシリアは一瞬変な表情を浮かべた後に堪えきれないといった風に大口を開けて笑い出した。





「アハハハハハッ! 凄いなお前。本物の阿呆だよ、お前は。しかし気に入った、ここまで振り切れた奴はなかなかお目にかかれない・・・それに見たところ魔法使いに必要な素質は十分に備えてそうだ」





 その言葉にロイは顔を輝かせる。





「・・・! それでは!」





「ああいいだろう。お前を弟子にしてやるよ・・・だけどアタシは今まで弟子を取ったことのない独りよがりの魔法使いだ。誰かを一人前に育てられる自信なんていないし、素人に一から丁寧に教えてやる気も無いよ? それでもいいのか?」





 ニヤリと意地悪く口角をつり上げたセシリアに、ロイは邪気の無い満面の笑みを浮かべて答えた。





「はいっ! よろしくお願いします師匠!」


























 セシリアは魔法使いとしては超一流だったが、師匠としての才はほとんど無かったようで、ロイに対する扱いもそれは酷いものであった。





 しかしロイはそんな師に文句の一つも言わず真面目に師事していた。そして、セシリアを驚かせたのはロイの魔法使いとしての目を見張るほどの才能だ。





 ロイはセシリアの研究を隣で見る事でその技術を盗み、本棚に並べられている本を読みあさり、夜遅くまで一人で魔法の研究に明け暮れた。その魔法に対する情熱は狂気すら感じられるほどだ。





 セシリアはそんな弟子の様子を、おもしろそうに観察しながらこういった。





「精が出るなロイ。アタシはお前の頭のおかしさが気に入って弟子にしたんだが・・・どういうわけかお前は魔術の天才みたいだ。恐らくお前があと数十年研鑽を積めばアタシを超える魔法使いになれるだろう。・・・だがなロイ、前にもいったが魔法ってのは敗者になることを運命づけられた技術だ。特にお前が人間という種族である以上限界は必ず訪れるだろうよ」





 哀れむような顔を浮かべてそう言うセシリアに、しかしロイはやはり満面の笑みを浮かべて答えるのだった。





「ええ師匠、わかっています。そして・・・”だからこそ”私はこの道を選んだのですよ」


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