届かない手紙

かまくら

第1話


「ノラ、見てごらん。また降ってきた、ほら」



ここには何もない。

ただ広い空間が広がっているだけ。それだけ。



自分がいつからここに居るのかもわからない。まず時間というものがここには存在していないのだ。


広く、うっすら周りを見渡せる程度の明るさの場所。


僕にわかるのはそれだけ。



「拾ってくる」



僕の言葉に返事をしたのはコイツ。黒猫のノラ。

どういう訳だか喋るんだ。


僕と同じようにノラも、いつの間にかここに居た。というか確か、ノラの方が先に居た。

ただ同じく、何も知らないらしい。



ただの黒猫のノラと、ただの僕。

ここにはそれしか存在しないけど、時折、どこからともなく手紙が降ってくるんだ。


僕達はそれを読む。読むと消える。不思議だ。



「もっへきは。よんへ」


手紙を口に咥えたノラが催促にきた。


「わかったよ、それじゃ読もうか…」



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