第19話 お約束イベント?


(シルフの様子が、最近おかしい)


 私は膝の上に、白いモコモコした存在を乗せながら思う。最近、シルフから感じる『力』が大きくなっている、と。その力に触れていると『安心する』ような気分になるが、これは多分、魔法少女の本能的な部分なのかもしれない。


「どうしたの?」


 私が覚えている範囲では、シルフを拾った当時、魔法少女に変身した後に感じたシルフの力強さというか、魔法少女が持つ『相手の強さ』を感じ取る第六感からの情報では、それほど大きな存在として認知できなかったと思う。もちろん、当時は弱っていただけで、回復したから今の状態である可能性もある。


「なんというか……シルフが最近、大きくなった気がする……」

「え……? 僕、太った?」

 一瞬、シルフが固まった気がしたが、自身の毛並みを確認し始めた段階で、私は頭を撫でて落ち着かせる。別に重くなったとか、物理的なものではない。ただし、私もお菓子をたくさん与えていたり、当人にも心当たりがあるのか、身体の状態を確認している。夜、さりげなくお菓子をつまみ食いしているのを、私は知っている。


「そうじゃなくて、雰囲気というか、存在感が増したような気がする」

「ん……? ああ、なるほど」


 私もあまり気にしていなかったが、髪が伸びたり、日常の変化を楽しむようになってから、違和感があったら『興味を持つ』ようになった。


「言いたい事は理解したけど、僕が変化したんじゃなくて、冷が強くなったんだよ」

「私が?」


 説明モードに入ると、シルフは少し大人びて見える。

 いわく、魔法少女は『願われる存在』であり、多くの人から『信頼』や『憧れ』といった感情を向けられるほど、強く成長していく。絶望した人々に対する『希望』という役割を果たす為に。

 その希望が失われそうになる時、人々の想いが魔法少女を強くする。結果的に、世界がそれによって救われるという、ある種の『役割ロール』こそ魔法少女が世界から期待される事なのだと言う。


「例えば……宗教とか、神様に例えると分かりやすいけど、信じる人が多くなるほど、世界に与える影響が大きくなっていく、みたいな。……ああ、そうか」


(信じる人?)


「冷は、インターネットで多くの人に『知られている』よね。ああ……僕も気付かなかった。今まで、僕がいた世界ではここまで人間が多くなかったし、個人が数十万人以上から支持される状況は発生しなかったから」

「つまり、知名度が上がったから、強くなった?」

「うん。向けられる感情の種類も関係があるから、厳密には知名度とは違うんだけど、その通り。冷の活躍を『期待』する人とか『応援』する人の数だけ、冷は魔法少女として強くなっていく」


 つまり、アイドル的な活動を続けていく限り、私は魔法少女として強くなっていくらしい。


「本来、精霊が主体となって魔法少女に力を与えるけど、現状だと、冷の方が力を持っているかもしれない。まだ使い方が分からないだけで、慣れれば、新しい魔法とかも作れると思うよ」

「うーん……」


(強くなっても、使わないからなー……)


 魔法少女になって感じる『デメリット』はある。最近になって、気が付くと『助けて』という声が聞こえる事がある。シルフの説明ではないが、世界に人が多いからこそ、それだけ『救い』を求める声は溢れている。それを実感してしまう。

 でも、この世の中で『資本という後ろ盾』が無い状態の個人が、魔法少女がいかに武力として突出した力を持っていようと、その場しのぎの対応しか出来るはずもない。むしろ、抱える問題の方が大きくなってしまう。


「私にできるのは、好きに歌ったり踊って、結果的に誰かが『希望』を取り戻せるような、些細な貢献だけかな」

「冷は、それで良いと思う」


 英雄を描く物語では、よく『強い力には責任が伴う』といった表現をされる。私は実感こそ無いが、きっと空想に存在する英雄たちと同じか、それ以上の力を持っているとは思う。同時に、物語の主人公が成長する為にテーマとなるのが『覚悟』であるとも考えている。盛り上がりを作る為ではあるが、必ず『無自覚な力』が偽善として扱われ、周囲を乱すだけの悪としても描かれる。


(そんな場面、私に訪れるとでも?)


 現実は小説より奇なりとも言うが、歴史上で描かれるすべての英雄が、最初から超人として語られることが無いのも事実。後世から見たら、英雄と呼ばれる人物は必ず、当時は不可能と思われていたことを可能にするイベントが起きる。死線をくぐるなんて言葉があるが、必ず死ぬ場面を生き残ることで、初めて世界から個人の資質は見出される。


「明日か」


 夏美と出かける前日、なぜか胸騒むなさわぎがする。魔法少女としての強さとか、英雄とか、現実感の無いことを考えていたせいだろうか。


(私は、知らない人が目の前で死にそうになってても、助かる見込みがなければ手を出さない)


 そんな考えが頭に浮かぶが、じゃあ逆に『知っている人が』となれば、自分が出来ることをしたいと考えるだろう。夏美を助けた時だって、シルフというパートナーが助けを求めて来たから、助けた。

 今は縁も出来て、夏美が助けを求めてきたら、きっと助けに入るだろう。軽いと思われるだろうが、人間の思考なんて所詮、その程度だと私は考えている。


「おやすみ」


 笑みを浮かべて、私は状況を察して逃げるシルフを捕まえる。そのまま布団に連行して、抱き枕にする。

 もしかしたら、他人から見たら動物虐待だと思われるかもしれないが、私もさすがに意思疎通ができない、か弱い生物相手に、こんな無理やりなことはしない。シルフは特別だし、嫌ならきちんと言葉にしてくれて抵抗もする。


「……おやすみ」


 メリットといえば最近、シルフから感じる『温もり』が増したので、安眠にも繋がっている。元から、魔法少女の状態では不眠や寝不足に悩まされることも無いのだが、起きた時の爽快感やその後の体調的には、シルフと接している状態の方が良い傾向はあった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る