029

あくまでも義理チョコだ。

義理チョコという体だ。

だから渡すのなんて簡単だろう。


いつもありがとうございます、と一言添えて渡すだけ。

なのにそんな簡単なことができないでいた。

もういい大人なのに、いじいじしている自分に笑ってしまう。

いや大人だからこそ、傷付くのを怖れて前に進めないのかもしれない。


別に告白するわけじゃない。

感謝の気持ちを伝えるだけ。


そう思っても勇気が出ず、あっという間にお昼の時間になってしまった。


「奈々、今日はお弁当?」


「ううん。今日は作る暇なかったから…。」


「じゃあ食堂行こ。」


お弁当を持ってくる日は自席で食べ、ない日は朋子たち同僚と社員食堂へ行くのがいつものランチスタイルだった。

社員食堂は派遣社員にも解放されているので、毎日大勢の人で賑わっている。


奈々たちは角の席を見つけ、今日のおすすめ定食を頬張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る