煙草2本目
8月の下旬。あと数日で9月になる。
今日は学校の特別授業。
めんどくさいなあ、参加したくないのに。
でも、参加しないとまた嫌いな教務の三村先生に呼び出されちゃうからなあ。
三村、私のことなにも知らないくせに偉そうにあーだこーだ言うからなあ。
あ、まだ鼓膜治ってないこと言わないと。
お医者さんにはもう少しで治るって言われてるけど、音が曇って聞こえて聞きづらいのは変わらないし。
学校に着いてすぐ、三村のいる教務室に行く。
「三村先生、おはようございます」
「ヒナタさん、おはようございます」
「いまちょっと時間いいですか」
そう言って何か飲んでいたマグカップを机に置くとこちらに向かってきた。
「あの、実は7月に色々ありまして、左耳の鼓膜破けちゃってるんです。もう少しだとは思うんですがまだ治ってないので聞きづらくて聞き逃しなどで先生に確認することが多くなるかもしれないです。よろしくお願いします。」
「え!?なんで鼓膜破けてるの!?」
なんで大声で言うかな。ほら、まわりの先生たちもこっち見てんじゃん。
こういうところも空気読めなくて嫌いなんだよなあ。
「色々あって… すみません」
「まぁ、わかりました。わからないことがあったら私や他の先生や生徒に確認してくださいね」
「ありがとうございます、特別授業行ってきます」
「いってらっしゃい〜」と呑気に手を振りながら教務室に戻っていく三村。
ほんと嫌いだけど、言わなきゃ伝わらないしなあ。でも言わなきゃよかった。
少し後悔しながら特別授業がある教室に向かう。
同じ学科の子達何人かはすでに席に座っていた。
わお、いい子ちゃんたち。
「あ、ヒナタちゃんおはよ〜」
「ん、おはよ〜」
いつもの作り笑顔で同級生に挨拶を返す。
学校はバイト先と同じ。
いつも作り笑顔で、周りと合わせて、話をしないとやっていけない場所。
友達という友達が一人もいないこの学校に私は嫌気が差す。
「ヒナタ、おはよう」
「おはよ〜、ぱぱさん。体調はどう?」
つぎに声をかけてきたのはこのクラスでまあまあ話す男子、名前はたいち。
身体つきと話し方、考え方とかいろいろ見ていいお父さんになりそうだからっていう理由であだ名は「ぱぱさん」。
「だめだめだよ、また病院に行かなきゃならないんだよね」
「まじかぁ…お金かかるねぇ…」
「そうなんだよね。まじで、一人暮らしだってのに。きついよ」
「私もまた耳鼻科行かないとかも」
「なに、まだ治らないの?鼓膜」
ぱぱさんは自分の左を指差して聞いてくる。
この学校の生徒で唯一事情を話したぱぱさん。
同じクラスの中では信用しているほう。
「そそ、またお医者さんのながーいありがたーい話聞いてこなくちゃなの」
「教会じゃあるまいし。 でも見てもらわないとね」
「そうなんだよね〜〜」
ここで授業開始の鐘がなる。
「じゃ、がんばーろね」と言って私も自分の席に着いた。
あ、タバコ吸い忘れた。
やだなぁ、ないと不安になるし吸わないのも同じだし。
これがヤニカスってやつなのか(多分違うけど)
しょうがない、次の休憩時間にいこっと。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
授業が終わり、放課後。
結局休憩時間に喫煙所に行く時間なんてなかった。
周りの同級生の愚痴を聞いたり、授業担当の先生の愚痴を聞いたり、
私は愚痴を聞く機械か。
今日も疲れたな、これからどうしよ。
ハルは夜まで仕事だし、いつもみたいに通話するのは夜だろうな。
そう考えながら暇つぶしに喫煙所に向かう。
喫煙所の銀のベンチに見知らぬ女性が座って電子タバコを蒸していた。
「お疲れ様です〜」
「お疲れ様です」
私から挨拶をし、置いてある灰皿の前でpianissimosの箱をポケットから取り出す。
一緒に取り出したライターで慣れない手つきで煙草に火をつけた。
ライター早くなれたいな。
「お?もしかして煙草始めたばかり?」
「そうなんです!実は二日?三日前ぐらいから吸い始めたばかりで」
「そうなんだ!でも紙煙草って身体にあまりよくないよ?」
うっ。
初対面の先生に吸い始めた理由いうのは重いかな?
まぁいいや、この先生優しそうだし。
吸い始めた理由を言おうとしたタイミングで先輩?先生?的な、
お洒落な服装の男性が喫煙所にやってきた。
先生かな?一応挨拶しとこっと。
「あ、お疲れ様で〜す」
「お疲れ様です」
声ヒック!?なんだこの人!
先生かな?生徒が吸ってるの見て嫌な顔するような先生だったらどうしよう…
何か言われないかな、あと少し怖い…かも。
「でもすごいね〜吸い始めたばっかで学校の喫煙所で吸う子、あんまり見ないよ?」
「そうなんですか?うーーーん、この学校の生徒、みんないい子ちゃんだからですかね」
「え、君、吸い始めたばっかなの?」
先生と話てると男性も話に混ざってくる。
お、吸ってることに関しては何も言わなそう。
あとあんまり怖くないかも。
「そうなんです!一昨日くらい?から吸い始めまして!」
私はポケットからpianissimoの箱を取り出して「これ吸ってるんですよ〜」と男性に見せる。
「まじか!めっちゃ最近じゃないっすか!あれ?でも未成年じゃないよね…?」
そんなに子供っぽく見えるかな。化粧もしてるし、
身嗜みにはある程度気を使ってるんだけどな〜…
「む、これでも6月に20歳になったピッチピチの学生さんですよ!」
ドヤァとした顔で男性に話す。
こういうところがもしや子供っぽいのかな…
これから気をつけないと。
「それでなんで吸い始めたの?」
先生が話を続ける。
おっとその話だった。うーーん、まあ重くならないように軽ーく話そっかな。
「簡単にいえば身体を内側から破壊したくなったからですかねw20歳になったしいいかなーって」
「おうっふ…あんまり聞かないでおくね」
「先生ありがとう〜〜」
先生は電子煙草を蒸しながらハハっと笑った
私も笑いながら先生に手を合わせた。
「そういや君、学生だよね?どこの科?」
男性が話に入ってくる。
「そうですよ〜、デザイン科のほうにいます!」
「そうなんだ!どうりであんまり見ないと思った。俺はノベル科のほう」
「それはみないですよね!教室って3階でしたっけ?」
「違う違う、2階の奥の教室」
「あっちかー!」そういいながら煙草をすぱすぱ吸う。
煙草吸いながら人と話すってこんなに楽しいんだ。
男性が自分のつけている腕時計を見ると寂しそうなどこか嫌そうな顔をした。
「やっべ、バイトだ!先生お疲れ様です!えっと、君は…」
「ヒナタ!名前わからないおっちゃんみたいな人!明日の球技大会がんばろね!お疲れ様ー!」
「俺は柊司!おう!また明日な!」
そういって柊司は手を振りながら喫煙所から急いで去っていった。
私もそろそろ帰ろっかな。
もうすぐ夏が終わるから少し肌寒くなってきたし。
今日はいっぱい寝て明日に備えるんだ。
「先生、私も帰ります。お疲れ様で〜す」
「お疲れ様〜気をつけて帰るんだよ〜」と笑顔で女の先生は手を振ってくれた。
やっぱりあの先生いい人だな。結構好きかも。
名前聞き忘れたから、今度聞いてみよっと。
柊司も面白そうな人だな。
明日も会えるし、友達になれそう。
球技大会、去年は面白くなさそうでサボったけど今年は楽しくなりそう。
「友達、できるかな」
そう思いながら、私はBluetoothイヤホンを耳につけて学校を出た。
これが、私と柊司との出会い。
まさかこれから柊司とこれから長い付き合いにになるとは思ってはなかったんだ。
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