第5話 想い出

 俺たちはいわゆる帰宅部なので、授業が終わると、二人で連れ立って帰ることが多い。

 今日も例によって二人で帰ることになったのだった。

 夕日を背に二人で歩く。


「そういやさ」

「なにかしら」


 首を傾げて聞き返してくる。そんな仕草も様になっている。


「いゆ、こうして一緒に帰るようになってどれくらいたったんだろうな」

「もう10年と6か月ね」

「なんで、そんな詳細に覚えてるんだよ……」


 俺も、10年くらいはいってたかなーくらいには思ってたけど。


「だって、大事な想い出だから」

「そうだったっけ?」

「そうよ、忘れたの?」


 少し拗ねたように言う結衣に、少し焦る。

 何か大事な想い出を忘れてたっけ。そんなテンプレ主人公みたいなことを…


「ひょっとして、「家族だから」ってやつか?」

「覚えてるじゃない」


---


 確か、小学校の入学式のときだったか。

 小学校の入学式となると、さすがに、親と一緒に帰るやつがまだまだ多かった歳だ。

 既に両親が離婚していて、朝からおじさんが仕事があった結衣は、

 俺とうちの母さんと一緒に行ったのだった。

 

 帰りも当然一緒に、と思って、結衣に声をかけたら


「一人で帰る」


 といったのだった。

 

「なんで?」

「だって、おばさんは家族じゃないから、悪いかなって」

「そんなの気にしてないよ」

「でも……」


 結衣はいつもそうだった。

 世話になり過ぎてはいけないと、気を遣って。


「じゃあ、「僕」は家族だからいいよね」

「え?」

「僕は結衣の家族だから、一緒に帰ろう」

「いいの?」

「家族は一緒に帰るものでしょ?」

「……ありがとう!」

 

---


「いや、俺にとっては当然のことだったからな。別にかっこつけて言ったわけじゃないし」

「そうなのね…ふふっ。そういえば、あのときは、「僕」だったわよね」

「忘れろ」


 ちょっと可笑しそうな結衣。


「俺にとっては恥ずかしいんだよ」

「今でも、「僕」でいいわよ?可愛らしいし」

「可愛らしいって、お前な…まあいいか」


 可愛いと言われるのは微妙だけど、嬉しそうなこいつの顔をみていたら、どうでもよくなってくる。

 

「これからも一緒にいてね」

「ああ」


 こっちの気もしらないで、無邪気なことをいいやがる。

 こいつにしてみれば、ずっと一緒に過ごせることの方が恋愛できるかよりも重要なんだろうけど。

 ちょっとは意識させてやりたくなって、仕返しを考えた。


「ずっと一緒にいるってことはさ」

「え?」

「キスしたり、エッチなことをしたり、子どもを作ったりするってことなんだよな」

「……えっち」


 頬をあからめて、そう言い返してくる。

 勝った。


「……でも、良かったよ」

「何が?」

「そうやって、ちゃんと意識してもらえてるんだなってことが」

「そうかしら?」

「おまえは、家族としか思ってない相手と、キスしたりエッチしたりすることを想像してたのか?」

「だって……それは昴だから」

「おまえも難儀なやつだなあ……」


 考えてみれば、今のこいつにとっての「家族」はおじさんと俺だけなのだ。

 そもそも、「家族」の意味がずれているのかもしれない。


「それは自覚してるわ」

「なら良かった」

「人をなんだと思ってるのよ」

「ど真面目な天然」

「天然は余計よ」

「天然だと思うけどなあ」


 そんなことを話しながら、帰ったのだった。

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