第22話 一般人から見た景色(裏話)


『おい、知ってるか? この場所と、一切の連絡が取れなくなっているらしい』


 ネットの掲示板で、一つの写真が投稿される。黒い球状の、霧みたいなもので覆われた都市の写真。

 場所は、東京二十三区の中でも、住宅地が多く特徴的なものは少ない都市。その一部、半径一キロくらいが、水彩画のように淡く黒い色で塗りつぶされたようになっている。


『今、SNSで急速に拡散されてるやつじゃん。まだテレビとかでは、何もないけど』

『ミリ速(ミリタリー速報)だと、すごい情報があるよ。周辺で、米軍の無人偵察機が飛んでいたらしい。その投稿がすぐ削除されて、でも見た奴が大勢いたから、そっちも拡散してる最中』

『この中とは、一切の連絡が取れないらしいけど、新しい兵器でも使われたのかな? この黒いのも、核攻撃による煙だと言われても信じるよ』

『あ、テレビでもやり始めたぞ。ただ、上空は封鎖されてるみたいで、ヘリとかの撮影は不可らしい』


 この時代、何かが起これば民間レベルで、憶測を含め多くの情報が出回る。それらを統制しようとしても、回る速さの方が上回り、止める事は不可能に近い。


『またミリ速の情報だけど、横須賀から特殊車両と、米海兵隊の輸送ヘリが一機、発進したらしい。あと、周辺で特殊部隊みたいな集団を見かけた奴もいるって』

『興味はあるが、スレ違いじゃないか? あと、自衛隊と警察による封鎖とはニュースになっているが、なんで米軍が出てくるんだ?』


 事故なのか災害なのか、およそ三万人の人間と、一切の連絡がつかなくなって二時間あまりが経過していた。周囲は、誰も見たことが無いような状態で、厳戒態勢とも取れる封鎖が敷かれていた。

 侵入しようと試みるも、入った者が出てくることもなかったと、嘘か本当か分からないニュースも入ってくる。


『暇人って、どこにでもいるんだな』

『それは、ブーメランになるぞ?』


 この世界で、誰もファンタジーな事が起こったと、推測する者はいない。これは『異世界』の『魔王』が起こした事件で、魔法や異能なんていう要素が絡んだモノであるなどと。

 それは、自然科学の発達とともに、人間が『理解できない事を無くそう』と努力した結果だとも言える。人魂という現象だって、土地によって原因は異なるものの、可燃性のガスが発火した現象だったり、プラズマが発生したからだと唱える者もいる。


『というか、テロだとか攻撃と言われた方が、みんな納得しやすいよな。どこかで、声明は出てるのか?』

『いや、それらしいものは確認できてないね。表に出てないだけかもしれないが』


 自然現象では、あり得ない事が起きている。なら、人為的に引き起こされたものであってほしいと、多くの人は願ってしまう。正体も目的も分からない敵がいるよりも、目に見える人間が起こした現象であった方が、少なくとも安心するだろう。


『本当に、何なんだろうな。世界の終わりが来たと言われても、信じてしまいそうだよ』


 自然災害が多い国だからなのか、身内が行方不明になったという者を除けば、大抵は冷静に事態の推移を眺めている者が多かった。起きてしまった事は無くならないなら、せめて何が起きているかを理解しようと、多くの者が考えていた。


『今は、静観かな』


 それ以外に『理解できない事が起きた』ことに、戸惑いや焦りを覚える者たちもいた。それは、当事者以外の国や、明日は我が身と考え、何が起きたか早急に理解し、備えようとする者達。

 日本という国はどこか『時間が経てば分かる』と楽観しているが、外交を通じ各国は情報収集を開始したり、共同調査という名目で、調査部隊の派遣を非公式に打診する事も行われていた。

 また、空という意味で見れば、いくつかの国が日本の静止軌道上に、貴重な燃料を使って偵察衛星を移動することも行われていた。


 ――これが、冷たちが居る場所が、黒い雲のようなもので覆われてから、二時間の間に起きた事である。

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