第27話 フリードリヒ・パトリオット
「進めぇい!! 魔王城はすぐそこぞ!!」
腹の底から響くような低音の大声。
それに呼応するかのように兵士達の鬨の声が戦場に響いた。
数年前突如現れた魔王カプリコーンは、その居城をアヴァール王国のすぐ近くに構え、膨大な数の魔物を使って侵略を開始した。
突然の襲撃に完全に不意を突かれたアヴァール王国は必死に抵抗するもじりじりと追い詰められ壊滅寸前。
そんな危機に帰ってきたのが王国最強の兵士、フリードリヒ・パトリオット将軍の率いる軍団であった。
他国へ長い遠征に出ていたフリードリヒ将軍は祖国の危機を知るとすぐに軍団を整えて魔物を迎撃。そのたぐいまれなる指揮能力で、あっという間に前線を押し上げた。
これを好機と見た国王は将軍に魔王城への進軍を指示し、まさに今、彼は魔王城の目の前までやってきていた。
「魔王軍恐るに足らず!!」
勇ましく闘志を燃やすフリードリヒ将軍。
銀色の輝きを放つフルプレートの金属鎧を身に纏い、左手には大盾。右手にはランスを装備している。
馬用の鎧を身につけた愛馬がその巨体を躍動させ、前へ前へとその身を進める。
邪魔する魔物はランスで突き刺し、左手の盾で殴打し、巨馬の蹄が蹂躙する。
その姿まさに無双。フリードリヒ将軍の突進を止められる魔物など無く、その勇ましい姿に味方の兵も鼓舞される。
そんな快進撃が続く中、有象無象の魔物の群の奥から一際巨大な魔物が姿を現した。
「我こそは魔王軍四天王が一人。豪腕のブル!! 勇ある者ならばこの俺と一騎打ちで勝負だ!」
豪腕のブルと名乗った魔物はまっすぐにフリードリヒを見据えていた。劣勢なこの状況を覆すために前線に送り込まれた猛者なのであろう。
牛の頭に人の体。手には巨大な鉄の棍棒を持っており、その盛り上がった筋肉がブルの怪力を悟らせる。
一騎打ちとあらば将軍であるフリードリヒが逃げるわけにはいかない。この勝負で勝てば味方に勢いがつき、さらに敵に動揺を与える好機なのだ。
「その勝負受けて立つ! 我こそは栄えあるアヴァール王国将軍、フリードリヒ・パトリオット! 参る!」
ランスを構えてフリードリヒは愛馬を走らせる。
馬の機動力でそのまま突き殺そうとしたその時、ブルが鉄の棍棒を真横に振り抜いた。
豪腕の二つ名を持つブルの一撃は、重いフルプレートの鎧を身につけたフリードリヒを、その乗っていた巨馬ごと吹き飛ばした。
咄嗟に受け身を取り、ごろごろと地面を転げるフリードリヒ。勢いが落ち着いたところでパッと立ち上がって周囲を見回し状況判断を行う。
馬はもう駄目そうだ。先の一撃で力なくぐったりと倒れている。そしてランスと盾は数メートル先に落ちているが、それを拾っている余裕はなさそうだ。
棍棒を振り上げ、再び迫り来るブルの姿を見てフリードリヒは腰を低くして戦闘態勢を取った。
振り下ろされた棍棒を右斜め前方へ転げて回避。立ち上がりブルの太い左足に組み付くフリードリヒ。
「うぉおおお!!」
全力を込めてブルの足を引きながら強烈な体当たりを喰らわせる。たまらず横転したブルに馬乗りになり、フリードリヒは鉄の籠手で覆われた拳を握りしめ、彼の牛面に思い切り叩きつける。
グシャリと硬い物で肉を打つ感触が伝わり、ブルが鼻血を吹き出した。間髪入れず二撃目、三撃目の拳を振るう馬乗りになったフリードリヒを、ブルは人外の膂力で振り落とした。
「舐めるな人間!!」
仮にも魔王軍が四天王の一人。人間の腕力で抑えきれるような存在ではない。
しかし立ち上がったブルが見たのは、地に落ちた盾とランスを拾い上げ完全武装を整えたフリードリヒの姿であった。
「舐めてないさ。むしろ私を舐めてたのはお前の方だ魔王軍四天王豪腕のブル」
そして大盾を構えると、それに身を隠すようにして突進してくるフリードリヒ。
ブルは下らないと笑い、その盾めがけて棍棒の一撃を打ち込んだ。
強大な力を前にはじき飛ばされる大盾。しかしすでにフリードリヒは盾を手放してブルの側面に回り込んでいる。
「馬鹿な!?」
先ほどの突進は盾を目隠しにした罠だと気がついたブルが焦ったような声を上げるがもう遅い。
ランスの鋭い一突きがブルの心臓を抉った。
「うぉおおおおお!!」
フリードリヒが勝ち鬨を上げると、味方の兵達もそれに答えるように大きな声を上げて行軍した。
そう、舐めていたのはブルの方だったのだ。
ブルはフリードリヒの事を”人間”としか見ていなかったが、フリードリヒはブルを一人の武人として最大級の警戒を持って戦った。
実力に差の無い二人の勝敗を分けたのはこの意識の差であろう。
フリードリヒはそのまま進軍しようと駆け出し・・・どこからか飛んできた青白い矢に肩を打ち抜かれた。
「!? ぐぉお!?」
そのまま転倒するフリードリヒ。
彼の身につける鎧は非常に分厚い金属で作られており、間接部分を狙いでもしない限り矢など通りはしない。両手剣の一撃すら耐えて見せるほどだ。
しかしどこからか飛んできたこの青白い矢はいとも簡単に鎧の肩部分を貫通し、そのままフリードリヒの巨体を転倒させるほどの威力を持っていた。
「何事・・・だ?」
そしてフリードリヒが見たのは頭上を埋め尽くすほどの青白い矢の雨だった。
◇
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