第14話

私はルカ達に視線を合わせる様に膝をつくと、彼の目を見つめた。

「ルカ達はどうしたい?今さらなんだけど、あなた達の気持ちを何一つ聞いてなかったね」

いくら私が皆を引き取りたいって言っても、この子等がどう思っているかだ。大事なのは。

此処まで話を盛り上げておいて、今更だよね。順番間違ってるよね。なんて思わず心の中でボケとツッコミをしてしまったわ・・・

「僕は・・・・」

「遠慮しなくていいよ。我侭だと思ってるんならそれを言っていいんだから。ルカの本心が知りたい」

彼は少し迷う様に視線を泳がせた後、意を決したように顔を上げた。

「僕は・・・皆と一緒に居たい・・・」

彼等五人は村では顔なじみだったようだ。一度、壊滅状態だった村が何とか復旧したとはいえ、元々そんな大きな村ではない。

村の皆が顔見知りといっていいほどの規模だったようだから。

村が焼かれ、引き取られた孤児院では虐待され・・・・多分この五人でいなければ、とっくに彼等は壊れていたのかもしれない。

「うん、わかった。ミリナは?貴女はどうしたい?別にルカに同調しなくてもいいんだよ?ミリナ個人の意見を聞きたいんだから」

ミリナは迷うことなく「ルカと一緒です」と言った。

そしてアリオスから降りたココとナナも「みんなと、いっしょにいたい、です!」と言いながら、ミリナの腕にしがみ付く。

最後にティナ。彼女は私の前まで来ると、私の手を握った。

「ティナ、おねぇちゃんと、いっしょに、いたい」

「え?私?」

「うん。だって、ティナたちのこと、たすけてくれたし、やさしいし、かわいいし、きれいだもん!」

そう言うと、勢いよく抱き着いてきた。

助けた事に関しては、まぁ、成り行きだったし。でも、最後の可愛いし綺麗って・・・何の事??

「最後の方はよくわかんないけど・・・じゃあ、皆一緒に居たいって事でいいのね?」

子供達は一斉に頷いた。

後は私の覚悟だけだよね!

道が一本しかないんなら、それを突き進んでいくしかない。

別に自己犠牲だなんても思わない。これから置かれる私の立場を利用するくらいの気持ちでいくわ!


私はティナを抱っこしながら、立ち上がる。そして、アリオスの方を向いた。

「アリオスの提案にのりましょう」

私がそう言うと、アリオスは驚いたように目を見開き、そして次の瞬間、破顔した。

その、無防備で無邪気で、そして、綺麗な笑顔に、不覚にも一瞬見惚れてしまったわ!何か悔しい!

「本当!?もう、訂正はきかないよ!?」

「訂正しないよ。それより、これからリズや子供達を交えて、契約内容を詰めるわよ」

「・・・へ?」

「だって、これは提案なんでしょ?なら、きちっと約束事を定めないと。後で『こんなはずじゃなかった!』って言われても困るからね」

私、間違った事言ってないよね?

なんか、アリオスの顔が・・・いや、表情がものすんごく、微妙なんだけど・・・

「アリオスは魔力の強い子供達を手元に置きたい。私は、この子達と一緒に暮らしたい。互いの思惑の一致って事での提案なんでしょ?」

「え?まぁ・・・それは・・・」

「正直、アリオスの気持ち知っているだけに、それを利用する事だけはしたくなかったんだけど・・・」

でも、アリオスはこれを機にあわよくば、と思っている。ならば・・・

「そっちがそう言う不純な気持ちも混じってるんであれば、私も遠慮なく利用させてもらうわ!」

力強く宣言すれば、リズは呆れた様な、でもどこか嬉しそうに口元を緩め頷き、アリオスはちょっと納得いかないような顔をしながらブツブツとこぼし、子供達はキラキラとした期待感を前面に出した眼差しで頬を染めながら見上げてくる。

なんか、それぞれが浮かべる表情があまりに違いすぎて、私は自然と口元が緩んでしまった。


正直なところ、全くもって想定外の事態。

子供の事があってもなくても、いずれはこのお城を出て自立するつもりだった。

なのに、どんなに迫られても恋人ですら絶対になりたくないって、思っていたのに・・・まさかまさかの、いきなり婚約だなんて・・・

どこから切り込んでこられるかわからないもんだわ・・・流石は、次期国王様・・・抜け目ない!


なんて思いながらも実は、心の奥底でどこかほっとしている自分がいるのも否めない。

正直、子供五人抱えて生きていく事に不安があった。勢いや気力だけでやってけるほど甘くない事は分かっているから。

町に降りて、家は見つかるか・・・仕事は見つかるか・・・ちゃんと生活できるのか・・・彼等と上手くやっていけるか・・・

考えれば考えるほど事細かに不安が湧いてくる。だから、アリオスの提案は渡りに船だったことも確かだった。

確かなんだけど・・・ちょっとした疑問も湧いてくる。

アリオスは私の考えなんてお見通しで・・・『提案』と言う形で救いの手を差し伸べてくれたんじゃないのか。

『婚約』を前面に出しちゃうと、拒絶反応が出ちゃうのわかっているから・・・・

考えすぎかな?とも思うけど、彼は私が思っている以上に、言い方は変だけど『賢い』人だと思う。

実際のところ、私は彼の手の上で転がされているだけなんじゃないのだろうか・・・

自分では冷たくあしらって相手にもしていないつもりだったけど、アリオスから見れば、面白いくらいジタバタしてる様にしか見えて無いんじゃないか・・・


そこまで考えてふっと・・・アリオスを見れば、ちょうど彼もこちらに顔を向けてきて、ばちっと目が合った。

ちょっと驚いたように目を見開き、そして、先ほどの無邪気な笑みとは違い、どこか優しさや愛おしさを滲ませた・・・私でもわかってしまう位の、甘い甘い笑みを寄与してきた。

それを正面から食らった私は、カッと頬に熱が上がっていくのを否が応にも自覚してしまう。


半端ない破壊力っ!なにこれっ!

顔が熱い!!

・・・・私、今までこんな笑みを向けられてても、平気だったの!?信じられないっ!!


一人悶絶する私にアリオスが近くまで寄ってきて、手を差し伸べてきた。

「さぁ、契約内容を話し合おう」

その一言に、私は一つ大きく深呼吸して、彼の手をとる。うん、大丈夫!


間違っても結婚なんかに向かっていかないよう、私は気を引き締めた。



それから間もなくこの国の全ての孤児院に抜き打ちで視察が入り、いくつかの施設が摘発された。

そして、フレデリック伯爵の施設から売られていった子供達の行方を追い保護していったのだけれど、中には本当に幸せに暮らしている子もいて、軽い刑罰は課せられるものの、無理矢理引き離される事は無いという事で、そっと胸を撫で下ろした。

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