S.M.Zのお使い 蒼大陸 自動で動くアイツ


 聖域に戻った慈王君とモモちゃん。

シメジを連れて蒼大陸へと再度向かう事にしたようだが、猫獣人3人組も着いて来た。


「ダンジョンに行かにゃいとにゃ!」


「ダンジョンのお掃除が僕達の仕事にゃ。」


「お掃除して報酬を貰うにゃ。貰った報酬で家族を養わないとにゃ。」


 この3人の冒険者は10辛ダンジョンのお掃除屋さんなのだ。


「どうやって掃除するんですか?掃除道具なんて持ってないけど?」


 冒険者風の出で立ちなのだが箒一つ持っていない3人組に、慈王君が気になって聞いてみた。


「コレにゃ!コレをこうするにゃ。」


 そう言って、ポムが尻尾を横にフリフリしている。


「尻尾を使ってお掃除するにゃ。凄く綺麗になるにゃ。」


「ああ、そうなのですか……」と答えた慈王君は、少しだけげっそりしている。


 もう1つの疑問をモモちゃんが投げかける。


「どうして人魚さんを崇めていたのですか?」


 たしかに疑問である。


「僕達は、お魚さんが大好きにゃ。」


「でも、お魚さんを食べられないにゃ……」


「ダンジョンで見つけたスキルオーブを使ってから、お魚さんが食べられなくなったにゃ。」


 ベジタリアンドワーフさん達と似たような事になっているらしい。


「ダンジョンで見つけた全お魚語のスキルオーブを使ったにゃ。お魚さんが話してる言葉を知りたくて、見付けて直ぐに使ったにゃ。」


「仲間が釣り上げてバケツに入ってた鯵さんが言ってたにゃ。」


「僕は食べても構わないから僕の家族を見逃してくださいって言ってたにゃ。」


 釣り上げられてバケツに入れられた鯵の声を聞いたらしい。


「そんにゃ事を言われたら、食べられないにゃ。」


「お仲間もみんな逃がしてあげたにゃ。」


「周りの皆にも鯵さんの話を教えてあげたにゃ。そしたら……にゃん族全員がお魚さんを食べなくなったにゃ。」


 弓は持てないのに釣竿は持てるのか? 釣り針やエサ等はどうしているのか? 疑問である。


「それからは人魚さん達を見付けたら襲うにゃ。」


「人魚さんの全身を、くまにゃく舐め回すにゃ。」


「マグロ人魚さん達がとても美味しいにゃ。」


 腰から下がマグロタイプの人魚さん達は舐め回されているらしい……

そう言えば「ザラザラの舌で」って人魚君のお母さんが言っていたような……


「聖域で暮らせば人魚出汁の食べ物って、色々な種類がありますよ?」


 モモちゃんが、アオさんの手料理をオススメしている。


「人魚出汁って何にゃ?」


「人魚さんを食べるかにゃ?」


「人魚さんは食べ物じゃ無いにゃ!」


 ずっとシメジが静かだが。

走り疲れて慈王君の肩に上半身を預けて寝ているからである。


「魚の味がするけど魚じゃ無い食べ物がありますよ?」


 さっきニノがあげたカリカリもそうである。


「さっきのカリカリしたやつにゃ!」


「アレは美味しかったにゃ!」


「アレを、おにゃかいっぱい食べられたら幸せにゃ。」


 聖域で暮らすなら食べられますよ、とモモちゃんが言えば。


「僕達は仕事があるにゃ。」


「神様や禽魔王様との契約にゃ。」


「にゃん族の大切にゃお仕事にゃ!」


 そして、聖域では暮らせないと断られた。


 その頃既に聖域では、にゃん族を全員を聖域で保護する為に星神が動き出していた。



 そうそう、マグロ人魚さん達なのだが。


 シメジが尻尾を九本にばらしたり、4tトラックサイズになったりしたのと、慈王君が魔族の出で立ちに戻ったのと、モモちゃんがゴブリンシャーマンクイーンになったのを見ていて、蒼大陸だけでなく……


 ラスト大陸や天元大陸にも向かって逃げてしまった。


 そして数日後のラスト大陸や天元大陸で。


 災厄の獣を引き連れた、姿を変えられる魔族が2人、世界に厄災を振りまこうとしていると悲報が飛び交う事になる。





 3人組が6人組となって、最初に向かったのは蒼大陸10辛ダンジョンその1・何も無い洞窟。


 バスケットコート2枚分程の広い空間に、綺麗な平面の床があって、天井に生えてるヒカリゴケで薄明るいダンジョン。


 最奥に小さな台座が置いてあり、そこに小さなダンジョンコアが置いてあるだけの、何も無い洞窟。

 入口には、災害時緊急避難所と書かれている立て看板が置いてあるのだが、日本語なので読めないのと、蔦が絡まって看板が置いてある事に気付いてない、ちょっとおマヌケな6人組。


 にゃん族は元々日本語が読め無い。

慈王君は普通に読める、モモちゃんもシメジもスキルオーブを貰ったので読める。


 だがしかし、蔦が絡まって見えないから立て看板に気付いていない。


 ダンジョン内部到着直後に、3人のにゃん族が騒ぎ出す。


「また来てるにゃ! 何時も来てるヤツにゃ!」


「アイツのせいで、ダンジョンが汚されてしまうにゃ! 追い出してやるにゃ。」


「アイツが来るまでは、平和なダンジョンだったにゃ! 行くにゃ、トラ吉、マダラ。」


 トラ吉が革のチョッキに付けていた短剣を取り出そうとするも、肉球で掴めず。

 マダラが背中に背負った盾を構えようとして掴めずに落としてしまい、盾の後ろに隠れてしまう。

 ポムにいたっては、トラ吉とマダラの後ろで怯えてしまっている。


「なんでしょうコレは……」


「さあ?なんでしょう……」


 慈王君とモモちゃんに理解出来ないのも仕方が無い。


 だってヤツを見た事が無いんだから。


 しかし、見た事あるのが1人……いや、1匹。


「アレはうちに置いてあるヤツと同じだ。慈王、捕まえるから手伝って。」


 慈王君に手伝いを求めてシメジが走り出す。


 モモちゃんは怯える3人のにゃん族を懸命に励ましている。さっきから慈王君が、モモちゃんに抱き締められて励まされるにゃん族の姿を羨ましそうに見ているのだが。




 アレとは何なのか? それは……


 日本での使命を終え、壊れて捨てられて、とある神様に拾われた。

世界の壁を超えた時に、チート能力を貰ったロボット掃除機。


 いわゆるル〇バって奴である。


 とある神様と言うのは……もちろん、家電タイプの神器がお気に入りなデュポーンことパンツァー様。

日本での使命が終わった付喪神を、大切に使われていたが壊れてしまったロボット掃除機と融合させて、電池の要らないチート〇ンバの出来上がりである。


 しかし……

壊れた部分を修理するのを忘れて、壊れたまま転移させてしまったパンツァー様。


 そのせいで吸い込んだゴミや埃を、そのまま後ろへ吐き出してしまう。


「ここを押したら動かなくなるんだ。」


 そう言って、動き回るロボット掃除機を追い掛けるシメジ。


 楽しそうである。


 シメジがロボット掃除機の上に乗って押さえつけようとしても、機械生命体になったルン〇なのでパワフルなのだ。


 上に普通の猫サイズのシメジを乗せたまま、ダンジョンの中を徘徊して回る。


 楽しそうである。


「なんでしょうコレは……」


「さあ?なんでしょう……」


「示芽慈彦様、ありがたやー。」


「化け物退治、ありがたやー。」


「化け物を圧倒してるにゃ、ありがたやー。」



 壊れて穴の空いた部分から排出される埃が毛に絡まって、1度シャンプーをする為に聖域に帰ることになるのを、6人組はまだ知らない。



 そんなこんなで、聖域へと戻って来た6人組。


 シメジの全身シャンプー&トリートメントと、聖域に住むドワーフ特製魔道具“音が出ないドライヤー”を使った乾燥が終わるまでの間、とても暇である。


 ドライヤーの魔力を供給している魔石は無駄に神から直接与えられた【神の絞り汁・超高純度全属性対応魔石】だったりする。

 出す所に出せば、都内にそこそこ良い条件のマンションが買える値段なのだが。


 音の出るドライヤーを嫌がるガンモの為に無駄に力を込めてある。


「なるほど。付喪神と融合した生きる神器ですか。」


「ええ。私の持つ鑑定だと、そこまでしか見れなかったのですが。」


 星神に、にゃん族の仕事を説明している慈王君。

ダンジョンで見た事を、そのまま伝えたようだ。


「先代魔王との契約でダンジョンに縛られているんですね。」


「なんとなく感じたのは、仕事に誇りを持っていると言う感じでしたが。」


 なるほどと呟いて、タブレットを操作するニノ。使うのは過去眼。

物事の過去を見ることの出来る、とても便利な魔眼の1つである。


 瞳孔が2つに別れた星神の目で見つめられて、少しだけ萎縮する慈王君。


「何が見えますか?」


 むむむ、とニノが唸ったのだが、突然立ち上がり。


「どげんかせんといかん。」


 おもむろに叫んで、にゃん族の集団の所へと行ってしまった。


 何を見たのか説明すらされなかった慈王君とモモちゃん。


「なんでしょうコレは……」


「さあ?なんでしょう……」



 シメジの体毛も、もこふわに戻り。

再び蒼大陸へと向かう3人組に、相変わらず3人のにゃん族もついて行くようだ。


 あまりにも無駄な時間を過ごした気がする慈王君が、一行に1つ提案した。


「もうこのまま行きましょう。面倒臭いです、わざわざ人種に気を使うのは。」


 そう言って、4tトラックサイズのシメジに、植物魔界へ直接乗り込むように指示を出す。


 驚いたのはフィールドダンジョンである植物魔界の周りに点在しているダンジョンタウンの住人達。


 空を走る九尾の猫、災厄の獣キャットナインテイルが、植物魔界の中心地に降り立つ所を大勢の人種が見ていた。


 そして、6人組を迎えたのは美男美女揃いのドライアドさんやアルラウネさん。


 しかも慈王君と面識のある、と言うか、慈王君の叔母と叔父にあたる人物も植物魔界に住んでいる。


「慈王ちゃん。何その可愛い女性は? もしかして慈王ちゃんの良い人だったりする?」


 慈王君が、まともに話を聞いてくれない叔母に辟易しているのを横目に、モモちゃんが慈王君の叔父に、星神からの使命を説明した後に200種類の様々な種や若木を渡す。


「叔母さん。またそのうち。」


 そう言って足早に飛び立った6人組。


「オバサンって言うなし!ぶっ殺すぞ慈王!」


 ブチ切れた叔母の根と枝の追撃を振り切るのに、縦に横に高速移動したせいで慈王君が乗り物酔いしてしまう。


 エルフの住む地域に到着してすぐに、慈王君はシメジから飛び降りてゲロを吐く。


 乗り物酔いはシメジがすぐに癒してくれたが、好きな子に吐く所を見られた慈王君。


 涙目である。


「さっさとエルフに、種や若木を渡して次に行きましょう。」


 早く家に帰りたくなってきているようだ。



 一行の姿を見て、隠れていたエルフ達に話し掛けた慈王君。


「我々は、貴方達に珍しい植物の種や若木を与えに来た、神からの使いだ。」


 大きな声で叫ぶ慈王君にモモちゃんが。


「見せた方が早くないですか?エメリーさんやアントニウスさんに見せた時見たく……。」


 素晴らしい提案をしてくれた。


「世界樹の若木を魔法鞄から取り出した瞬間に、沢山のエルフに襲われる事になりそうですが。」


 その通りだった。


 亜熱帯な地域だったので超薄着のエルフさん達に、もみくちゃにされた慈王君とモモちゃん。


 因みに、エルフさん達は昔の生活スタイルなので、胸と腰周りしか隠していない。


 シメジを見ても、でかいモフモフの猫だ!くらいしか考えてないようだ。


 もっともっとと、若木や種をせがむエルフ達に、他と同じ数だけ種や若木を渡した慈王君とモモちゃん。


 鬼気迫る勢いのエルフ達にビビったシメジは、さっさと2人を咥えて空に駆け出した。


「次に行こう。次はラスト大陸。」


 ラスト大陸と言われて、モモちゃんの顔が少しだけ暗くなる。


 その時……


 にゃん族3人は、シメジの毛に埋もれて、お昼寝の最中だった。



 そして、蒼大陸全土に、巨大なキャットナインテイルに乗った魔族2人が、世界に厄災をもたらそうとしていると、相も変わらず悲報が飛び交う事になる。



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