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『ごんぶと、スマホ大丈夫だったか・・・?』


れつが心配そうに言う。


『・・・さぁ・・・みてねぇから・・・』

『・・・そうか・・・』


場に気まずい空気がながれる。誰一人として口を開かない。そんな沈黙をゆういちが破った。


『れつさんらしくないじゃないですか・・・今はじぇねちゃんといふちゃんをさがすのが先でしょ?』


『・・・あ・・・あぁっ、そうだね。わるいゆういち』

『ほらっ、すずふみものえるもっ』

『うん』

『ほんと、そのとおりだね』


ここまで、笑顔を作ってきたゆういちだが、ごんぶとの方に振り返ると眉間にシワをよせる。


『・・・それからごんぶと』


自分に対してだけ苛立ちをこめた、ゆういちの話し方に、内心ムッとするごんぶと。


『なんだよ?』

『・・・おまえ、協力する気がないなら来なくていいよ。』


あっさり・・・それはあまりにもあっさりだった。ゆういちから、いきなり予想外の戦力外通告に、ごんぶとは目頭が熱くなるのを感じる。


・・・自分がいなくてもよいという悔しさや、切なさは、被害妄想の強いごんぶとの心に大きなダメージを与えたのだ。


そしてそれは、相手に対する怒りにかわる。


『ああ、そうかよっ!!』


そう、ゆういちを睨み付けて踵を返すごんぶと。わざわざ大きな足音をたてながら。


そして反撃をしてこない物。壁を蹴るとその場を後にした。残された四人は、それをただ静かに見つめている事しかできなかった。


れつは静かに口を開く。


『・・・ゆういち・・・』


その声に振り返るゆういち。のえるとすずふみも続いた。


『れつさん、甘いんだから。俺よりもずっと、あいつが他力本願だってことを知っていると思いますけどねっ、


連れていっても足手まといになるだけですよ。・・・ごんぶとの場違いな態度に頭にきたんですよね?


俺には、そんなれつさんの一直線な気持ちがよくわかります。だから、代わりに言ったまでです。


・・・ねぇ、れつさん?。相手を思いやる心がとり返しのつかないことになる場合だってあるんですよ。ひとりのやる気のない人間がまわりを危険にさらす。・・・俺はあんな奴のために自分を犠牲にしたくない。』


『・・・そうだな・・・俺はごんぶとにも協力して欲しかった。友達だから。・・・だけどそれは俺の理想のルールにのってほしかっただけなのかもしれないな・・・』


そんなれつの心情からでる言葉をかみしめるとゆういちは言った。


『・・・れつさん、俺がなんでれつさんだけ(さん)づけで呼ぶかしってます?・・・生まれも半年しか違わない同い年なのに。


それはれつさんを尊敬しているからですよ。俺のない部分をいっぱいもってるから


・・・か、勘違いしないでくださいよ。恋愛ってことじゃないですから。俺はノーマルなんでっ』


ちょっとだけ赤みを帯びるゆういちの顔。その言葉にれつは笑いながら答える。


『ははっ、それはいわなくてもわかるよ・・・でもありがとうな』


その言葉の後、れつは再び真剣な面持ちとなる。


『・・・話をもとに戻そう。すずふみさんの態度でわかったんだけど、職員室の先生達ってなにか見えないもので上から吊るされてたんじゃないのか?』


すずふみとのえるの顔が驚きと困惑の表情にかわる。


『えっ、なんでしってんの?』

『わたしびっくりしました。』

『やっぱりね。・・・じつはさここにくる前に、


この時間にみあわない静けさが気になって他の教室とかに探りをいれたんだよ。


・・・それでそんな光景を何度も目にしてたからさ。』


『ごんぶとのやつは信じないで、見もしなかったけどね』

『・・・ゆういち・・・もういいよ。あいつのことは』

『・・・そうですね・・・れつさんすいません』


ゆういちは自分の過ちを認めたのかすぐに謝罪をした。そしてれつは話を続ける。


『話を戻すけど、いふ、じぇねからLINEの返事が来ないって言ってたよね?』

『うん、いったね』


のえるがうなずく。


『でも、ゆういちからの返事は届いたんだよな?』

『うん、そうだね』


すずふみはあいずちを打つ。のえるとすずふみは真剣な面持ちだ。


『俺たちは教室。すずふみさん達は食堂にいた。俺考えてみたんだよ。いふ、じぇね達は外にいるんじゃないかってねっ。確か二人はバレー部に向かったっていってたからさ。


・・・あくまでも推測の域はでてなかったんだけど、俺とゆういちでグランドにでて、LINEが届くか試してみたんだよ。


そしたらとどいて・・・この意味わかるよね?』


のえるとすずふみはそれぞれの姿勢で考えている。少し間をおき、すずふみがぽんっと手を叩くと答えを述べた。


『あっ、そうかっ、そういうことね・・・のえる、スマホだよ。』


すずふみはのえるに振り向く。


『・・・スマホ?』

『うん、そう。校舎の外にでればじぇね達からのLINEが届くかもしれないってこと』

『・・・そういうことだ』


れつは誰かの物真似をするような声色で格好よく決めた。のえるのもの難しそうな表情がぱぁっと明るくなる。


ここにきて、やっと見えてきた一筋の光明にのえるはいてもたってもいられなくなる。すずふみも同じ気持ちだろう。


『すずっ!!』

『うんっ、外に行ってみよう』


感情を抑えきれなくなった二人は可愛い後輩達の無事を心の中で祈りながら、踵を返すと校舎とグランドを繋ぐ下駄箱の方へと走りだした。


・・・しかし運動の得意なのえると苦手なすずふみの距離はだんだんと開いていく。職員室の距離にすると、約十メートル。


のえるが下駄箱のある左側に曲がる頃にはもう、三十メートルほどの差が開いていた。


(はぁっ、はぁ、のえるはやいなぁ。それにしても、頑張って走ってるのに。


私、なんでこんなに遅いんだろう。フォーム、フォームがいけないの?)


やっとのことで下駄箱に着いたすずふみ。乱れた呼吸をゆっくりと整えながら、靴に履き替えると外にでる。そして、親友の姿を探す。


・・・いや、探すまでもなかった。すぐ眼前にのえるの姿。スマホを握っている。


『あっ、すず。これみてっ!!』


すずふみに気づいたのえるが走りより自分のスマホを手渡す。


『あ、返信とどいたんだね、よかった。』


すずふみの安心した表情とは対象的な面持ちでのえるは言う。


『・・・読んでみて』


LINEの新着件数は二十数件、すずふみは今必要ないふ、じぇねからのメッセージを確認する。


―血がいっぱい、たすけて―

―校舎に入れないよ―

―こわいよぅ、早く―

―みんな、死んじゃう―

―バレー部のみんなが風に・・・早く―

―ゆうなが・・・死んじゃうよっ―

―もぅ、やだぁ、お家帰りたいよー―

―なんで来てくれないの・・・生意気でごめんなさい・・・たすけて―


すずふみの目から涙があふれでる。


『す・・・ず・・・うぅ、一番・・・新しい・・・更新をみ・・・て』


隣から覗きこむようにして、自分のスマートフォンに視線をおとすのえるの目にも、声が震えてしまうほどの涙があふれでていた。


(いふ、じぇね、ごめん・・・ごめんね・・・私そばにいてあげられなくて・・・)


溢れでる涙を何度も拭いさりながらすずふみは最新の更新を開く。


・・・いふからだった。


―今、裏庭にいる。出られない助けて、痛い、痛いよ。身体中から赤いもの―

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