第20話 年末の過ごし方と家族

 大晦日を間近に控えたある日の朝。

 今日は珍しく父さんも朝から一緒に居る。

 28日で仕事納めだったらしい。


 朝ごはんを家族三人で食べる。

 結衣のところもおじさんが仕事納めらしく、

 今日はうちに来ていない。


「あのさ、父さん」

「ん、何だ?」


 俺の父さんの名前は、結城雅文(ゆうきまさふみ)だ。

 地方裁判所の裁判官を務めている。


「結衣のところなんだけどさ。大晦日と元旦は一緒に過ごすのはどうかな」

「それはあいつのところが良ければ、構わないが」


 父さんが「あいつ」呼ばわりしているのは、結衣のお父さん。

 名前を相羽憲明(あいばのりあき)という。

 父さんと司法修習生の同期で、それ以来の付き合いらしい。


 司法試験を合格しても、即裁判官などになれるわけではなくて、

 司法修習生という形で、様々なことを学ぶ。

 

「しかし、どうしたんだ。いきなり?」


 怪訝そうに父さんが問う。


「結衣と付き合うことになったのは話したと思うけど」

「ああ。職場でもよく聞いてるよ。あいつとしては、娘を一人にしてるのが心配らしくて、付き合ったって聞いたときは安心してたよ」

「そうだったんだ」


 それは初めて知った。


「で、結衣のところが離婚してから、家族ぐるみの付き合いってなくなってただろ?」

「まあなあ。俺もちょっと気が引けてたところがあるし」


 結衣のおじさんから結衣のことを頼まれることはあったけど。


「それで、いい機会だから、おじさんたちと一緒に過ごせないかなって」

「結衣ちゃんには言ったのか?」

「まだ。ただ、たぶん大丈夫」

「そうか。俺は、あいつと結衣ちゃんが構わないなら大歓迎だ。あいつが離婚してから、どこか寂しそうだったしな」

「じゃあ、結衣とおじさんには俺から伝えておくから」

「頼んだ」 


 朝ごはんを食べてから、結衣の家を訪問する。


「いらっしゃい」

「お邪魔します」


 進んでいくと、リビングにおじさんの姿が見える。


「昴君じゃないか。久しぶりだね」

「ええ。ご無沙汰しています」

「そんな畏まらなくていいから。結衣も世話になっているようだし、ね」

「ええ。結衣さんとはしばらく前から交際させていただいています」

「その辺は結衣から聞いてるよ。いつも、結衣ってばうれしそうに言うものだから」

「パパ!」

「ああ、ごめん、ごめん」


 おじさんに一体何を言っているのだろう。


「それで、どうかしたのかい?」

「その、年末年始、ていうか、大晦日と元旦なんですが、一緒に過ごしませんか?」

「そういえば、昔はよく一緒に過ごしてたよね。懐かしいなあ」


 おじさんとしても懐かしい想い出なのだろう。


「それで、どうですか?」

「結衣はどうなんだい?」

「私は、歓迎よ。前みたいに家族ぐるみで過ごせるならいいと思うわ」

「なら、僕も反対する理由はないね。よろしくお願いするよ」

「はい」


 そうして、年末年始は、結城家と相羽家が一緒に過ごすことに決まったのだった。


(ねえ)

(ん?)

(ちょっと、こっちで)


 結衣に促されて、部屋に行く。


「どうして急に?もちろん、反対はしないけど」

「ちょっと考えたんだ。俺たちは恋人だけど、家族でもある、でいいよな?」

「ええ。私は、昴のことも家族だと思っているわ」


 だよな。


「それなら、うちの両親も結衣のおじさんも、無関係じゃないと思うんだ」

「…」

「ちょっと気が早いかもしれないけど。俺と結衣が結婚すれば、おじさんは義理の父になるし、結衣にとっても、うちの両親は義理の父母になる」

「…そうね」


 言ってから、結婚の話をするのは少し先走ったかもしれないと思った。


「結婚の話は先でいいんだけど、昔みたいに家族ぐるみで過ごせたらいいなって思ったんだ」

「…」

「結衣はいつも遠慮しているけど、この機会に、うちの母さんにも父さんともっと打ち解けてもらればって思いもある。無理はしなくていいけどな」

「私も、いつまでも遠慮したままなのはいけないと思ってたし。賛成するわ」

「ありがとうな。もちろん、大晦日や元旦を二人きりで過ごしたいて気持ちもあるけど」

「うん。それは疑ってないわ」


 部屋から戻ると、おじさんが待っていた。


「相談は終わったかい?」

「そこまでのものじゃないですけど」

「そうかい?でも、そういうのはほんとに久しぶりだね」


 おじさんが改めてそういう。


「昴くん」

「はい」

「いつも、結衣のことをありがとう。僕は、仕事の都合であまりかまってあげられなかったけど、昴君がいつも支えてくれてたから。結衣はちょっと堅いけど、いい子に育ったのは昴君のおかげだと思ってる」

「そこまで言われる程では」


 少しむずがゆくなる。


「今回も、僕たち家族のことを考えた提案をしてくれて。ほんとに感謝しているよ」

「いえ。ほんとに、大したことはしてないですから」

「僕も、ずっと、雅文のところとは、交流を再開したいと思ってたんだけどね。僕の方から提案するのも気が引けていたし、いい機会だと思う」

「はい」

「だから、よろしくお願いするよ」


 おじさんなりに、娘のこと、うちに娘のことをまかせっきりにしていたこと、色々思うところがあるんだろう。

 これをいい機会に、良い方向に進めば。そう思わずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る