第18話 : 女子力レベル2


「髪、切ってみようかな?」


 私は前髪を触りながら、そんな事を考えていた。

 朝から、今まで撮った写真を見比べていたら、明らかに髪の長さが変化している事に気がついた。魔法少女に変身した自分がいて、その上、戦闘形態まで存在しているのに、黒髪の状態では、髪が時間とともに伸びていた。


(夏美と遊びに行く約束もあるし、その時に着る服を用意しないと……)


 適当にネットで美容院を検索し、ついでに近くで普段着が買えそうなお店をピックアップする。可能であれば、散髪してから買い物ができる場所に絞りながら、私はクローゼットに入っている服に目を通す。

 数か月前まで、男性用のスーツや礼服などが数着しか入っていなかった場所には、今では大半がコスプレ衣装で埋め尽くされていた。


(さすがに、遊園地に行くなら動きやすい服装かな? ジャケットとか、フォーマルな見た目も無しだよね)


 私は相変わらず『化粧』のスキルは身についていない。夏美には『二十代』と言ってしまっているのに、自分で化粧もできないことを、いつか不思議に思われる時が来るかもしれない。

 しかしながら、地肌にはシミひとつ無く、隠すべき部分も存在しないので、考えないようにしていた。本物の女性に知られたら、全力で嫉妬されそうな事実ではあるが、こればかりは『魔法少女』だからと思うしかない。


「出来るようになった方がいいかな……?」


 私だって、全く何もしていない訳ではない。

 化粧道具は一式揃えたし、口紅だけでも引いてみたりもした。だけど、何度試しても可愛くなる気配がなかった。それならいっそ、使わない方がマシだと判断していた。


「今度、メイクの本と雑誌を買おうかな」


 精神的には男性である自分にとって、そもそも化粧を学ぶ機会などあるはずもない。男性アイドルとか、芸能人になればカメラ映りを気にしたメイクをする人もいるだろうが、人生でそんな場面は無かった。

 女性であれば、早い人なら中学生頃から始める人もいると聞くが、多くは高校生を過ぎた思春期の頃に、母から教わったり、自分で調べて学んでいくのではないだろうか。


(髪型を変えるの、悪くないかも)

 

 散髪や買い物に、フォーマルな服装で行くのも間違っている気がしたが、持っている外出用の恰好をしながら、美容院に入ってカットをしてもらう。

 美容師からしきりに「高校生?」とか「何歳?」などと質問されたが、そういう風に見えてしまうのも仕方ないので、適当に肯定してはぐらかした。


「私って、やっぱり服のセンスが壊滅的だよね……」


 普段着を合わせている筈なのに、色合いが明らかに、白黒になってしまう。

 例えば、ファッションとコスプレは、考え方が大きく違う。基本的にコスプレは完成したデザインや、イメージする完成形が最初からあって衣装を選ぶのに対して、ファッションは自分の好きな色やデザインの服を組み合わせ、調和を意識しながら、可愛く見せたり綺麗に見せる必要がある。


 私はどうしても、白と黒が基調となってしまい、地味な色を使っているのに派手さもあり、ちぐはぐな印象を受けてしまう。



「バックとかも、持ち歩いた方がいいかな?」


 街ですれ違う女性を思い返してみると、女性は大抵、手提げバックや鞄を持っていると思った。理由は知らないが、私は普段、財布をズボンのポケットに入れるだけで済ませるので、その感覚が理解できていなかった。


(ポーチくらいなら、買っておこうか)


 通販で、肩に掛ける小さめのポーチを注文し、水色で可愛いものを選ぶ。最近は特に、衣類や小物にかける金銭感覚が、壊れてきたように感じていた。


「今回は遊びに行くだけだし、そこまで気を張らなくて良いよね」


 自分自身を改めて『女子力』という面でみると、多少はレベルが上がってきたと感じた。まだ足りない部分もあるが、仕草や考え方が、より女性らしく変化してきていた。

 これが、良い変化なのか、それとも悪い変化と呼ぶかは見る人次第ではあるが、少なくとも私は、今の日常を気に入っていた。

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