第5話 委員長、時々女神。
峯ヶ崎学園は一年生が一階、二年生が二階、三年生が三階という非常にわかりやすい構造をしている。
激動の劇場じみたワンシーンを終えた俺たちは玄関口で靴を履き替え、二階に昇り、階段から近いC組へ玲奈を押し込んだ。別れ際にも『さっきの約束、絶対の絶対なんだからね! 破ったら針千本……は飲ませられないから、千回つんつんしてやるんだからっ!』などと可愛すぎる台詞を残して。そんな圧倒的ツンデレ幼馴染パワーの余韻に浸りつつ、自身の教室である二年A組の扉を開く。
『扉を開くと、そこは異世界だった……』
異世界から異世界に橋渡しさせようとするんじゃねえ、普通に教室の扉だろうが。
『だってぇ~、案外暇なんだもぉ~ん』
猫なで声を出すんじゃねえ、気持ち悪い。
『気持ち悪い⁉』
あ、またやってしまった……
流石にこの天丼展開には、俺がプレイヤーならそろそろ飽きてくる。
『うえっ、気持ち悪い……気持ち、悪い……』
待て、泣くんじゃない! 話を聞いてくれ、女神!
『あ……でもなんかちょっと気持ちいいかも……』
おい女神⁉ 気を確かに持て! その道は女神的にNGだ! 堕天しちゃうから! 堕女神になっちゃうから!
『分かった……これが、これこそが愛なのね?』
ダメだった。堕女神で駄目神だった。でも幸せそうだし、いっか。
自己解決で区切りを付けた俺の眼前には見知らぬ光景が……なんてことはなく、一般的な教室よろしく机と椅子と、生徒がひしめき合っている。何年振りかわからないその風景は、主人公的には数週間ぶりでしかないこともあってか、激しく感情を揺さぶるまではいかなかった。
自分の席を探すべく教室内を見回すと、黒板に座席表が描かれていた。とりあえずは出席番号順のようで、『日下部』は窓側の最後尾と、これまたお約束のポジションが用意されていた。自身の居場所を確認した俺は、移動して着席する。
「おはよう、日下部君」
それと同時に、隣の席から声がかけられた。振り向くと、見覚えのある、これまた美少女が笑顔を向けている。
「おはよう、委員長。また同じクラスなんだな」
「ふふっ、そうみたいね。それと、今は委員長じゃないからね?」
「ああ、そうだったな元委員長」
「ほんと、ああ言えばこう言うんだから」
全くもう、と呆れたため息をつく姿もとても絵になる彼女。
肩より伸びた、長く艶やかな黒髪。可愛さが全面に押し出された唯や玲奈とは違い、綺麗さをバランスよく取り入れた顔立ち。さらにバランスの良い体躯。
彼女の名前は
「それにしても、朝から凄かったね」
「……見てたのか?」
「あれだけ目立っていたら、見ない方が難しいよ?」
「ごもっとも」
「二階堂さんと同じクラスになれなくて残念だったね?」
「こればっかりはどうしようもないよ。神様の匙加減だ」
本当に、どういうつもりなんだろうな神様は。
『呼んだ?』
お前はいつから神になったんだよ。前に女をつけろ女を。ついでに堕も。
『前にナニが付いているのは、むしろ男じゃない?』
唐突に下ネタぶっこんで来るんじゃねえ⁉ 仮にも職業:女神だろうが! 仕事のイメージアップに努めろよ! 女神不足になってもしらねーぞ!
『それはほら、男に頑張って貰っているから心配なし!』
……今後、召喚される人のメンタルが心配だよ。ヴィーナスみたいな恰好した男に呼び出されて喜ぶ奴なんていないからな?
『女神的事情はさておいて、委員長ちゃんはいかが? 前の二人に比べると、攻略難度は高めだけれど』
そうなのだ。一年間、多くの時間を一緒に過ごしたにも関わらず、未だにお互い名字で呼び合う仲。ギャルゲー的には開始直後だから、と言ってしまえばそれまでではあるが。
ただ、その分伸びしろは半端ない。可愛さと好感度が突っ切っている唯や玲奈では不可能な、『微妙な距離間でのドキドキイベント』や『名前で呼び合うようになるイベント』など萌えるシチュエーションが待ち構えていることだろう。
『いや~選り取り見取りだね~、困っちゃうね~悩んじゃうね~。いっそ全員いっとく?』
そんな一本いっとく? みたいなテンションで聞くようなことじゃないだろ。
……というか、あるの? ハーレムルート。
『どうかしら。ハーレムエンドが用意されているかまでは知らないの。もしかしたら全員からゴミみたいな扱いを受けるようになるだけかも』
それは地獄だ。しかも誰も攻略できない状況だろうから、抜け出せもしない。正真正銘の生き地獄じゃないか。
『でしょでしょ! だから早く選んでクリアしようよぉ!』
それとこれとは話が別だ。攻略さえ始めなければ、モテモテ生活をずっと享受できるんだろ?
『そうだけどぉ! そうなんだけどさぁ⁉ そうじゃないんだよぉぉぉぉ!』
などと女神が喚き叫ぶうちに担任教員が登場し、ショートホームルームを経て始業式へと向かわされた。
その
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