第16話 ちらつく太陽
さて、これで伝えておくべき内容はだいたい報告できたかな。
「……」
シンを見ると、視線をこちらへ向けて俺の様子を窺っていた。まぁいいたいことはわかる、シンが気付いたあの襲撃者は教会関係者ではないか、という情報を伝えるかは俺も悩んでいた。
ここまでの話からして、あの太陽神を信仰しているという教会が、表には出せないような装備をした武力集団を保有していて、しかもフラヴィア商会はここ最近標的にされているようだ。
俺達にとっては、現時点でも教会が敵対するような相手かどうかは不明だけど、ミリルからするとこれは許せないことだろう。とはいえそれをどう伝えるか難しくて口に出しあぐねていた。
「それと……、これも一応伝えておきたいのじゃがのぅ」
俺が黙り込むと、代わりにシンが口を開いた。少なくとも教会側をかばうような理由もないし、難しく考えずに伝えておこうということかな。
「襲ってきた連中は全身に黒い布を纏っておったのじゃが、そこから微かにこの町の教会にいた白装束共と同じ匂いがしての、関係者ではないかと睨んでおる」
「それは……っ」
「――っ!」
ミリルがまさしく絶句という表情で、口を開閉して言葉に詰まる。ダルクスもかなりの衝撃を受けたようで先ほどまで眠そうにしていた目を見開いている。
情報をうまく伝えるために、シンが気付いたのを匂いということにしたようだから、確信があるという風には伝えられないけど、これでまぁ十分だろう。
さっきの遺物を持った時も深く聞かずに受け流していたけど、ミリルは俺達が普通ではない力を使うことは薄々感づいているのだろう。だからこそ匂いが同じなんて話を深刻に受け止めたようだった。
あとはそれを聞いてフラヴィア商会側がどうするか、だけど。
「教会に悪評をつけたい組織の偽装……、はないわね。捨て駒のつもりなら貴重な遺物を持たせるはずがないし。そうなるとうちの商会に太陽教会が攻撃を……、なんてこと……」
腕を組んで口を引き結んでいるダルクスの内心はわからないけど、ミリルは襲撃者が教会関係者だということ自体は信じたようだ。というより教会が大きな組織なのであれば、あの襲撃者たちを用意できたのも納得できる。偶然強力な力を手にした野盗だとかいうよりはよほど真実味があるといえた。
「どうするんだ? とりあえずこの町にある教会の司祭に抗議でもして、反応をみてみるとか……」
「待って! それはだめよ!」
町の司祭がどれくらいの地位なのか知らないから、あのチェルネが黒装束集団の存在や商会襲撃のことを把握しているかは分からない。けどだからこそ探りを入れる相手としては手頃かな、くらいの気持ちで提案してみた。
しかしそれは問題があったらしく、ミリルは半分悲鳴のような声をあげた。
「教会の関連については、気付かなかったことにしましょう……。明確な証拠を掴んだわけでないなら、相手からしても気づかれたとは思っていないでしょうし」
「いいのか? それだと今後も襲撃され続けそうだけど」
ミリルからの弱気な提案に、思わず少しの険を混ぜて言ってしまう。見て見ぬふりをすればフラヴィア商会に所属する傭兵や遺跡調査員達は、今後も襲撃され続けることになる。俺からすれば顔も知らない連中のことではあるけど、大商会の会長判断としては無責任に感じてしまった。
「……っ。太陽教会はスルカッシュだけじゃなくて世界中で信仰されているの。フラヴィア商会がいくら大商会だといったところで規模が違い過ぎるわ。ましてそんな危険な武力まで隠し持っていることが分かった以上はとにかく刺激しないことしかできないじゃない」
一息に言ってから唇の端を噛んで俯いたミリルに、ダルクスが寄り添って肩に手を添える。
「そうか……、無神経に悪かった」
ミリルとしてもそれでいいなどとは思っていないようで、苦渋の判断だと震える手もとから伝わってきた。
とはいえ、こちらはこちらで動くつもりだからそれだけは言っておこう。
「フラヴィア商会としての判断はわかった。けど俺達は危害を加えようとしてきた襲撃者のことは探るし、その結果教会とは揉めるかもしれないからな」
「そうか。目を背けるようで申し訳ないが、商会は一切の協力はできない。が、止めたり邪魔をするようなこともしない。直接教会との問題に関わることでなければ力にもなれるかもしれないから、いつでもこの店へは来てくれていい」
俺のややきつい言い方に対して、ダルクスは真剣な顔でそう告げる。不愛想だけど誠実な人柄だと思うし、だからこそこちらもこれ以上は巻き込むようなつもりもない。
まぁ、そもそも俺達にしても、少し調べてあの教会が光神とは全くの無関係だとなったら、あとは放っておく可能性が高い。最近の襲撃で直接の被害にあっていたフラヴィア商会が目を瞑るというならどうこう言う事でもないな。
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