S.M.Zのお使い アトラ大陸 踊る踊り子
蒼大陸北西部からラスト大陸東部へと向かう6人組、モモちゃんの要望であの場所へと向かっている。
「私が最後に見た景色は岩山の中だったので、もう一度見ておきたいんです。」
慈王君はニカラの一族の詳細を知っていた。
だから何も言わずに、シメジに行き先を伝えてくれたようだ。
猛る山を望むあの場所へ……
鬼と人の戦場跡地。元・霧の大森林東端・旧ニカラ集落へと。
海上を駆けるシメジの背中で、にゃん族3人も目を覚ました。
「何処に向かってるにゃ?」
「周りが全部海だにゃ!」
「美味しそうな魚群が泳いでるにゃ!」
海面を見れば、回遊魚が群れをなして泳いでいる。
しかし、群れを追いかける魚人達が居て、沢山の回遊魚達が捕食されているようだ。
「あのような、生きる為に食べる為に、次に命を繋ぐ為に、他者の命を奪う事を魔族なら誰も止めません。どう思いますか?モモさん。」
モモちゃんは言葉に詰まる。そして、出た言葉が……
「私にはまだ分かりません。自分の力で生きてない私には……」
モモちゃんだけじゃない、ニカラの元子供達全員が考えている。
神と共に歩む事を。
神の住まう大地で、神に従い生きる事を。
「私達ニカラの鬼が、どんな生き物より優遇されている事は良く分かっています。世界中の生き物と比べると与えられ過ぎな事も。」
他の神々に唆されて、神に抗った神棄暦。
その時と違う、真剣に自分達の行く末を考えているようだ。
「与えられている事は関係無いのです。無闇に奪わない、必要な分だけを得る。それは間違いじゃないと思ってくれますか?」
言葉に詰まっているモモちゃんの代わりに答えたのはトラ吉。
「ゴハンを食べないと死んじゃうにゃ。ゴハンを食べるなら取らないとにゃ。草の実も木の実も、お芋さんも分かってるにゃ。ちゃんとゴハンになる事をわかってるにゃ。」
慈王君が、にゃん族の事を「彼等のように生きれたら、私達魔族も幸せなのでしょうか?」と後日、父親の蟲魔王・東郷 和真君に質問するのは、この時の会話が大きく影響している。
「ゴハンを食べるんだから、食べられちゃうのも仕方ないにゃ。食べられなくても、皮が残るにゃ。」
実を言うと、普通の猫と間違われて狩られる事も多々あるにゃん族。
「僕のおじいにゃんは人間に狩られて皮を剥がれたにゃ。おじいにゃんの皮は楽器になったにゃ。楽器になって皆に音を届けてるにゃ。」
「人間を恨んで無いのですか?」
慈王君もモモちゃんも、トラ吉の気持ちが気になってしまった。
「なんで恨むにゃ? 僕達もお魚さんに同じ事をしたにゃ。僕の着てる革のチョッキは大きなシャケさんの皮だにゃ。シャケさんの皮は僕達を温めてくれてるにゃ。」
マダラもポムも、うんうんと首を縦に振っている。
「あんまり気にしちゃダメにゃ。奪う事も奪われる事も、なるようにしかならないにゃ。だから精一杯その日を生きるにゃ。」
そう言って、海に飛び込むトラ吉。
「カツオ魚人さん、舐めさせてくださいにゃ!」
同じ様にマダラとポムも海へと飛び込む。
「美味しい魚人ランキング2位にゃ!」
「素晴らしい魅惑の味の魚人さんにゃ。」
泳げないのに……
サハギンタイプのカツオ魚人さん達に苦笑いされながら保護されて「相変わらず襲いかかって来るが、何の脅威も感じ無い種族だな」と笑ってシメジの背に乗せられる事になる。
シメジもカツオ魚人さん達を舐めたそうに見ていた。
そんなこんなで、元ニカラ集落へと辿り着いた6人組。
「モモさん。ここに全て植えて行きましょう。」
そう言った慈王君に、モモちゃんが応えた答えとは……
話は元ニカラ集落があった場所に6人組が到着した時に戻る。
何も無い、ただの土剥き出しの大地に降り立った。
ここが、かつての霧の大森林の名残を残す、豊かな森だった事など今の状態を見ても誰も分からないだろう。
「モモさん、この場所で合っていますか?」
現に慈王君も分かっていない。
「にゃんにもにゃいにゃ。」
あれから数年、当時8歳だったモモちゃんの記憶に残る豊かな森は何処にも無かった。
しかし……
「大きな岩があるにゃ。」
「何か書いてあるにゃ。」
「遠くて読めないにゃ。」
元々は、北の広場があった場所に、1つ岩が残っていた。
クロの実兄でアオの義兄、ギン君のお父さんのハイが振り回した大岩である。
何か書いてあると言われて、モモちゃんが歩き出す。その文字を読む為に。
この岩は神鉄オリハルコンとアダマンタイトで構成された大岩。
元はニカラ村の中央広場に座していた、古くからある石碑であった。
【英雄ニカラチャと魔女王パンチョモの偉業を此処に称える。ムラスト大陸の全ての人より感謝を込めて。】
その一文の後に……
【この場所立ち入りを禁ずる。何人も荒らすこと無きよう。未来永劫ニカラの鬼の鎮魂の為に。初代征夷大将軍・ニカラ・カイゼルの名の元に。】
それを見たモモちゃん、いきなり泣き始めた。
「モモさん。」
「「モモにゃん。」」
「モモ。」
それぞれが、思い思いにモモちゃんを励まし始める。
「やっぱりカイゼルおじちゃんだった……」
モモちゃんは覚えていた。
毎年のように数回訪れる、ヘンテコな髭をたくわえた人間の事を。
大好きなアオや母達を尋ねて、手にいっぱいのお土産を抱えて遊びに来る優しい顔付きの面白いおじちゃんだった事を。
ニカラの鬼達は人間側が何を考えて戦争を始めたのか、全く知らないままで逃げ出した。
何故に、優しかった、面白かった、帰る時は寂しかった、素敵でヘンテコなおじちゃん、カイゼルが自ら家族と呼ぶ者達を滅ぼしたのか。
「ニノ様は教えてくれるかな? ホントの話を教えてくれるのかな?」
少しだけ落ち着いたモモちゃんが慈王君やシメジに聞いてみる。
「モモさんが本気なら、神は逃げないと思いますよ。」
「モモの事をニノは大好きだから、モモが聞いたらちゃんと教えてくれるよ。」
「よく分からにゃいけど、カリカリした美味しいのをくれた奴は良い奴にゃ。」
「あんな美味しいカリカリした食べ物を用意出来る奴だから、きっと色々知ってるにゃ。」
「もう一度帰って聞いてみるにゃ。それが1番にゃ。」
真面目に答えたシメジと慈王君。
にゃん族3人は、あまり良く分かっていないのだが、ここまでずっと優しかったモモちゃんに何か声を掛けてあげたいと、それなりに頑張ったようだ。
「いえ、大丈夫です。ちゃんと仕事を終わらせてから帰りましょう。」
そして、慈王君の一言である。
「モモさん。ここに全て植えて行きましょう。」
そう言った慈王君は、魔法鞄の中から様々な種子や苗木を取り出し、1つ1つ丁寧に地面に埋めていく。
そして……
また、おもむろに左手を引きちぎり、地面に投げ捨てる。
「我が身を糧に育て。」
大岩の周りに、小さな雑木林が出来上がる。
気合を入れて左腕を生やした慈王君。モモちゃんの方を見てみた。
「やり過ぎです。そんなに無理はしなくて良かったですよ。」
少し笑顔になったモモちゃんに言われて、慈王君は嬉しかったようだ。
「ここは僕の縄張りにして行く。誰も荒らせないようにね。」
そう言ってシメジがマーキングをし出す。
ペシャペシャとお尻をフリフリ、尻尾をフリフリしながら、オシッコを掛けて回るシメジ。
神獣のマーキングの匂いで恐怖して怯えるにゃん族。
岩場や土塊に擬態する魔物達が、雑木林を見付けた動物達が、岩の周りに出来た雑木林に立ち入る事は数百年後に匂いが消えるまで、1度たりとも無かった。
モモちゃんが鬼の姿に戻り、1人唄い踊る。
次代のニカラの巫女姫として、1人のニカラの鬼として。
神がお金を取れると評価したが、実際は大祭と呼ばれる祭りでは、入場料を取っていた。
実を言うとニカラの鬼達の貴重な現金収入になっていたのだ。
そんなモモちゃんの舞は、慈王君やシメジ、にゃん族3人だけを観衆に披露された。
はずだった……
石碑の周りに出来た雑木林から、小さな光が立ち上る。
沢山の蛍のように薄明るく光るそれは何なのか?
神ですら答えは知らない。
動きだけ見れば、ゆったりした動きと、止まる時のキレのある動作が日本舞踊と似ているのだが、踊りつつ放たれる様々な属性の魔法のせいで、完全に別物になっている。
「モモさん、綺麗だ……」
「凄いにゃ……」
5人がモモちゃんの舞に見とれている時に、遠巻きに伺う集団が居た事に、誰も気付いていない?……
その集団とは?
制服姿の多数の日本人。
とある地方の、1クラス分の高校生達と教師。
ヤポーネ王国が2年前に北にあった聖教国を飲み込んだ時に、自国へと吸収した聖教国の過激派の残党達が召喚した日本人達。
惑星パンツに召喚されて、まだ半年と少し。
過激派達は即座に処理されたのだが、初代勇者や初代聖女と同郷となると、簡単に放逐する訳にもいかず、冒険者ギルドやヤポーネ王国主体で全員に生きる道を用意している所だ。
今回は冒険者ギルドのギルドマスターも付き添い、多数の冒険者達と国内の史跡巡りをしていた所だった。
「向こうはまだ気付いていない、早く幻影でこちらを隠せ。」
ギルドマスターの言葉に、多数の魔法使いが幻影を投影して、1団の姿を隠す。
シメジにはバレていたのだが。
「あれほどの大きさのキャットナインテイル……」
ギルドマスターは直接見た事がある。
しかし、過去に1度だけ見たキャットナインテイルは、黒白で中型犬くらいのサイズだったと記憶している。
「そしてあの踊りはニカラの巫女姫……そばに居るのは魔王の息子か……」
にゃん族3人は小さくて見えていなかった様だ。
しかし、さすが冒険者ギルドのギルドマスター。
魔王や魔族の情報などは、かなり正確に掴んでいるようだ。
「僕達に任せてください。いつか必ず魔王を倒して、世界を平和に導きますから。」
日本人の中の正義感の強そうな少年が、大きな声でギルドマスターに決意を語る。
「いや、
言われた言葉で、悔しそうに唇を噛む主人公属性のイケメン男子他数人のイケメンと美少女。
戦いなんか嫌だと、心の中で思っているモブ属性の男子女子。
そして、その中に1人神が居る。
過去に己が主人と崇めた女性が、転生して生まれた女の子・
その子を横で見守るために、高校生に見た目を変えて、したくもない勉強に明け暮れている水神こと元・千方の四鬼の1人、水鬼。
「なんだ珍しいな、緑鬼族じゃねえか。と言う事はテューポーン様の世界なのか? どうにかやって帰る方法を見つけないとな……」
そう呟いたのは誰にも聞こえていなかったが、シメジには聞こえていたようだ。
鎮魂の歌・巫女姫版を披露したモモちゃんが、シメジの背に乗る。
「ここだけに植えるのもなんですから、ラスト大陸の霊峰にも植えて行きましょう。」
笑顔を取り戻したモモちゃんを見て惚れ直した慈王君と、モモちゃんに擦り寄って褒めるにゃん族。
シメジはずっと人間の1団を気にしていて、雑木林の周りに強固な見えない結界を貼っていた。
数年後に、様々な霊木や霊草がおおい茂る
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