第14話さよなら辰巳くん……どうか死なないで(やめろーっ!! 縮地ーっ!!)

午前中最後の講義が終わり、俺と遠藤寺は一緒に講義室から出た。


「今日の弁当は何かな? 最近はこれが楽しみで楽しみで」

「……すっかり幽霊に餌付けされているね」


遠藤寺が呆れたように言うが、こればっかりは仕方がない。

エリザの作る食事は本当に美味いのだ。

生活費を切り詰める為に、安くて品質が悪い食材を使っているのにも関わらずだ(たまに大家さんがいい食材を差し入れしてくれる)

どうしてこんなに美味いのか、本人に聞いてみた。


『美味しさの秘訣? ん~とね。それはその……あ、あ……愛、かな? ……にゃ、にゃんちゃって!』


とか言ってた(顔真っ赤にして)

それを聞いた俺は笑いながら『そっか。ありがとな』なんて言いながら頭を撫でてたけど、内心心臓バクバクして枕に顔を埋めてバタバタしたかった。

エリザの乙女っぷりも相当だが、俺のもかなりのものだと思う。


「はぁ……エリザたんギザかわゆす」

「あまり言いたくはないけどね、人間じゃないものに肩入れし過ぎるのもどうかと思うよ。物語の中でも人間と人外の関係は悲しい終わり方をするのが常だ。それよりももっと生身の人間に目を向けた方がいいと思う。……例えば、すぐ近くにいる……ボクが言いたいことは分かるだろう?」

「え、なんだって?」

「……」


お、遠藤寺の唇がわなわな震えているぞ。

珍しい反応だ。脳内HDDに保存しとこーっと。


遠藤寺は何かを諦めるようにため息を吐いた。


「……ふぅ。ところで今日の夜は暇かい? 依頼人からいいワインがある店を聞いたんだけど」

「たつみお金ないでち」

「この間の依頼の報酬で奢るよ。そもそも君と一緒に飲みに行って君に支払わせたことがあったかい?」

「……いつも、その……ありがとう」


ここで衝撃の事実判明。実は飲み会に行くと毎回遠藤寺に奢ってもらっているのだ。

参ったな……俺の株、爆下がり過ぎ? え、もともと底辺? あ、そうですか。


「では6限が終わってからいつもの場所で。さて、食堂に行こうか。今日のうどんは何にしようか……」


こころなしか嬉しそうな遠藤寺の背を見ながら、食堂へ向かう。

遠藤寺が廊下の角を曲がり姿が見えなくなった瞬間――俺の背に何か硬い物が押し付けられた。


「――そこで止まるのデス」

「ひ、ひぃっ」


反射的に立ち止まり、ポケットから財布を取り出そうとする。


「動くな、デス。お金はいりません。こちらの言うことを聞く、それだけデス」

「は、はい! 何でも聞きます! だから殺さないで……!」


まさか平和な大学の構内で背中に硬い物を押し付けられるとは、誰が思うだろうか。

白昼堂々、小学生女子のスカートを捲りあげる変態が現れる世の中だ、大学に強盗が出ることもあるだろう。


「た、助けてぬ~べ~…!」


学校だし、一番可能性のある救世主を呼んでみたけど、来なかった。ドラマ出てくるから忙しいもんね。


俺は強盗の言う通り、身動き一つとらなかった。

俺は英雄じゃない。テロリストを撃退する妄想はすれども、実際に行動に移す実力を伴ってはいない。

蛮勇犯すは愚か者なり……惨めでもいいからガンガン命乞いをしていのちをだいじに!(今作った格言)

何でもいいから生きて帰りたいよ! 生きて帰ってパインサラダを食べたい!


「フフフ……素直な一ノ瀬後輩は好きデスよ」


耳元に吐息が伝わる距離で、強盗が囁く。

くっ、一体誰なんだ……この硬い物とは別に押し付けられる柔らかい双山から察するに、相手が女性であることには違いないのだが、しかも相当大きなお山の持ち主。

……あれ? 相手女の子? だったら余裕じゃん。俺って生物学的にはいわゆるメン(男)だし、いくら何でも女の子には負けないし。


ククク、俺を捕えたと思って安心している強盗よ――俺の美技に酔いしれるがいいッ!


「一ノ瀬流奥義サンダークロス――」

「あ! 動いてはダメと……えいっ」

「な゛の゛です!」


相手の防御を無効化しつつ必殺の一撃を放つ奥義を出そうとした瞬間、薄暗い廊下をプラズマ現象の様な光が照らし、俺の全身を稲妻が駆け抜けた。

ビクンビクンと体が痙攣し、その後廊下に倒れる。。

ゆか……つめたくてきもちいい。綺麗だわ……天井。


「全く、動いてはダメと言ったのに……仕方がない後輩デス。部室まで運びましょう」


うっすらと薄れていく意識と、引きずられていく体。

俺は願った。

どうか後ろの処女だけは勘弁して下さい、と。



■■■


父の遺した宇宙船『縮地号』に乗り、愛犬縮地丸と宇宙を旅するタツミ。

住人の口と肛門が人間とは逆という衝撃的な惑星を発ち、次なる惑星を目指す。

そんな時、旅の途中に発見した『イベントホライゾン号』に残されていたロボット『マーヴィン』が起動、暴走を始めた。


「わんわんわーん(パンドラム症候群だわん!)」


何とかマーヴィンを取り押さえ、その辺に捨てたタツミ達。

だが、暴走による損害は大きく、近くの惑星に墜落してしまう。


「わんわんわん!(助けてヨーダ!)」


墜落した惑星には、遺跡が一つあるのみ。

遺跡に書かれている文字は解読できなかった、一つの言葉以外は。


その言葉は――『マタタキ』


タツミ達は遺跡の奥で眠る1人の少年を見つける。

少年はタツミと同じ容姿をしていた。


「わんわん!?(ご主人と同じ顔!?)」


タツミが少年に触れた瞬間、光が溢れた。

少年が目を覚ます。


「俺の名前はタツ・ミ。――世界を破壊する縮地破壊神マタタキのパイロットだ。お前は……そうか、お前がこの世界の俺か」


胎動する遺跡、遺跡はその姿変える、その姿はまるで――破壊の神。



※※※※



(一ノ瀬辰巳の脳内)で絶賛連載中の2作品がまさかのコラボレーション!

この世界もマタタキによって破壊されてしまうのか? それとも真の黒幕が現れ何やかんやで二人が手を組むのか!


劇場版一ノ瀬辰巳脳内劇場『縮地機械神マタタキVS縮地号~ビューティフル・ドリーマー~』同時上映『大家さん12歳の夏休み』

公開日未定! 公開場所未定! 来場された方には漏れ無く『エリザちゃんとお風呂で一緒ポスター』『肉屋のおっさんと巡る温泉旅行2泊3日券』をプレゼント!

続報を待て!





■■■



「エリザと温泉旅行の方がいいなぁ……」


一瞬脳裏に映った肉屋のおっさんお風呂ポスターを焼却処理し、俺は目を覚ました。


周囲は闇に覆われており、一切の光がなかった。

体を動かそうにも、椅子に座った状態で縛られているようで、全く身動きが取れなかった。

だが、不思議と不安感はない。それどころかこの闇に心地よささえ感じている。

恐らくは俺が『闇』に属するものだからであろう。闇に生きてきた俺にとって、暗闇は味方だ。

何より仮に全裸でいても、通報されないというのが素晴らしい。

ここだけの話、裸族(自分の部屋では基本全裸の種族)の俺にとって、全裸こそがもっとも落ち着くスタイル。

エリザが来てから、そのスタイルが貫けなくなったが……これはチャンスじゃないか?

いまがそのときじゃないか?

これを逃したら、もう全裸でいる機会なんて風呂の中くらいじゃないか?

ええい、ままよ! 俺は今、限りなく自分になる!


「キャストオフ!」

「目覚めて第一声がそれデスか……相変わらず面白い後輩デスね」


闇の中から、滲みだすかのように聞こえる女性の声。

その声は俺の正面――正確には縛られているせいでズボンを半分ほどしか脱げなかった俺の正面から聞こえた。


「フフフ……ようこそジプシー、我が神秘のサークルへ」


ぼぅ……とロウソクの火が灯り、声の主が見えた。

黒いローブを被り、その顔は目から下しか見えない。

だが俺は知っている。我々はこの女性を知っている!

ていうかこのパティーン5回目くらいなんですよね……。


「あのパイセン、スタンガンでビリッとやって拉致るの、マジ勘弁して欲しいんですけど……」

「スタンガンではないデス。『闇ノ雷撃柱』――かつて雷神トールがミョルミルと共に使ったとされる神器デスよ」


俺アベンジャーズ見たけど、そんな防犯グッズ出てなかったと思う。


「ていうか、マジで命に何らかの別状がありそうなんで……」

「大丈夫デス。これは体には無害デスよ。愛すべき後輩に害する物は使いません」


その口調でダイジョウブデースって言われても、全然大丈夫じゃなさそう……。もし何かあっても人生はリセットできないんですよ? サクセスモードも。


「つーか普通に呼んで下さいよ。何であんな強盗じみたことするんですか?」

「一応授業が終わってからという配慮はしましたよ。……それに、この格好で明るい場所で話かけるのは少し恥ずかしいのデスよ」


もじもじする先輩。

だったら着なきゃいいじゃん! と言っても聞かないんだろうな。キャラだって言われたらそこまでだし。

俺だってマフラー外せって言われても外さないしな。俺の場合外せないんだけど。


「で、用はなんですか? 定例会合この間したばっかりですよね。俺腹減ったんで、飯行きたいんですけど」

「おやおや、いつから会合が定期的なものだけだと錯覚していました? 今日は緊急会合デスよ……フフフ。緊急時に突発的に開かれる会合、それが緊急会合デス」

「そんなんあったら、俺安心して大学歩けないんですけど」


嫌だ……何で背中を気にしながら日常生活を送らなければいけないんだ……。

仮に俺がモテロード爆走中で、七股修羅場道(ナナコチャンペロペロ)を流出(アティルト)していたなら、甘んじて受け入れるけどよぉ。

見つからないもん! モテロードないもん! もう人間界にモテロードは存在しないと薄々感じている今日この頃。天国か地獄、はたまた来世に存在しているのでは?と脳内議会ではそんな意見も。この意見が可決され次第、明日への扉~next life~に飛び込む所存です。


「まあ安心して下さい。緊急会合はそんなに頻繁にはありませんよ。せいぜいワタシが突然一ノ瀬後輩に会いたくなった時だけデス」

「つまり予測は全くできないってことじゃないですか! ヤダー!」

「……ふむ。分かりました。これからは緊急会合を行う際は、5分前にLINEで知らせるとします」


譲歩したったで、と言いたげな先輩。どちらにせよその5分間は地獄なんですけど。

……いや、待てよ。つまり言いかればその5分で先輩が確実に現れるというわけだ。

たまたま! たまたま俺がトイレでお花を摘んでいたら? どうなる? ねえ、どうなっちゃうの? ゼロはこんなこと教えてくれないだろうし、実際にやってみるしかないな!

あくまで知的探求ですけどね。


と、俺が知的探求という名のムフフイベントについて思いを馳せていると、俺のお腹からかなり前に流行った女性芸人のギャグの様な音が聞こえた(表現が周りくどい)


「……おや、今の音。もしかして一ノ瀬後輩、空腹を感じているのデスか?」

「そりゃそうですよ。もうお昼時ですよ、つーかさっきも言いましよ」

「空腹、デスか。ワタシには無縁なものデス。ワタシは悪魔に魂を売った身、そういった人間的な欲求が非情に希薄で……」


『くおえうえーーーるえうおおお』


先輩の言葉を遮り、先輩のお腹からそんな音が聞こえた(マジで)


「おや、今の音は? 先輩、もしかして……空腹を感じて」

「違います」

「ですが今の音は」

「き、気のせいデス! 幻聴以外のなにものでもないデス!」

「幻聴ですか、でも……」


俺はテープレコーダーを取り出し、数秒前録音した音を再生した。


『くおえうえーーーるえうおおお』


こんな音が再生された(マジで)


「や、やめなさい! やめるのデス! いや、その前に何で録音をしているのデスか!? 意味が分からないデス!」


そりゃまあ、いつか法廷に出た時の為に……というのは冗談。

ここだけの話、俺はそこまで仲が深くない相手と会って会話をする時、こうやって会話を録音している。

何故かって? そりゃ家に帰って、自分の発言に変なところがなかったかを確認する為だ。

みんなやってるだろ? で、ああこの時こう言えばーってバタバタするじゃん?


『くおえうえーーーるえうおおお』


「あははは」

「何を笑っているのデスか!? そ、そんなに人のお腹の音がおかしいのデスか!」


珍しく先輩が余裕を失っている。こりゃいいな。電撃の仕返しといこう。


『くおえうえーーーるえうおおお』

『くおえうえーーーるえうおおお』

『くおえうえーーーるえうおおお』


「ちょ、やめっ、連続再生はやめっ……フフッ」

「あれ? 先輩今笑いました?」

「わ、笑ってなどいないデス。ワタシは悪魔との契約により喜びという感情を『くおえうえーーーるえうおおお』ブフッ! や、やめて……!」


先輩はローブの袖で口元を隠し俯いているが、体の震えから笑っているのは確定的だ。

ひゃあ! たまねえたまんねえ! もっとだ! もっと倍プッシュだ!


『くおえうえーーーるえうおおお』

『くおえうえーーーるえうおおお』

『くおえうえーーーるえうおおお』


「や、やめてっ……お、お願いだからやめてっ……何でもするから……っ」


ん? 今何でも(ry。じゃあもっと押そうか。


『くおえうえーーーるえうおおお』

『くおえうえーーーるえうおおお』

『くおえうえーーーるえうおおお』

『くおくお、うえうえ、くおうえーーーるえうおおおるえう……うおおおおおおおおお!』


「ラ、ラップ調っ……にっ、しないで……!」


『うおおお! うおおおお! くおおおおお! くるおおおおお! くえるおおおおおおお!』


「わ、分かったからっ……もうワタシの負けでいいから……!」


よし最後のトドメだ!


『くおえうえーーーるえうおおお』

『くおえうえーーーるえうおおお』

『くおえうえーーーるえうおおお』


『――たす、け……て』


「「!!!?????」」




■■■




捨てた。


「さて、何の話だったでしょうか」


先輩がしきり直すように、両手を叩き言った。

その目は不自然なほど、部屋に隅にあるゴミ箱を見ていない。俺、今日は神社でお祓いしてもらおーっと。


「お腹が空いたって話ですよ。もう1時っすよ。先輩も空いたでしょ?」

「……ワタシはほら、悪魔の契約で……感情がアレで」

「この間の飲み会でカマコロ(カマンベールコロッケ)8つも食べてたじゃないっすか。その後ラーメンも」

「あ、あれは違います。悪魔との契約によって、定期的に食物を多量に摂取しなければならない時期があって、たまたまあの日がそれに該当したのデスよ」


この人の設定、かなりガバガバなんだよなぁ。そこがいいんだけど。


「俺弁当あるんで、食べていいですか?」

「ええ、構いませんよ」

「じゃ、縄解いて下さい」


実はまだ縛られていたりする。

縛り方が上手いのか、縄がいいのか分からないが痛みは全くないが。

……まさか、あのローブの下……いやいや、まさか、そんな……まさか、ね

だが可能性は否定できないので、寝る前行われる今日の一ノ瀬脳内議会の議案にあげておこう。

今日の議案はこれと『はたして大家さんは処理をしているのか』か……。主に『している。している所を目撃してしまい、涙目にしたい』『してない。というかそもそも生えてないし、生える予定もない。そのことを言及して涙目にしたい』の意見が対立しそうだが……ここで俺もひとつ『処理は処理でもあっちの処理は?』という燃料を投入して、議会を荒らすか……。フフフ、今日の議会が楽しみ。


さて、腹の虫も無視できなくなってきたし、さっさと縄を毟りとってもらうか、このままじゃ蒸し焼きになってムスっとした表情を浮かべてしまうぜ(少し苦しいけど5コンボ達成!)


「それは無理デスね」

「は?」

「解いたら逃げるでしょう?」

「はい!」

「フフフ、素直デスね」


だってこの部屋辛気臭過ぎるもの! 先輩とこそこそ駄弁る時はいいけど、飯くらい日の当たるところで食わせてくれや!


「だったら、どうやって食べろと? ま、まさか犬のように……?」

「いえ、流石にそこまで外道なことが言わないデスよ……」

「だったら、ハイエナのように……?」

「一ノ瀬後輩? 大丈夫ですか? な、何か悪い物でも食べたのデスか?」


おっとイカンイカン、先輩がちょっとヒいているぞ。

美少女に命令されてそういうことをするって願望もあるにはあるけど、俺の中でかなりレベルが高い欲望だ。まだお前が出てくるのは早い。いずれ、な。


「ふむ。ではそうデスね……。この間の約束を果たす、というのはどうでしょう?」

「この間?」

「前回の会合、一ノ瀬後輩が幹事をしたあの時の約束デスよ」

「や、約束?」


首をかしげる俺。

先輩はローブから見える顔の部位をうっすらと赤く染めた。


「あ、あの時後輩は嫌がるワタシに無理やり口を開かせ、ワタシの口にたこわさをねじ込みました……まさか忘れたとは言わないデスよね?」


無理やり口にたこわさ? なにそれ? え、何かの隠語? たこイコールが成立する隠語ってなーんだ?

いやいやいや、待て待て待て。

思いだそう……記憶分野ちゃん頑張って!

擬人化した記憶分野ちゃんがグッと親指を立てた。

おっ。もう見つかった? なに? アルコールによって映像データが破損している? 音声だけ? 

まあいいわ。よし再生。


『ほら、先輩っ、たこも食べなきゃ! わさわさ食べなきゃいかんでしょうが!』

『一ノ瀬後輩……ちょ、ちょっと近いデスよ』

『何が近いんですか! 駅までですか!?』

『うーん、まさか一ノ瀬後輩にこんな積極的な一面があったとは……普段間に感じている壁が嘘のようデスね……フフ。……ちょ、ちょっと一ノ瀬後輩、それはワタシの箸で、ちょっと……ちょっと待って』

『ほら口開けて下さいよ! できるできる! 先輩ならできる! お米食べろよっ!』

『いや、それたこわさ……恥ずかしいデス……は、恥ずかしいってば、もうっ、仕方ないなぁ……』


音声が飛びます。


『先輩どうですか? おいしいですか?』

『……はい、デス。じゃあそろそろ箸を……』

『追撃のセカンドブリット!』

『……デス。もぐもぐ……そ、そうデス! 交代! 交代しましょう! 次はワタシの番デス!』

『ずっと俺のターン!』

『……むむぅ。わ、分かった、分かったてば。その代わり! 次! 次の会合の時はワタシがするからね! いい?』

『や、優しくしてくれるなら……』

『じゃあ決まりね! ……ふふっ、楽しみ』


音声再生を終了します(リピートします?)

しない。


え? 誰コレ? 誰コレって誰と誰? え、もしかしてこの男俺?

え、全く覚えてないって言うか……いつも遠藤寺と飲み会行っても途中で記憶飛んでたけど……。

え? 俺こんなんなの? 酒飲んだらこんなのなの? 教えてハニー!

いや、落ち着け。

それよりも相手はデス子先輩か? デスデス言ってるからそうだと思うけど……本当に?


マズイ、これ以上考えると闇に飲まれそうだ。帰ってゆっくり考えることにしよう!


「じゃ、おつかれーっす」

「どこに行こうと言うのデスか? さて、これが一ノ瀬後輩のお弁当デスね」

「ああっ、いつの間に!」


テキパキと目の前のテーブルに弁当が広げられる。

うわぁ、エリザのお弁当おいしそーう。桜でんぶのハートマークだー。

ハートの中心にYESって書いてあるけど、何がYESなのか意味が分からん……。辰巳君の食べっぷり、イエスだね!ってこと?


「……一ノ瀬後輩、確か一人暮らしだったと思うのデスが」


いつの間にかすぐ横に椅子を移動して座っていた先輩が言った。

その声は、不安と警戒心が混ざったような問いかけるような声色だった。


「はい、1人暮らしですけど」

「デスよね。……もしかしてデスけど、多分ありえないとは思うのデスけど……一ノ瀬後輩には付き合っている女性がいたり……するの?」

「いや、最近めっきりごぶさたで……」

「……付き合っている、おと――」

「それ以上はいけない!」


何がいけないって、色々いけない。

それが疑われた時点で真実じゃなくても、俺はとてもショックを受けてしまう。

具体的に言うと、今年いっぱいは大学に来れないほどに。

家でイカちゃんを愛でながらエリザを眺めて『利根ちゃん可愛すぎて足の間をくぐり抜けたい艦隊』でランキングトップに君臨する未来が見える……!

それもそれで……。


「付き合ってる男女、動物、無機物はいません! 妄想の中で上○彩と付き合ったことがあるだけです(しかもピュアな付き合い)」

「そっか。……ん? つまりこれは一ノ瀬後輩が作ったもので……あっ」


何か凄まじい誤解をされた気がするが、男と付き合っていると思われるよりマシだ。


「……可哀想な一ノ瀬後輩。せめてワタシが食べさせてあげることが、慰めになるでしょう……」

「え、何か同情されてる?」

「はい、口開けて……あーん」

「あ、はい」


この後めちゃくちゃあーんされた。



■■■




「……ふむ、今日の会合はここまでにしましょうか」


いつも通りテーブルを挟んだ正面に座り、組んだ手に顎を乗せながら言う先輩。

その表情が暗闇ながら、何かをやり遂げた満足感に満ちていた。

対する俺は先輩の手が尋常じゃなく震えていた為にできた口内の傷で、口の中がカーニバルだよ!

まあ美少女の先輩にあーんしてもらったんだ。これで満足するしかねぇ!


しかし、会合って飯食っただけじゃねーか!

その為に俺先輩のサンダー(物理)食らったわけ?


「フフフ……」


しかし先輩を糾弾することはできない。だってあんなに満足そうなんだもの。


「では……」


先輩がパチンと指を鳴らした。

俺を縛っていた縄がスルリと落ちる。


「いや、ナンスカ今の?」

「フフ、闇の力のちょっとした応用、デスよ」


ドヤと言いたげな口元。是非ともその技、教えていただきたい。俺、その技で戦った相手の女の子の服だけを細切れにするんだ……え? ただし真っ二つ?


「じゃ、俺授業あるんで」

「はいはい。しっかり学び、単位を落とすことのないように。試験前には顔を出さなくてもいいデスが、1度は来るのデスよ」

「えっと、何でですか?」

「過去問を渡す為デスが……何か?」


その時、初めて先輩が先輩だったことを思い出した。

何を言っているか分からないと思うが、フィーリングで分かって頂きたい。


俺は立ち上がり、扉へ向かった。

扉を開ける寸前、先輩が言った。


「おっと、一応言っておきますが、今日の集合時間は18時デスよ」

「集合? えっと……え?」

「会合、デスよ。前にも言ったはずデスよ。昼の会合があった日には夜の会合……あなたの言葉で言うなら『飲み会』、があると」

「いや、聞きましたけど……今日のって緊急会合、ってやつですよね?」

「緊急だろうがなんだろうが会合は会合デス。先輩命令デス、分かりましたね?」

「はぁ……」


先輩命令なら仕方ないか。それに先輩と飲むの楽しいしな。

ただ、ちょっと飲む量を考えた方がいいかもしれない。

今まで飲むだけ飲んで酒の酔いに流されていたけど……記憶が無くなるのってよく考えたらヤバイんじゃないか?

少し自重しよう。遠藤寺と飲みに行く時もな。

でも遠藤寺めちゃくちゃ飲ませて来るんだよなぁ……しかも何かを期待するみたいな表情で。


酒は飲んでも飲まれるな。闇の力にも呑まれるな。時代という名の激流に飲み込まれ、僕たちは生きていく。飲み込まれた後に待ち受けるのは希望かそれとも(今日のポエム)


しかし何か忘れているような……。

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