世界を救う為に世界を滅ぼす人達の話

まほうつかい

プロローグ

「俺には…世界を救えないのか…ッ!?」


全身から血を流し、死にかけた青年ゆうしゃが言う。


「そうだ、誰にも救えない。」


その青年を空中から見下ろす人が言う。

その二人の周囲には青年の仲間であったであろう人たちの無数の屍が積まれていた。


「私にはまだまだ次がある、手早く終わりにしよう。

好きなだけ恨むがいい、キミ達にはその権利が十二分にある。」


人は自身の背後に浮かんだ後光を起動する。

熱の無い苦痛が荒野を蹂躙していく。

その圧倒的な力の前に全ては無力だった、

僅かに生き残った英雄たちも死んでゆく、

歴史が、

時間が、

無かった事になる。

海が消える、

地が割れる、

空が落ちる、

世界の滅ぶ瞬間、

それを滅天刻めつてんこくと呼ぶ、

こうして"また"一つの世界が終わった。


あらゆる世界の外、そらへと戻ったその人は、

銀色の髪の下で悪趣味なデザインのマフラーを外しながらため息をつき、

独り言を呟いた。


「はぁ、これじゃあ誰がどう見ても悪役なんだよなぁ私。」

「そりゃ積極的に世界滅ぼす奴が正義の味方な訳無いでしょうよ暮橋明日香くれはしあすかさん?」

「そういうお前は空亡遥そらなきはるか、何だ急にフルネームで私を呼ぶなんて、割と普通に気持ち悪いぞ。」


空亡 遥と呼ばれた黒い髪の青年は辛辣な一言を聞き流し話を続ける。


「最近破壊する世界の数が多くなっている、

世界の成長領域に制限をかけた奴はまだ見つからないの?」

「残念だけど手掛かりナシ、お手上げだよ。」

「という事はまだ世界の枝同士が干渉しないように世界を滅ぼし続けるしかないのか…」

「そうだね、ところでキミの嫁のトーシャや十三の魔女達からも情報は無いの?」

「殆ど無し、鍵の少女が歴史の進行に微弱な遅延を確認したってぐらい。」

「それ結構重要なんだけど。」

「マジ?」

「まぁ、それはそれ、ところでほら、気がついたかい?」

「何を?」




暮橋明日香が"あなた"を視る。




窓外の観測者そうがいのかんそくしゃがこちらを覗いているようだ。」


「僕が感知出来る訳無いだろう、それに彼もしくは彼女らにこちらへ干渉する手段は無い。」

「まぁまぁ、折角だ、状況整理も兼ねて観測者達に今までの経緯を説明しようじゃないか。」


明日香周囲を歩きながらあなたに向かって得意げに説明を始める、

「世界は無数に枝分かれをしながら成長していく、それは巨大な大樹、あるいは血管のように。

根幹となる世界線、私達は基準世界と呼んでいるそれから無数のもしもの世界線"分岐世界"に枝分かれする、世界は無限に成長し続けるはずだった、私がそう"定義"した。」

「コイツが無秩序から世界の法則を設定したんだ、重力はこう働く、時はこう進む、みたいに。」

「けれどどこかのお馬鹿が世界の成長範囲に制限を設けた、ついでに私達も閉じ込めた透明なドームの中に。」

「そのドームを破壊する方法、そして作った馬鹿を探し出すのが今の僕らの目的だ。」

「だがその間にも世界は成長し続ける、キミ達の世界ももちろんそうだ、だが閉じ込められた枝達は近づきすぎた、融合を始めてしまったんだ、これが非常にまずい。」

「それぞれの歴史や法則が全て滅茶苦茶になり、腐り、それはやがて根まで至る、そうすれば今度こそ全ての世界が全滅、ゲームオーバーだ。」

「そうならない為に前もって干渉しそうな世界を滅ぼし、枝を折っているという訳だ。」




私達は


世界を救うために


世界を滅ぼしている。

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