第65話 対抗策
ドロア帝国皇帝ジョージ・フラギリス三世は、帝国の現状の危機的状況にギリリと歯を食いしばった。
「クソッ、フスティシア王国めが! まさかこんな状況で宣戦布告とは・・・」
先日フスティシア王国より宣戦布告の書状が届いた。
各地の魔王が暴れており、周辺の国家が次々と消滅していく危機的状況で人間同士で争うなど何と愚かな事か。
しかし長きにわたり冷戦状態だった両国、このタイミングとは思わなかったモノの衝突は避けられぬ事はわかっていた。
執務室の扉をノックする音が響き渡る。「入れ」とジョージが許可を出すと扉を開けて入ってきたのは待ち望んでいた頼りになる部下の姿。
帝国の若き精鋭、騎士クリサリダ・ブーパ。
対フスティシア王国における参謀役を勤めており、ドロア帝国内では唯一あの史上最強の騎士と対抗できる戦力でもある。
入室したクリサリダの鋭い眼光に疲れの色が見えているのを悟り、ジョージは少し心を痛めた。
最近はやっかいな事をクリサリダに頼りすぎている。もはや彼無しではドロア帝国の国力は数段落ちるといっても過言では無いだろう。
今の状態が良くない事などジョージにもわかっている。しかし知力にしても武力にしてもクリサリダに勝る人材が存在しないのが帝国の現状だ。
「・・・クリサリダよフスティシア王国が宣戦布告をしてきたのは知っているな?」
ジョージの言葉にクリサリダは重々しく頷いた。
「ええ、存じております」
「・・・正直フスティシア王国は強い。正面からぶつかっても勝てないだろう。クリサリダよ、お前の知恵を貸してはくれんか?」
「そうですね・・・ではグランツ帝国に共闘を持ちかけてはいかがでしょう? 共闘が成るならフスティシア王国と正面から戦わずに援軍が来るまで籠城するという選択肢が取れます」
それは妙案に思える。
グランツ帝国はドロア帝国と同じくフスティシア王国と敵対している国だ。フスティシア王国の最高戦力である、アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥを屠るチャンスだと言えばグランツ帝国にも旨みがある話だろう。
しかし問題が一つある。
「クリサリダよ、確かにその案は妙案だ・・・しかしグランツ帝国の現皇帝はあの女豹だからな・・・」
渋い顔をするジョージに、クリサリダもその人物を思い浮かべて苦笑した。
現グランツ帝国皇帝、クラーラ・モーントシャイン・グランツ。
どちらかと言えば保守的だった先代皇帝と違い、その政治は苛烈を極める。改革に次ぐ改革、戦に次ぐ戦で国民も休まる暇が無いほどだ。
それでも意外なほどに、クラーラの支持率は高い。
それは彼女の行ってきた政治のおかげで、グランツ帝国の領土が以前の数倍にふくれあがった事に起因するのだろう。
行動が読めない苛烈な鬼才。それがジョージの彼女に対する評価だった。
「・・・確かに、あの女帝であれば共闘の誘いを拒否する可能性がありますね」
先代であれば間違いなく共闘すると言えるのだが、流石のジョージも戦争の勝敗を左右する重大な戦力をあの予測不能な女に頼ることはしたくなかった。
「一応共闘を依頼する書状は送っておきましょう。共闘できる可能性も無い訳ではありませんしね・・・・・・拒否された場合を考えてもう一つ策を用意しましょうか」
苦笑しつつもいくらか余裕のある表情で進言するクリサリダにジョージは「ほう」と関心の声を上げた。
即座に次の手を考えることができるとは、やはりクリサリダの頭脳は頼りになる。
「それはどういった策なのだ?」
「・・・そうですね、あまり使いたくは無い手なのですが・・・・・・」
若干間を置いてクリサリダは口を開いた。
「・・・陛下、史上最強の騎士を討つ為にこの城を捨てる覚悟はおありですか?」
◇
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