第7話 一日の終わり

 夕食を一緒に食べて帰ったその夜。

 

「昴ー!ちょっといいかしら?」

「今行くー」


 そう返事して、居間に行く。


「どうしたんだ?」

「んー。結衣ちゃんとどうなったのか、ちょっと気になってね」

「ああ、そのことか」


 母さんには、夕食に結衣を誘ったときに、付き合うことになったことを言ってある。

 まあ、誤魔化す必要もなかったのだけど。


「あっさりしてるわねえ。せっかく長年の恋が実ったんでしょ?」

「長年って、ひょっとしてバレてた?」

「そりゃねえ。いつも甲斐甲斐しく、夜になると世話を焼きに行くんだもの」

「……」


 確かに、家族のように親しくしているからといって、毎夜様子を見に行ったりはしないか。


「で、どうなの?」

「なんていうのかな。お付き合いすることになったんだからって、あいつはやたら前のめりに

一生懸命になってるから、危なっかしくてな」

「結衣ちゃんだものねえ」

「そうそう。で、そのフォローをしてたら、そんなに浮かれた気分でもなくなったというか」

「でも、嬉しかったんでしょ?」

「そりゃまあ、な」

「大事にしてあげなさいよ。あの子は私にも遠慮しちゃうところがあるから、昴が気づいてあげないと」

「わかってるよ」


 さすがに、「好きかわからない」件は秘密にしておいた。


---


 風呂に入って、ベッドに入りながら本を読む。

 ライトノベル、漫画、一般書、などなど。

 結衣に合わせていたせいか、気がつけば割と何でも読むようになっていた。


 時刻は23時。あと1〜2時間もすれば寝る時間だ。

 すると、結衣からLI○Eでメッセージが来た。


【起きてる?】

【起きてるよ】


 絵文字も何も使わないシンプルな文面。

 それがまたあいつらしい。


【今日は楽しかった。本当に】

【それは良かった。彼氏冥利に尽きるな】


【あ、でも。明日からはほどほどにな】

【わかってるわ。それで、今度の土曜日なんだけど…空いてる?】

【空いてるっちゃ空いてるけど。どうしたんだ?】


 既読がついたあと、10分くらいそのままなので、どうしたのだろうと訝しんでいると


【デート行かない?】


 という短いメッセージが来た。

 

(そういうことか)


 こいつなりに、デートに誘うには色々葛藤があったのだろう。

 彼氏彼女の関係になったんだから、そこまで考え込まなくてもいいと思うのだが。


【いいぞ。どこに行く?】

【昴はどこに行きたい?】

【俺はどこでも…定番だけど、映画とか。その後、ぶらぶらするのもいいし】

【映画ね。わかったわ。そうしましょう】

【結衣はいいのか?】

【歴史博物館とか考えたのだけど、初デートで行くところでもないし…】

【じゃあ、両方行こうぜ。映画と博物館】

【そうね。じゃあ、そうしましょう。待ち合わせはどうしようかしら】

【おまえの方が早起きだし、うちに来てくれれば】

【せっかくだし、駅前で待ち合わせない?】


 こいつなりに、初デートだから気合を入れていきたいのだろうか。

 空回りしないか、少し心配だが、断る理由もない。


【じゃあ、それでいくか】


 少し間が開く。


【そういえば、なにしてたの?】

【だらだらしながら、本読んでただけ。おまえは?】

【私も。こないだ昴が貸してくれた小説あったでしょ。あれ】

【お。どうだった?】

【面白かったわ。ありきたりなループものと思わせておいてからの、叙述トリックには驚いたわ】

【だろ?俺も、終盤まですっかり騙されてたよ】


 結衣に貸したのは、とある叙述トリックものSFだ。主人公はヒロインを助けるために何度も

 ループをするが、実は…という感じの叙述トリックが売りで、ネット上では騙されたという感想

 が多くあった。


 結衣はどちらかというと、理屈っぽい本が好きなので、合うだろうと貸したのだが正解だったようだ。


 メッセージのやり取りをしていると、だんだん眠くなってきた。

 

【そろそろ寝るわ】

【うん。おやすみなさい】

【おまえも早く寝ろよ】


 今度はメッセージが未読のままで、しばらく返信が返ってこない。


(また、何か考えてそうだな)


 そう思っていると、30分後に、


「おやすみ♡」


 と、ハートマーク付きのスタンプが送られてきたのだった。


 このスタンプを送るのに、あれこれ一生懸命考えていたのか。

 微笑ましいやら、何やら。


 俺も、「おやすみ」のスタンプ(照れくさいので、ハートマークはなしのやつ)を送って、

 寝床につく。


(今日はほんとに色々あったなあ)


 とはいえ、ほとんどが結衣絡みなのだが。

 

(あいつは、今日のことをどう思ったんだろう)


 あいつなりに、楽しめただろうと思う一方で

 男として意識させられたかはわからない。


 まあ、なるようにしかならないか。


 そう思いながら、眠りについたのだった。

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