第3話 小夜子→太一へ


太一へ


はじめて私が手紙を書いた日を思い出します。

とても大好きな人へ向けた、最初で最後のラブレターでした。


誰にだと思う?

そう、お父さんに。書いたの。


今でこそ電話やメールが当たり前だけれど、当時は想いを伝えると言えばラブレターだったのよ?それはもう何回も書き直しては捨て、書き直しては捨て…

ようやく完成したと思えば、今度は渡すのを躊躇ってしまってね。


だけどあの時勇気を出して良かったと思うわ。

お父さんと一緒になれて、太一が産まれてきてくれたんですもの。


紹介したい人が居ると言ってくれたけど、お母さんはその方に会えないみたい。

お父さんのところへ行かなくちゃ。


でもね、あまり心配はしていないの。

太一が選んだ人なのだから、きっととても素敵な女性だと思う。自信を持って!


もしも喧嘩したり折り合いがつかなくなった時は、手紙を書いてごらんなさい。電話やメールじゃなく、自分の手で文字を書いて、何度失敗したっていいから。



太一。早くにお父さんが旅立ってしまって、あまり裕福な暮らしをさせてあげれなくてごめんなさいね。

自転車を買ってあげられなかったこと、旅行に連れて行ってあげられなかったこと、淋しい思いをさせたこと…考えたらキリがないわ。


だけど真っ直ぐ育ってくれてありがとう。


初任給でお洋服を買ってくれてありがとう。



もういい大人になったけど、ずっと貴方の成長を見続けることができて幸せでした。



まだ見ぬ奥様によろしくね。


きっと届くと信じています。


それじゃあ、さようなら。



世界一幸せな母親、小夜子より

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