大切な二人
慌てて、自分のスマホを取り出し、時間を確認するすずふみ、のえるのスマホでも確認できたはずなのだが、それよりも早いと踏んだのだろう
・・・いやそれよりも突発的といったほうがこの場合正しい。
・・・スマホの時計の時刻は十七時五十分、のえるに送られてきたLINEは十七時二十分・・・即ち時間にして、今から二十分ほどまえに送られてきたことになる。
『のえるっ』
『そうだよっ。あいつらまだ無事なんだ。裏庭に急ごうっ』
すずふみ、のえるの目にあった涙は、もう綺麗さっぱりなくなっていた。
(じぇね、いふ、待っててっ。私たちが今いくからっ)
そんなとき、れつとゆういちが来ないことに気づく。すずふみは、目でそれをのえるに訴える。首を横に降るのえる。そしてただ一言。
『すず、今は早くいこう』
『・・・あ、うん、そうだね』
すずふみは頷く。・・・のえるの気持ちを察したのだ。優先的に考えると、今危機に陥ってるいふ、じぇねのほうが先なのは目にみえている。
助けを求めているのだか。裏庭に向かい歩を早める二人。助けたいという感情が沸きだし、それはやがて走るという動作になる。
一直線を見つめ、先を急ぐ二人の女生徒。やがて目のまえに目的地に裏庭が見えてくる。裏庭に足を踏み入れる。
ビュウウウウウンッ
『きゃああぁぁぁぁっ!!』
すずふみのえるを襲う強い風。二人は目に砂や埃が入らないよう、反射的に目を閉じる。
・・・やがて、それが収まると二人は目をゆっくりと開ける。
・・・丁度、その二人の視界に映ったのはずっと逢いたかった後輩達。いふ、じぇねの姿。
愛しいもの達が無事であったことに大喜びする二人。その場へとすぐに駆け寄る。そして、さっきは距離がありよくわからなかったであろう、二人の後輩の変わり果てた姿に絶句する。
学生服は所々、なにか刃物のようなもので切られ、それらから血が滲み出ていたからだ。さらに、可愛らしかった二人の顔もまた、所々の切り傷からでる血液で赤く染まっていたのだから。
女性の命とも言えるもの、それを奪われてしまったのだ。
・・・再び溢れ出してくる涙。すずふみはいふの、のえるはじぇねの手を優しく握った。包みこむように肩を抱いた。
そして優しくゆっくりと声をかける。
『じぇね、いふ。すずふみだよ』
『私もいるよ・・・ごめんね。おそくなって』
肩で息をしているいふとじぇね。先にいふのほうが力なく口を開いた。
『すずっ・・・ちゃ・・・のえ・・・る・・・身体中・・・痛いよ・・・はぁ・・・はぁ・・・い・・・ちゃん・・・このまま・・・しんじゃう・・・のかな』
『ばかっ・・・死ぬわけ・・・ない・・・だろ・・・変なこというなよ』
のえるの目から溢れ出す涙が勢いを増す。
『すず・・・ちゃん・・・の手って・・・あった・・・かいね・・・ケーキ・・・おいしか・・・た』
二人の身体からでる血で辺りは湿っていた。生きているのが奇跡だった。
『はぁ、はぁっ・・・すず、ふみ・・・さん・・・の・・・える・・・さん・・・生意気・・・でごめん・・・なさい』
『・・・ごめんな・・・さい・・・はぁ、はぁっ』
じぇねといふの口からでる言葉のその意味を、すぐに理解するすずふみとのえる。
『いふ・・・のこと・・・嫌いに・・・ならないで・・・くださ・・・い』
『のえ・・・る・・・さん・・・すず・・・さん・・・やさしく・・・て・・・大好きで・・・した』
『・・・嫌いに・・・なんか・・・なる・・・もんか・・・』
じぇねを強く抱き締めるのえる。
『いふちゃんっ、じぇねちゃんっ・・・わたし・・・うぅ・・・だって・・・大好きだよ』
すずふみの最後の言葉はもう、聞き取り難いものとなっていた。
『あぁっ、ちょうどよかったよ。もうその玩具には飽きてきたところだったんだ』
後ろの方から子供の声。あまりの出血からか気を失った二人の後輩を背にのえるは振り返る。すずふみは首から上を声のした方へと向けた。
二人の視線の先には大きいつむじ風が二つ。小さいものが一つ。
竜巻のように旋風を巻き起こしており、その丁度真上辺りに子供が浮かんでいた。あまりにも現実離れしたその光景に二人は言葉を失う。
『・・・新しいおねえちゃんたち、可愛いなぁ・・・ぼくと遊んでくれるの?』
『遊ばねぇよっ!!』
すずふみ達とは違う方向から現れた人影。・・・れつとゆういちだった。その姿をみた子供は不機嫌そうな顔になり、小さな口を開く。
『僕は人間の男が嫌いなんだ・・・死んじゃえっ!!』
何かの危険を感じとったれつはすぐ隣にいたゆういちを思いきり突き飛ばす。
『ぐわああああああっ』
真空のカマイタチがれつを襲う。身体中から血が吹き出し、更には十メートルほど吹きとばされる。うつ伏せに倒れたその身体からは赤いものが止めどなく溢れでる。
・・・そして、そのまま起きることはなかった。
『れつさあぁぁんっ!!』
ゆういちは絶叫する。そんな様子をつまらなそうに眺めていた子供はまた、口を開く。
『やっぱり・・・人間の男の声はよくないね・・・耳障りだよ・・・おねえちゃん達のほうがいいやっ』
子供は口元を緩め、すずふみ達の方へ振り返る。
『ねぇ、おねえちゃんたち、僕ねこれから、そこの飽きた玩具を壊そうとおもうんだけど巻き込まれないように気をつけてね
・・・ほらおねえちゃん達にはこれが終わったら僕と遊んでもらわなくちゃいけないから』
『・・・大事な後輩たちを放り出して逃げるなんてこと絶対・・・わたしはしない。救うことができないならあの世までまでついてってやる』
『私だってそうだよ・・・いふちゃんやじぇねちゃん。のえる・・・だけに辛い思いはさせない』
『それにな・・・おいっ、クソガキっ!!、おまえなんかと遊んでやる気もないんだよっ!!』
そんなのえるの言葉に怒りをあらわにする子供。
『おまえらなんか死んじゃえっ!!』
子供の下で渦巻いていた風の勢いが強くなり、巨大化していく。それはやがて校舎の三階くらいの高さになる。
ブオォォォォォォオオンッ
それは四人に女生徒を死の淵に誘うべく、迫りよる。れつを死に追いやった真空の刃が辺りを切り刻んでゆく。
『・・・ぐっ』
のえるは死を覚悟する。
『いふ、じぇね・・・ごめんね』
そしてすずふみも気絶している二人を強く抱きしめこの世との別れを待つ。
ビュンッ
そんな絶望の中、物凄い速さで、何か小さくて白いものがのえるの前に降り立った。
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