職員室


のえるはさきにゆういちの質問へ対しての答えを打ち込む。


『あっ、カラオケ。私はいくけど、すずはどうする?』

『テストが終わった再来週の日曜日だよね・・・うん、わたしも予定ないし大丈夫』

『オッケーッ・・・すずもだいょうぶっと』


(わたしもゆういちのこといえないな・・・こうしてLINEの返信なんか返してるんだから・・・もしかしたら、いふやじぇねのこともおおげさに考えすぎなのかも)


のえるの心の中に、物事を良い方へもっていこうという人間の悪い習性が芽生え始める。


そんな中、指先だけは本題を手短に分かりやすく記載し、ゆういちに送り返していた。


・・・少し間をおき、LINEのメッセージが届く。ゆういちだ。・・・それを確認したのえるの顔は驚きと喜びに満ちていたが、その後、何故か複雑な表情ですずふみに内容を伝える。


『ゆういち、なんか教室にいるみたい・・・れつもごんぶとも一緒だって』

『えっ、ほんとに?、よかった・・・あれのえるは嬉しくないの?』


すずふみは自分とは違い、なぜか元気のないのえるにむかって質問を投げかける。


『ううん・・・そんなことない・・・あとゆういちが、ただやみくもに動きまわってもしょうがないから、まずは職員室に先生たちに報告したほうがいいだろうって


・・・そうすれば協力してくれるだろうし、他の生徒のみんなに呼びかけたりするようななんらかの処置をとってくれるとおもうよ・・・だって』


のえるの表情の浮かない理由・・・それは送り返されてきたその文面にあった。


のえるは、ゆういちの一度もあったこともないであろういふ、じぇねを心配する気持ち・・・


そしてこのような状況にありながらも、取り乱したり混乱することなく、状況を的確に分析するそのゆういちの判断力に言葉を失ったのだ。


(すずのいうとおりだ・・・わたしなんかよりずっと優しくて思いやりがある・・・


よくわたしもお姉さんぶってるけど、今回みたいな大変なときになにもできないんじゃしょうがないよね・・・ゆういちすごいよ)


『たしかにゆういちくんのいうとおりだね。のえる 職員室にいってみようよ』

『そうだね・・・うんちょうど、合流場所も職員室の前になってる。ゆういちたちもすぐにむかうってさ』


職員室は、今二人がいる食堂とは違う建物にある。・・・とはいってもここからでてすぐ近くにある新校舎と旧校舎を繋ぐ三十メートルほどの通路をわたればわけはない。


目的地に向かって歩を進めるのえる達。校舎が新しい影響か二人の足音が大きくこだまする。


『ねぇすず、私たちよりもあの三人のほうが早く職員室につくんじゃない?』

『うん、そうかもしれないね。教室があるの職員室と同じ旧校舎の方だもんね』


時刻は今しがた、夕方の十六時をまわったばかりだ。しかしあたりからは誰一人の声もしない


(おかしいな・・・)


二人は心の内でそんな疑問を抱いたが、特に気に止めることもなく待ち合わせの場所へと急いだ。


そして、待ち合わせの場所である職員室につく。知った顔を見つけるべく二人はあたりをみまわし、今度はお互いあいてに振り返る。


『ゆういちたちまだきてないみたいだね・・・ていうか廊下に誰もいない』


『うん・・・なんか学校全体が静まりかえってるって感じだね・・・


のえる、とりあえずは私たちでさきに職員室に残っている先生方にいふちゃん達のこと話しておこうよ』


『うん、そのほうがいいね』


二人はスライド式の出入口の前に立ち、すずふみが代表でノックする。


コンッコンッコンッ・・・


だが、ノックはしてみたものの中から声もしなければ物音一つたたない。今度はのえるが少し強めにノックしてみる。・・・やはり返事は返ってこない。


『すいませ~んっ 三年一組の生徒なんですけど~だれか先生はおられますか~』


・・・職員室は沈黙を保ったままだ。


『あれっ、鍵開いてる・・・やっぱりだれか先生いるのかな、はいりますよ~』


のえるは中へ入るべく出入口に手をかける。


『えっ、のえる許可なく中に入るのはまずいよ。・・・今はテスト前なんだよ?』


名前を呼ばれ振り返るのえる。


『それはそうだけど・・・しょうがないじゃん、今は一刻をあらそうんだから・・・先生もきっと許してくれるって』


ガラガラガラー


出入口がスライドされるおと


『失礼します・・・』


そのあとにすずふみも罪悪感なのかおずおずと続く。そして二人はあたりをみまわす。


・・・声が出なかった。感情というものは後から込み上げてくる。一呼吸をおいて職員室全体に響きわたるほどのすずふみの悲鳴。


『きゃあああああっ!!』


そして後ろに尻餅をつく。


『・・・なんなのこれ・・・』


ぽつりと呟くのえる。・・・確かに職員室に人はいた。人数は十人くらいだろうか。・・・いや正確にはいたとはいわないのかもしれない。


・・・それらは天井からなにか見えない糸のようなもので吊るされ、風のない室内でふらふらとまるで夏の風鈴のように揺れていた。


精気のない瞳、だらんとした身体、その姿はまるで人形のよう。


そしてそれらは今にも動き出しそうな錯覚を二人に思わせ、やがてそれは恐怖心となる。

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