MACHIDA
古代インドハリネズミ
平凡な一日
なんやかんやあって、TOKYOは滅んだ。
「はい、今日の授業は終了です」
電子黒板から聞こえてくる機械音声が、その日の学校の終わりを告げた。
教室からはメタリック・ヤンキーたちのウェーイという鳴き声が木霊する。
メタリック・ヤンキーたちは一目散に教室を出て行く。今日も街で喧嘩をするか趣味のバイクと自分を整備するか、メタルでも聴きに行くのだろう。
私は彼らをしり目に、のんびりと帰宅の準備を始めた。
「マイちゃん」
「りっちゃん、帰ろうか」
友達のりっちゃんが話しかけてきた。今日は一緒に帰る約束をしていたのだ。
最近では珍しくメタルも聴かない、機械化もしていない私たちは入学当初から気が合ってすぐに友達になった。
メタルを聴けばガンが治り、機械化すれば定期的な整備で丈夫な体が手に入る昨今。私たち生身の人間は高度な医療に頼っても150歳程度までしか生きられないだろう。
「マイちゃんすごい荷物だね」
「ああ、ちょっと差し入れをするつもりなんだ」
私は袋に詰め込んだガラクタを背負い、よろよろと歩き出した。
今日は新発売の糖質ゼロ・タピオカドリンクを飲みに行くんだ。糖質は100年以上前、TOKYOが滅ぶよりも前に一度滅ぼされている。
ついに糖質の塊であったタピオカを糖質ゼロにすることに成功したのだ、人類は。糖質滅亡以前の私たちのようなJKはよくタピオカを好んで摂取していたと歴史で勉強した。
古めかしいものが好きな私は、りっちゃんに頼んで道草に付き合ってもらうのだ。
私たちがセキュリティゾーンを超えると、メタリック・ヤンキーの子が地べたに這いつくばって何かを探していた。
「あれ、坂崎さんじゃない? どうしたんだろう」
「うん、何か様子がおかしいね。声をかけてみよう」
私たちが坂崎さんに声をかけると、彼女は涙目でコンタクトレッグのジョイント部品を落としてしまったと言った。
彼女の機械化した左足を見てみると、確かに間接が曲がっていない。
「私たちが探してあげるよ。マイちゃんそういうの得意だし」
「ガラクタをいつも漁っているからね」
私は普段から行っているガラクタ漁りの技術を総動員して、坂崎さんの部品を探した。
探すこと5分、AI搭載型マンホールに同化する形で小さなジョイント部品が落っこちているのを発見した。
「ありがとう、ありがとう!」
坂崎さんはしきりに私たちに感謝して、派手に改造したバイクに飛び乗って去って行った。メタリック・ボーカロイドの曲を爆音でかけて走行するのはどうかと思うけれど。
私とりっちゃんは無事にタピオカを飲むことができた。
タピオカはもちもちしていておいしかったけど、魚顔の店員さんがジッとこちらを見ていたのが気になりました。星3つ。
りっちゃんと別れた私は、今日も今日とてガラクタ置き場に向かう。ガラクタ置き場は危ないとりっちゃんにはよく言われるけれど、高周波カッターや非殺傷ビームピストルも携帯しているので大丈夫だ。
「神様! ガラクタの神様!」
私が声をかけると、彼は重い頭をくるりとこちらに向けた。
砂嵐の画面が一瞬暗くなり、チャンネルの切り替わる音とともに顔文字が表示される。笑顔だ。
『マイちゃんや。また来たのかい』
顔文字の下に字幕が表示される。
彼、ガラクタの神様は旧型のテレビを頭にくっつけたメタリック・ご老人なのである。頭部を機械化するのは難しく、高価なパーツで行うのが普通だ。
それをガラクタの神様は旧式テレビでやってしまったらしくて、変わり者として私の中で評判である。
「昨日みたいな掘り出し物があるかもしれないからね」
『昔の女の子向けアニメのモデルガンなんて何に使うのかね』
テレビの中の顔文字は呆れた表情だ。
「これに使ったんだよ。かわいいでしょ?」
私は非殺傷ビームピストル、ピストルくんをガラクタの神様に見せた。
ガラクタの神様は驚いた顔文字を浮かべて私からピストルくんを受け取った。
『一晩でこれを作ったのか……私並の発明家だね、君は』
彼は自らのアトリエ――青空の下にある――を眺めた。そこには無数の発明品と、大きなロケットが置いてある。
ロケット作りは私も手伝わされたのだけど、私にもよくわからないプログラムとTOKYOで摂れる高エネルギー結晶体を動力に使っているらしい。
「私もそのロケットに乗せてね、ガラクタの神様」
『ガラクタの神様はやめなさいと何度も言っている。私は塵塚――』
その日も私はガラクタの神様の小言をのらりくらりとかわして。
いつも通りロケット作りを手伝った。
ロケットはほとんど、完成間近だった。
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