第131話 対談

「顔を上げよ騎士アンネ。そなたの誠意は良く伝わった」





 その言葉にゆっくりと顔を上げるアンネ。彼女が顔を上げるのを待っていたセサルは視線を合わせると深く頷いた。





「確かにそなたの言うとおり、これは人類の危機である・・・もし魔神の力に取り付かれた勇者が魔神本体を復活する術を見つけたのなら由々しき事態だ。魔神の手先ならいざ知らず、魔神本体ともなればアルフレートでも勝ちの保証は無いからな」





 何か言いたそうにしているアルフレートを、わかっているとばかりに無言で手で制したセサルは、コホンと一つ咳払いをすると言葉を続けた。





「我らは正義を掲げる騎士の国。ならば正義の為に力を尽くすのが仁義というものであろうな・・・我が刃アルフレートよ!」





 セサルの言葉に、アルフレートは一歩前に進み出て跪いた。





「お主はこれより騎士アンネと供に魔神に侵された勇者を探し出せ。人類の平和の為にその剣を存分に振るうが良い!」





「はっ! 我が主の仰せのままに! 騎士アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥ。必ずや戦果を上げて参りましょう」





 こうして騎士アンネの交渉により、史上最強の騎士アルフレートは勇者パーティと供に失踪した勇者を探す事となった。交渉が上手くいき、事態は好転したかと思われたその時王座に駆け寄ってくる嫌に慌てた様子の兵が一人。





 その必至の形相にアンネは嫌な予感を覚えた。





「報告! 西の山脈を越えて帝国より軍団が押し寄せて来ました!」





 兵の報告にセサルはその厳めしい顔の眉間にシワを寄せた。





「帝国が? 何故このタイミングで・・・」





 グランツ帝国と同じく、フスティシア王国と敵対していたドロア帝国はついこの間滅ぼしたばかりだ。





 ならば戦後の疲弊した王国を狙ったという事だろうか?





 しかし寡兵でドロア帝国を攻略した王国は、疲弊しているとは言いがたい万全の兵力を揃えている。





 それが分からないグラン帝国の女帝ではないだろうに・・・。





 セサルが難しい顔しているなか、兵の報告は続いた。





「何でも先遣隊の報告では、帝国軍は何やら怪しい兵器を大量に所持しているようです。恐らくその兵器の威力を試す為に仕掛けてきたのかと」





「怪しい兵器だと? 何だソレは」





「分かりません・・・しかし先遣隊のほとんどはその兵器によって瞬殺。生き残ったモノの言葉では、大きな破裂音がしたかと思ったら遠距離から訳も分からずに仲間が肉片にされたとの事で・・・」





 兵の報告を聞いてアルフレートがサッと立ち上がった。





「未知の兵器が相手では無駄に兵を消耗してしまいかねません。ここは私が出ます。陛下、出陣の許可を」





 アルフレートの言葉にセサルは頷く。





「頼んだぞアルフレート、お主の騎士団を使って敵を撃退してくれ」





「はっ! 仰せのままに!」





 そして退室しようとしたアルフレートにアンネが話しかけた。





「騎士アルフレート、我々も助力しましょうか?」





「いえ、お気持ちはありがたいですがアナタ方は冒険者、国同士の争いに荷担しては色々とマズいでしょう。ご安心を、すぐ戦を終わらせて参りますので」





 その顔には自身が漲っていた。





 例え敵が未知の兵器を持ち出そうと負けるなど微塵も考えていない。





 彼の名はアルフレート・ベルフェクト・ビルドゥ。





 史上最強の男なのだから・・・。











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