第13話
子供全員を引き取るには、王子であるアリオスと婚約すれば、全て
直系の王族・・・王様か世継ぎの王子であれば、無制限とまではいかないが子供五人くらいは引き取ることができる。
但し、子供等は未来の王様にはなれない。けれど王族に籍を置く事はできるのだ。
正直、私も考えたよ。
でも・・・・いや・・・いくら馬鹿で恋愛経験乏しい私でもそれは躊躇う。
「それは・・・やっちゃいけない事だと思うんだ」
アリオスの気持ち知ってるから・・・それを利用するような事は、いくら馬鹿な私でも、したくないな・・・
それに、下手すればそのまま結婚まで持っていかれそうだし、油断大敵だよね。うん。
ちょっとだけしおらしく言えば、なんかアリオスが「何で?」みたいな顔をして小首を傾げる。
いや、私の方が「何で?」だよ?偽装恋人だよ?嘘んこ婚約者だよ?なのに・・・
「・・・・なんで、嬉しそうな顔してんの?」
アリオスは無駄にキラキラと、それはそれはいい笑顔を浮かべていた。
「なんでって、嬉しいからに決まってるじゃないか」
「はぁ?」
「この子等は恐らく、ムスファ村出身だ」
「ムスファ村?」
いきなり話が明後日の方向へ飛んで呆気にとられながらも、そう言いルカを見ると、彼等は小さく頷いた。
「ムスファ村はちょうど一年前位に、滅ぼされてしまった」
「え??」
アリオスの話によると、ムスファ村はこの国の北側にある国との境目辺りにある村で、領土的には北側の国に属するそうだ。
北側の国とは、私が落ちてきた時に戦っていた敵国でもある。
その村はもの凄い高確率で魔力持ちが生まれていて、どの国も喉から手が出るほど欲しがっていたらしい。
当然だよね・・・生まれてくる子供がほぼ百%の確率で魔力持って生まれてくるんだったら・・・
それが原因で大きな戦争が起きたらしく、悲惨な事に村人の半数以上が亡くなってしまって、さすがにそれは本末転倒という事で、ムスファ村は北側の国に属してはいるけど・・・不可侵国というか、・・あっ、国じゃなく村ね。に認定されていた。
何処の国であろうと、この村には干渉していはならない。そう言う位置づけになったらしい。
かなり時間はかかったけれど、村には平和が戻り、これまでの日常を取り戻したらしいんだけど・・・
今から一年前位に北側の・・・元々、村が属していた国の国王が崩御し息子が跡を継ぐと事態は急転。
彼は王になった途端、前国王の喪が明ける前にムスファ村に火をかけ、焼き払ってしまった。皆が寝静まっている、真夜中に・・・
しかも、焼き払うだけではなく襲撃までしていて・・・勿論、新国王率いる騎士団がだ。
それはもう、一瞬の出来事で、他国が助けに入る間もなく・・・異常事態にいち早く気づいたこの国の騎士が駆け付けた時には、正に屍累々だったという。
村人の九割近く亡くなり、生き残った人たちは散り散りに逃げ、保護されたのは数人だったという。
そして何故、村が襲撃されたのか・・・その理由が実にくだらない!!
新国王には魔力がなかったから、というのが理由。
王族は精霊に加護を受けているので、ほぼ九割がた力の強弱はあるが魔力持ちが生まれてくる。
だけれど、稀に魔力の持たない子が生まれてくるらしい。
王族でありながら魔力を持たずに生まれてきた時、その先の運命はかなり辛辣なものとなるようで・・・
だから、そんなこんなの恨み辛みを、魔力の代名詞となっていたムスファ村を消滅させ、晴らしたのだという。
「・・・・・実に、下らないっ・・・」
不快感も顕わにそう吐き出せば「皆、そう思ってますよ」とリズが頷く。
「大体、魔力があろうとなかろうと、自分の子供じゃない!その国の未来を担う王様になるのであれば、尚更大事に育てなきゃいけないじゃない!それを、魔力の有無だけで・・・そんなくだらない事で・・・」
私の世界にも子供を虐待する親はいた。だけど・・・その仕返しが・・・全く関係のない、村一つ滅ぼすなんて・・・
手を下した現国王にも腹は立つが、それよりなにより、親である前国王やその周りの人間達にも腹が立つ。
そして魔力云々で差別するこの国の・・・この世界の制度の在り方に。
「八つ当たりなんてレベルじゃない!狂ってる・・・」
目の前の、被害者となった子供達を抱きしめる腕に力を込めた。
「そうだね。だから他の国々ではムスファ村の生き残った人達を見つけたら無条件で保護する事に決めたんだ」
アリオスは私を宥める様に、ポンポンと優しく背中を叩いた。
そして、とんでもない爆弾を落としてくれた。
「サクラ、俺と・・・いや、私と婚約しよう」
あっちこっちと飛ぶ話の内容について行けず、間抜けな顔で「はぁ?」と返せば「これは提案だ」とアリオスは表情を引き締めた。
「ムスファ村の人間は保護対象だ。保護された後は・・・この子等は子供だから養子としての引き取り先を探すことになる」
「じゃあ、やっぱりバラバラ?」
「残念ながら、五人一緒には無理だね」
「・・・・・」
「そこで、私からの提案だよ。サクラ」
そう言ってアリオスは、私にはあまり見せることのない、王子の顔をした。
「私はムスファ村出身の子供達を・・・この子等を手元に置きたいと思っている。それは、精霊の王達が認めるほどの魔力を持っている人間を他人に渡したくないし、将来、私が王としてこの国を治める時に、力を貸してもらいたいと思っているから」
そう言いながら、ティナの頭を撫でた。嬉しそうに笑うティナにアリオスも又、優しく微笑む。
あぁ!!その笑顔ズ!!美しい!!
私は思わずよろめいてしまった・・・・
「この子等はとても賢い。そして思慮深い。そして何より、幸せと不幸を身を持って知っている。この世の理不尽を身を持って体験している」
ココとナナが恐る恐る手を伸ばせば、アリオスはその手を取り、軽々と両腕に2人を抱き上げた。
「私はね、皆が笑って過ごせる国を作りたい。だけどそれには今まだ私は未熟であり、一人では当然成し得ない事だ。だから心から信頼できる腹心を一人でも多く欲しいと思っている」
「それが、この子達?・・・でも、それを条件に引き取るのは・・・」
私が渋ると「勿論、選択は自由さ。恩を感じる事もない。だって、私たちは村を守ることができなかったんだから」と、ココとナナに頬擦りした。
その光景に私はまたも、よろめいてしまった・・・・
あぁ・・・美しいです!キラキラ王子に抱っこされる、超可愛らしい双子ちゃん!!まさに、眼!福!!
心の天秤がぐらぐら傾き始めたその時、リズの冷たい言葉が降り注いできた。
「方便ですよ。建て前です」
「へ?」
リズを見れば、「やれやれ」という様な顔で肩をすくめた。
「彼の言葉全てが建前ではありません。ほぼ、九割がた本音でしょう。ですが。残りの一割は・・・・」
「リズ!お前は俺の味方じゃなかったの!?」
あっという間に王子の仮面は剥がれ、焦った様にリズに詰め寄った。
口を塞ぎたいけど両腕には子供を抱いているため、オロオロと正に挙動不審。でも、子供達には何故か大うけでアリオスの首に抱き着きながら喜んでいる。
その姿を眺めながら、私は『・・・可愛い・・・・!!』と悶絶していると、またもリズの冷たい声が降りてきた。
「彼はこれを機に、あわよくばと思っています」
「それって、やっぱり・・・結婚?」
「そうです」
そう言いながらリズは真面目な顔で・・・って、何時もと同じ顔なんだけど・・・私と目を合わせた。
「サーラ様、これはあなたが思ってる以上に繊細で覚悟のいる案件です」
・・・・案件って・・・・
「王子との婚約は置いておくとして、子供を引き取る事・・・しかも五人。一人とて大変なのですよ?それをわかっておりますか?」
「わかってるよ。他人と住むって事がどれだけ大変か・・・自分が生きていた世界でも仕事上だけでの付き合いだけでも大変だったし、嫁いだ友達の愚痴もよく聞いてたから・・・」
私の友人で既に結婚している子がいるのだけど、旦那さんの実家に入った子もいる。
会うたび、まぁ、日々の鬱憤やストレスを散々聞かされてきたから、感覚的にはわかっているつもりだけど・・・・
「聞くのとするのとでは大違いです」
「むぅ、分かってるわよ。リズ、『案ずるより産むが易し』って言葉知ってる?誰だって初めから母親な人っていないでしょ?子供ができて初めてその気持ちが芽生えてくるんだと思う。私は子供産んだこともないし当然、結婚もした事無い。だから全て手探り。子供達だってそう。いきなり今から私がお母さんだよって言ったって、納得できないと思うもの」
私は本来、能天気な訳ではない。だから、こんな事・・・いきなり子持ちになろうとするなんて、絶対にありえない事だ。
それでも、画面の向こうの出来事ではなく、手を伸ばせば触れる事ができる距離での出来事。
そして、私の力ではないけれど、目の前の事柄をどうにかできる有難い環境に居る。
まったくもって・・・・こんな訳の分からない異世界に飛ばされた所為で、頭のネジが数本飛びまくってしまったのかもしれないわ・・・
何となく自分自身が、青い春を全速力で突っ走っているようで、ちょっと恥ずかしいようなむず痒い気持ちに戸惑っていると、私はある事に気づく。
いや・・・なんか、今更ながらに、気付いたんだけど・・・・
一番最初に聞かなくていけない大事な事なのに、と私は焦って子供達へと顔を向けた。
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