第64話 混乱するホルン村

 俺とシンを異端者だと宣告した太陽教会の白装束が、ダティエと共に立ち去ってからも、村人達の混乱は深まる一方だった。

 

 「ふ、不義理な事はさせませんので、どうか!」

 「いや、大丈夫だよ。作戦通りにフックとタラスにここを守ってもらって、俺とシンが連中を蹴散らしてくる」

 

 すがってくるムジンは、頭の中に俺達をどうこうするという選択肢はないようだ。まぁ野盗の集団に困り果てていたこの村の人間が、単純な戦闘力で俺達をどうにかできるはずもないのだから、普通に考えてムジンの行動が理に適っていると思うのだけど……。

 

 「この間も魔獣が村までこなかったのはヤミさん達がすぐに動いてくれたからだろ!」

 「恩があるのは分かってるさ! けどこの状況をどうするんだって聞いてるんだ!」

 

 恩とか義理みたいな話になっている時点で、殆どの村人は混乱して正常に状況が把握できていない。

 

 あるいはそれだけ、太陽教会というものが潜在的に信頼されているということもあるのかもしれない。非道な指示でも従えば慈悲を見せてくれるかもしれない、と。

 

 「何なんですかっ! 選択肢なんてないでしょう? なんでアタシたちを信じて任せてくれないんですか!?」

 

 耐えかねて叫んだタラスに、言い合っていた村人達はばつが悪いという顔を見合わせている。けど素直にそれに従う気にもならないようだ。

 

 「それは……、けど……、太陽神様に敵対するようなつもりなんて、なぁ?」

 「あ? あぁ……」

 

 何とも歯切れが悪いけど、つまりは俺達を信じて頼るしかないとは理解しつつも、唯一神として君臨する太陽神は、例え信仰していなくとも敵に回すのはおそろしいということか。

 

 神への畏れ、なぁ……。

 

 「うぅ」

 

 つい、というか当然というか自然と俺を含む皆の視線がシュットに集まる。この村唯一の太陽教会関係者な訳だし、どう考えているのか気になる。

 

 けど、そのシュットも状況と信仰に挟まれて身動きがとれないようだ。とはいえシュットから俺に対して怖がっていたり恨んでいたりみたいな感情は感じられないし、むしろ申し訳ないといった感じだ。

 

 最後の一歩が踏み出せない、というところか。実質離れてしまっているとはいってもシュットにとっては長く人生をともにした信仰だものなぁ。

 

 村を囲んでいる連中はそれほど長くは待ってくれないだろうし、これ以上はどうしようもない。この状況で村人達がどの程度俺達の指示に従ってくれるかはわからないけど、もうこっちはこっちで動くしかないかな。

 

 シンに目配せをすると、静かに頷く。別にシンとしては人間の弱さというか、こういう状況での混乱を責める気持ちも憂う気持ちもないだろう。

 

 フックは俺の意思に従うだろうし、セシルも諦め半分でやるだけやりましょうとでも言いたそうな表情だ。

 

 「あぁ、もう!」

 

 しかしタラスはさっきのでは言い足りなかったようだ。地面を踏みつけながら不満の声を口から吐き出している。

 

 「敵対するのが神だからって関係ないでしょう!? 現に今この村を襲っている相手じゃないですか!」

 「関係あるよ……、人が神に逆らうなんて……」

 

 タラスの叫びに弱々しくもはっきりとした否定が誰からともなく返ってくる。俺達が居ついてからこの村で教会の影響というか信仰みたいなものが目に見えることってなかったけど、こう実際に追い込まれると深く根付いているものだな。

 

 「神なら……、こちらもそうです! ヤミさんは邪神です!」

 「は……?」

 「じゃ……? 何を言った?」

 

 半分以上裏返った声で発されたタラスの言葉に、村人は反応に困っている。けれどただ一人、シュットだけは純粋な驚愕の目線でこちらを見つめている。

 

 「そんなの、訳が分からん」

 「というか、それって教会が言ってた通りの人だってことじゃあ」

 「まずくない?」

 

 村人達の騒めきはさっきより悪い方に傾いてしまっている。タラスのしたいようにさせたくて様子を見てたけど、この辺で止めるべきかな。

 

 「まずくないです、邪神も神です! どちらの神につくんですか!」

 

 タラスはちょっと暴走気味というか、その選択を迫ってしまうと良くないな。

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