第66話 奇襲
アルフレートはドロア帝国へ進軍する自慢の騎士団を見て、その足並みの乱れぬ見事な行軍に満足げに微笑んだ。
負ける気がしない。
否
実際の所、アルフレートがこの騎士団の長に任命されてから一度も負けたことが無い。その常勝は騎士達の末端まで行き渡る活力となり、屈強な軍をさらに強くする要因になっている。
「しかし団長、書面など送る必要は無かったのでは? 籠城などされてはやっかいだと思うのですが」
側近の言葉は、先日ドロア帝国に対して送った宣戦布告の書面に対してのモノだろう。そもそも戦争におけるマナーなんてあってないようなモノだし、宣戦布告をしないで開戦したからとて他国にそのことを責められるような事も無い。
つまりさっさと攻め込んだ方が効率が良いのだ。
最も、宣戦布告をしなかったとしても軍で動く以上、遅かれ速かれ行軍はバレてしまうのだが。
「おかしな事を言うね。そもそも我々が宣戦布告をしようがしまいが結末は変わらないんだ・・・ならば騎士として正々堂々と戦うべきだろう?」
「・・・・・・確かにその通りですな。失礼致しました団長、私の考えが至りませんでした」
「気にするな。私はお前の働きに期待しているんだ」
なごやかに会話をしていると、息を切らした伝令兵がこちらにやってくるのが見えた。
「団長! 敵軍の奇襲です!」
その言葉にアルフレートは少し驚いたような顔をする。
何せドロア帝国とフスティシア王国の戦力差は大きい、ならば援軍を待ちながら籠城戦をするのだとばかり思っていたからだ。
「・・・何が狙いだ?」
宣戦布告をすると言うことは、相手側に準備をする猶予を与えるという事にもなる。
ドロア帝国の騎士長クリサリダ・ブーパは優秀な男と聞く。ならばこの奇襲も何かしらの策と見るべきだろう。
(ふふ、それでこそだ。それでこそ宣戦布告をした意味があるというもの・・・なんの抵抗も出来ない相手を蹂躙するのは退屈だからね)
不敵な笑みを浮かべたアルフレートは、高らかに声を上げる。
「臆するな! 我らは誇り高きフスティシア王国の騎士団! どんな敵が来ようと我らが負ける事など無い!」
それに答える騎士団の鬨の声。
アルフレートは伝令兵に向き直ると一つ質問をした。
「それで? 敵はどこから来たんだい?」
「はっ! 後方部隊が今交戦しております」
今回の部隊は国一つ落とす戦力を集めた為、かなりの大所帯となっている。
狭い道を行軍している今のような状況だと、列の中心にいるアルフレートには前方と後方の軍の状況を知ることができないのだ。
(大人数を生かす事のできないこの細道に待ち構えているあたり、相手も切れ者だな・・・だがソレは我が軍を舐めているともいえる)
「ジェームズ、行けるかい?」
側近の名を呼ぶと、彼は心得たとばかりに頷いて馬を反転させて後方部隊へと合流を計る。
ジェームズは優秀な騎士だ。
彼が合流すれば万が一も無いだろう。
そして敵の奇襲がこれで終わるとも思えない・・・。
突然飛来する矢の雨。
しかしアルフレートの周囲にいる騎士団は、皆わずかも動揺を見せずに、手にしていた盾を頭上に構えて矢を防御した。
そう、普通の相手にならこの奇襲は効果的だろう。しかしアルフレート率いる騎士団は生憎と世界最強の軍であったのだ。
自分に襲い来る数本の矢を抜刀した聖剣で斬り落として、アルフレートは部下達に向かって高らかに命令をする。
「全軍突撃!」
示し合わせたかのように騎士団は統制の取れた動きで一斉に剣を抜き、盾を構えて矢の飛んできた方向に向かって突撃をする。
草木の茂みから矢を射かけてきた伏兵が顔を出し、やがて両軍がぶつかり合って戦闘が始まった。
「さて、私も参加すると・・・・・・」
戦闘態勢に入ったアルフレートは不意に背後から放たれた殺気を感じ振り返る。そこに立っていたのは小山のような大男。
つるりとそり上げられた禿げ頭と、厳つい強面が威圧感を放っている。
高らかに振り上げられた大斧が殺意を漲らせてアルフレートへめがけて振り下ろされた。
ギラリと陽光を反射する肉厚の刃を、アルフレートは聖剣で受け止める。凄まじい衝撃が受け止めた刀身を伝って手をしびれさせるが、体格差をモノともせずに大斧をはじき返すアルフレート。
大男は少し驚いたような顔をしてバックステップで距離を取り、大斧を両手で握り直して前方に構える。
「おうおう、流石だな最強の騎士さんよ! 俺の名前はバース・アロガンシア、お前の相手は俺がさせてもらう!」
◇
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