第10話 キス
「これで、ほぼ追いついたかな」
数回の勉強会を経て高野は授業についていけるところまできていた。
「住吉君のおかげよ。ありがとう」
「いや、高野さんのやる気があったからだからね。でも、これで放課後勉強会は終わりかな?」
「え、終わり?」
「だって、もう高野さん十分に授業についていけるところまできたでしょ」
「あ、そっか。そのためにお願いしたんだった」
「どうかしたの?」
少しばかり沈んだ表情の高野に愛翔は気をとめ声を掛けると、
「ううん。この勉強会が楽しかったなって思っただけ」
「そっか、楽しかったって思ってくれたなら、オレも付き合った甲斐があったよ。それにオレも楽しかったし」
バッと顔を上げた高野は愛翔に一気に詰め寄る。
「す、住吉君。住吉君も楽しいって思ってくれたの?」
あまりの勢いに少しばかり飲みこまれながら
「あ、ああ、高野さんとの勉強会楽しかったよ」
途端に何かをこらえるように俯く高野だったけれど、再度顔を上げ
「それなら、また勉強会を一緒にしてくれる?」
「おお、いいぞ。今度は定期試験前かな」
「うん、お願いね」
ノータイムで返す愛翔に、高野が、はにかむ様な笑顔を見せる。その笑顔に絆されたように愛翔が高野の頭を撫でる。
「え?」
思わず、固まる高野に
「ご、ごめん。ついくせで」
咄嗟に離そうとする愛翔の手を高野は掴まえて
「もっと撫でて」
そう言われてしまっては愛翔もそのまま撫で続けるしかなかった。
「ラノベでよく女の子が頭撫でてもらって喜んでるの見て、信じられなかったけど、初めて体験して分かった。これは癖になるね」
蕩けた顔で愛翔にすりよる高野に、
「そ、そうなのか?」
愛翔は、桜や楓以外からこんな距離感を求められるのは初めてでやや混乱している。それでも愛翔の手に頭を押し付けるようにすり寄ってくる高野に押し切られるように撫で続ける。
「あー高野さん、ひとりだけずるい。あたしもぉ」
図書室に飛び込んできた桜が2人の様子をみて自分もと愛翔にだきつく。ためらうことなく自然に受け入れ桜の頭を撫でる愛翔。甘えん坊の顔で愛翔にすり寄り、自然に頬に口づける桜。羨まし気に見る高野だけれど、さすがにそこまでは出来ない。
「ねぇ、華押さん。すっごくナチュラルに住吉君にキスしてるけど、ここ図書室よ」
指摘された桜だけれど
「ほえ?そうね図書室ね。だからなに?」
「そ、そんないやらしいことをしたら……」
高野の言葉にぱちくりと瞬きをし不思議そうな表情で見返す桜。
「でも、ほっぺよ?」
「ほっぺでもです」
「欧米ではマウストゥマウスでも挨拶よ」
「ここは日本です。それともあなたは挨拶でマウストゥマウスのキスが出来るとでもいうの?」
「出来るよ。そりゃ親しくない人とは嫌だけど、愛翔くらい仲の良い人なら平気よ」
そういうと愛翔の唇を唇でふさいだ。
「ね」
可愛らしい笑顔を見せる桜に高野は言葉を失った。そして愛翔の顔を伺う。そこには普通ににこやかな笑顔を見せる愛翔。それをみた高野は愛翔にも問いかけた。
「住吉君、あのこういう場所でのキスはどうかと思うのだけど」
「ん~、誰かれかまわずならともかく今の程度ならいいんじゃないのか。周囲に迷惑かけてるわけじゃないし。あ、迷惑と言えば桜、図書室であんな大声だしたら他の人に迷惑だからな。図書室では静かにだ」
「あー、うん。ごめん。わかった」
高野はふたりの会話に自分の常識が間違っているのかと感じてしまい、いたたまれなくなりその場を離れることにした。
「あ、あの、住吉君よくわからないけど、今日はこれで帰るね。また勉強会お願いね」
パタパタと上履きを鳴らし帰る高野を愛翔と桜は首を傾げて見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます