第31話 横暴な暴力を叩き潰す凶暴な暴力

 「やはり出てきおったのぅ」

 「そうだな、まぁ向こうから仕掛けてきた訳だし遠慮なく……」

 

 ナラシチと一瞬だけ目を合わせて問題なさそうだったので、俺が相手をしようと踏み出す。が、それに納得がいかない人物がいたようだ。

 

 「団長、ケンカ売られてんのは“銀鐘”じゃないですか! あんなふざけた格好した奴俺が!」

 「あっ、バカ野郎!」

 

 ナラシチは明らかに止めようとしていたが、突然叫んだゴルベットはもう走り出してしまっている。ゴルベットがどの程度の実力なのかは知らないけど、あの黒装束は少なくとも隠形の遺物は持っているし、危ないな。

 

 「おおおおぉぉっ!」

 

 雄叫びをあげるゴルベットの腕に、地面から剥がれて浮いた土が纏わりついて固まり、岩石のガントレットが形成されていく。

 

 おお、厳ついゴルベットにぴったりというか、傭兵なのに常に丸腰だと思ったら魔法使いだったのか。

 

 「うらぁっ! ――っ!?」

 

 応えるように走り出していた黒装束が目の前に来たところで、ゴルベットは岩石の塊になった右腕で殴りかかる。しかしその瞬間黒装束はゴルベットの目前から消え失せ、腕を振り抜いた体勢で目標を見失ったゴルベットは、前方に向かってたたらを踏んだ。

 

 あ、あれまずいな、ゴルベット殺されるんじゃないか?

 

 と考えていた所で、風を感じて見ると、マレアの姿が霞むほどのスピードでゴルベットの方へ駆け出していた。

 

 「このっ、バカ下がれ!」

 「おぐっ」

 

 ゴルベットの真上に出現していた黒装束が黒いナイフを振り下ろすより一瞬早く、マレアはゴルベットの襟を掴んで引き倒していた。

 

 「せいっ――ちぃ!」

 

 尻もちをついたゴルベットを追い越す様に前に出たマレアが、腰のロングソードを抜き放ち様に斬り上げる。しかし落ちてくる敵を捉えたはずの剣は空を切り、その向こう側に出現した黒装束を見て、マレアは舌を打って構えなおした。

 

 どうもこれまでのことを考えてもあの隠形の遺物は戦闘中に使うのは難しいようだ。とはいっても、瞬間移動だけでも生半可な腕では対処できないだろうけど。

 

 でも目を白黒させて狼狽えているゴルベットはともかくとして、マレアは何とかなりそうなんじゃないか?

 

 「手助けいるか?」

 「要らないよ、うちだけでじゅうぶ…………じゃないねぇ」

 

 俺の確認にマレアが威勢よく突っぱねようとしたところで、大きく状況が変化する。押されていると判断したらしいナロエが小さく口を動かすと、それに応えて周囲にさらに黒装束が出現していた。

 

 「追加で四人、これで全部だのぅ」

 

 シンがぼそっと発した声が耳に届いたけど、俺としても見立ては同感だった。おそらくこれ以上の伏兵はいない。

 

 「ちょっと! ヤミさん、助けて欲しいんだけど!?」

 

 突っ立って静観している俺の方へ、マレアが構えはしっかりととったままで助けを求めてくる。声が裏返っているし、焦っているようだ。

 

 「あいよ」

 

 軽く返事をしながら意識を五人の黒装束の上方へと集中させる。それによって黒装束達の頭の上には黒い球体が音もなく出現しているけど、当の本人たちはマレアと俺の出方を窺っているようで気付いていない。

 

 「――はぁ?」

 

 ナラシチの間抜けな声を合図にしたわけではないけど、ちょうどそのタイミングで五つの球から邪気を固めて一本の太い触手形状にしたものを射出、真下の黒装束達の脳天へと叩きつける。

 

 「つぁっ!」

 

 思わず出てしまったという風に声をあげた一人、最初に出現していた黒装束だけが直前に顔を上げて黒い触手を視認すると姿をかき消した。残りの四人は俺の狙い通りに、叩き伏せられて動かなくなり、五分の四は目的を達成した触手たちは黒い球の中へとずるずると引きずり戻されて最後は球ごと虚空に消える。

 

 そして俺の攻撃に呆気にとられるこちら側の虚を突こうとしたのか、横から出現した黒装束がナイフを突き込もうと突進する。

 

 が、狙った相手が悪い。

 

 「足元は良く見て走るべきだのぅ」

 

 黒装束に狙われたシンがそう口に出すと同時に、地面には深淵まで続きそうな真っ黒な穴が生じ、ちょうどそこへ足を踏み出していた黒装束は申し合わせていたかの様にすぽっとその穴に入って消えてしまう。

 

 そして既にその黒々とした穴は消えて元の中庭の地面しかなく、後には全く動かない黒装束四人分の身体と、黙り込む面々だけとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る