第7話

リズのおかげで(?)友達から始める事にした私とアリオス。

今日は二人で親睦を深める名目で町にやってきた。

所謂「デート」ってやつですね。

まぁ、色気も甘さも皆無なんだけど・・・・私の周りの人間たちは、アリオスと私を何とか結婚させたいようで、少しでも関係を進展させようと色々とイベントを提案してくる。

城内では、どこぞの貴族令嬢達にいつも追いかけまわされているアリオスを気の毒と思ったのか、城外でのデートを企てたようだ。

当然、後ろからは一般市民を装いリズや騎士の皆さんがついてきるので、勿論、二人っきりというわけではない。

まぁ、アリオス一人居れば護衛などなくても安全だとリズは言っていたけど、念には念を入れてという事らしい。


でも、リズと町に出かけて以来のお出かけに、私のテンションは上がりまくり。

相変わらずフードで顔は隠してるけど、楽しいです!嬉しいです!

私は年甲斐もなくはしゃぎまくりで、普段では絶対にしない、アリオスに自ら手を伸ばした。

「ねぇねぇ!リオン、あそこのパン屋さんに行ってみたい!!」


リオンとはアリオスの事で、まぁ、偽名というやつだ。

アリオスは、イケメンキラキラ王子で女性のみならず国民にも大人気で、それこそ顔バレしまくり。同様にリズも大人気なのだそうだ。

なので容姿も魔法で変えているからこの国の王子とはわからないが、それでもイケメン一般市民。

だから、フードで顔を隠しているのは私だけ。私の事も魔法でちょちょい・・・と変えてくれればいいのにって言ったら、どうやら私には魔法がかからないようなのだ。

どうしてなのかは彼等もわからないとの事。私の顔はごく一部のまぁ、その道を極めた人たち・・・暗殺者とか暗殺者とか・・・に顔バレしているようなので、あまり公にはできない。

ましてや、顔の作りも違うから目立つんだよね・・・悲しい意味で、目立つ・・・特に、こんな美形と一緒だと。

でも、まぁ、楽しいから今はそんな事は考えず、この活気ある雰囲気を満喫する事にした。


アリオスに手を伸ばし「早く行こうよ!」と彼を見れば、何やら赤い顔をし目をまん丸にして動かない。

「・・・?リオン?どうしたの?具合悪い?」

さっきまでは普通にしてたのに・・・どうしたんだろう?

急に具合悪くなった?熱でもあるのだろうか・・・・

私は熱を測ろうとして、アリオスの額に手を当てた。

すると彼はびっくりしたように飛びのき、一気に距離が開く。

その反応に私も驚き、額に当てていた手もそのままに固まった。

「・・・・・ごめん、熱でもあるのかと思って・・・嫌だったよね」

拒絶された様に感じて、私は何だか悲しくなりながらも、謝る。

そしてチクリと胸を刺すような痛み。


あぁ、そうか・・・私はいつも王子を拒絶してたんだ・・・

まるでブーメランだな・・・・・・・なら、私が傷つくのはおかしいだろう・・・


俯き胸のあたりをギュッと握る私に、彼は焦った様に弁解し始めた。

「違う!嫌じゃない!すっごい嬉しいから!!」

そう言いながら開いた距離を、一歩一歩縮めてくる。

「その・・・今日のサクラ、沢山笑ってくれるから・・・見惚れてたっていうか・・・」


・・・・え?


「俺の前ではあまり笑ってくれないだろ?だから、嬉しくて」


あ―――確かに、彼の前ではあまり笑った事、ないかも?

でも、そんな幸せそうな顔でそんな事言わないで欲しいかも・・・

罪悪感が・・・

今まで王子に取ってきた態度が走馬灯のように脳内を駆け抜け、情けないやら恥ずかしいやら・・・色々な感情が入り交じり、思わず悶絶しながら顔を手で覆いしゃがみこんだ。

更に、免疫がないのよ!男からそんな事言われた事無いし!

あぁ・・・止めて欲しいっ!


「サクラどうしたの?」

アリオスまでしゃがみこみ、私の顔を覗き込んでくる。

きっと真っ赤になって情けない顔をしているであろう、この表情を見られたくなくて取り敢えずそっぽを向く。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、アリオスは手を差し出した。

「あのパン屋へ行くんだろう?あそこは木の実が入ったパンが美味いんだ」

うぅ・・・木の実のパンだって?

色気よりも食い気の私は、思わず呻ってしまう・・・

いつまでもこうしているわけにはいかない・・・時間は有限だもの。

・・・・くっそ~~!腹を括れ、桜っ!!

自分に喝を入れ、まだ赤いであろう顔を上げアリオスの手を取って立ち上がった。

取り敢えずフードが顔のほとんどを隠してくれてる事に感謝しつつ、アリオスを見れば何故か彼は頬を染めどこか緊張した面持ちで私を見ていた。

「アリオス?」

彼にしか聞こえない声で名前を呼べば、びくりと身体を震わせそして、私の手をギュッと握った。

「どうしたの?」

見惚れてたなんて言ってくれたけど・・・やっぱりどこか具合でも悪いのかしら?

「無理しなくていいよ?帰ろうか?」

正直、めちゃくちゃ後ろ髪引かれるくらい未練たらたらだけど、具合悪い人を引きずり回す趣味はない。

私は、リズを呼ぶために手を離そうとしたら、彼は焦った様に手を引いてきた。

「おわっ!」

急に引き寄せられバランスを崩しそうになってよろけると、アリオスが支えてくれた。

「ごめん!俺、大丈夫だから!色々見て回ろう?」

何処か焦った様にまくしたてる彼の勢いに押され、私は思わず頷く。何か、鬼気迫るものがあるなぁ・・・

そんなに楽しみにしてたのかな?結構、遊んでそうなイメージなんだけど・・・

女にはモテまくりだったってリズも言ってたし。

女性に対してスマートなエスコートはお手の物・・・と、心のどこかで思っていたので、彼の反応は意外でしかない。

確かに私の事を好きだと告白はしてくれたけど・・・・ここまで挙動不審になるものだろうか?

最近ではグイグイと求婚してきた勢いはなりを潜め、毎朝会うたびに『おはよう』の他にもの凄く照れた様子で告白をしてくるようになった。

その様子は何故か初々しく見えて、周りの側近たちは生暖かい眼差しを向けてくる。

『このタラシが、今更・・・・』みたいな?

好意を寄せてくれるのは嬉しいし、正直照れるけど、今の所の私はただそれだけの感情しか湧かなかった。

やっぱりどこか、彼の事が信じ切れていないのかもしれない。

でも、こうして一緒に出掛けて遊んで楽しいなと思うくらいは、友達としては気を許しているのだろう。

新たな職場のボスでもあるし。一応、今はプライベートだし。


私はアリオスの手を握りなおし、何処か不安そうな彼に笑顔を向ける。

「じゃあ、パン屋さん行こうか!」

驚いたように目を見開いた彼はすぐに安心したように頬を緩めた。

そして私たちは、手と手を取り合ってパン屋へと向かった。






その頃、二人から離れたところで護衛を兼ねて見守っていたリズと騎士達。


「あのバカ二人を見ていると、面白いを通り越して、イライラしてくるわ」

「リゾレット様・・・あの王子が純愛しているところが面白い・・・いや、気持ちわる・・いいえ!微笑ましいではありませんか」

「本心がダダ漏れよ、ルイ」

「申し訳ありません」

「悪いだなんて欠片も思っていないくせに。まぁ、みんながそう思っているんだから大したことではないわ」

「いやはや、俺の部下達は素直なやつばかりで・・・」

「はいはい。私たちもパン屋に入るわよ」

「御意」


常にそんな感じで周りから見られていた事に気づくことはない、お気楽な二人なのでした・・・


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