『もしもしやくざさんですか~暴力団いのちの電話』短篇小説
九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)
第一話
「もしもし――」と暴力団員はいった。
「あ もしもし ○○会の事務所でしょうか」と愚生はいった。
「はい ○○会ですが どちらさまでしょうか」
「あの 市内に住んでる九頭龍一鬼ともうしますが」
「はい どのようなご用件でしょうか」
「あの―― 本統かどうかわからないんですが 五十万円くらいで拳銃が買えると聞いたので ○○会さんからも拳銃が買えないかなあとおもいまして」
「ちょっとまってください なぜ拳銃がほしいんですか」
「――あのう 自殺したいんです」
「――あのですね 最近 さまざまなうわさが蔓延していて たまにこういう電話もあるんですが 現実に暴力団から拳銃は買えませんよ 型から足がつくんです 自殺屍体が拳銃をにぎっていたら 警察は容易に我我が売ったものだと闡明します そもそも あなたが他殺ではなく自殺のために拳銃がほしいという証拠がありませんし」
「ですが もう駄目なんです 『完全自殺マニュアル』などに 『首吊りより楽な自殺方法はない』と書かれているんです なので 二度縊死しようとしたんですが 一回目はロープが切れて 二回目はあまりの苦しさに数分でロープがわりのシャツをはぎ取ってしまったんです 首筋には傷がのこりました あんなに苦しいのはもう厭です ですので まず猟銃を買おうとおもいました 『万延元年のフットボール』の鷹四のように自殺しようとおもったんです が 猟銃の購入には精神科の診断書が必要で 取得のための試験もむずかしいらしくて そのう 結句 ぼくは統合失調症と鬱病なんであきらめたんです だから拳銃を――」
「あのですねえ あなたが怜悧なことはわかりました 首吊りが苦しいから猟銃自殺したい でも猟銃も入手できないので拳銃で自殺しようと」
「はい そうです」
「ちょっとかんがえてください よくドラマや漫画では顳顬に銃口を密着させて自殺していますよね でもあの角度だと 頭蓋骨で弾丸の軌道が湾曲して なかなかうまく死ねないのです そこで 『通』は口腔に銃口をつっこんで脳髄を撃とうとするわけですが だいたいですねえ 散弾ならともかく 銃弾一発で脳髄の機能を完全に停止させるのは至難のわざなんです わかりますか たとえ 我我が拳銃を売れるとしても こういう理由で自殺には無理がありますから 今回のところはあきらめてください」
「――――(沈黙)」
「わかりましたか」
「――――はい すみませんでした では――」
「ちょっとまってください」
――つづく
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