018

奈々は心臓が痛いほどドキドキしているのがわかった。


嫌なものを見てしまった。

その一言に尽きる。


いつぞや聞いた噂は本当だったのだろうか。


あの日キスをされ「セクハラです!」とひっぱたいた奈々だったが、心は裏腹に倉瀬を意識している自分がいることに気付いていた。


態度が悪くて口も悪くて、でも容姿端麗で密かに人気のある倉瀬祐吾。

社長の息子であり将来の社長になるであろう彼。

女には苦労せずとっかえひっかえの遊び人。


そんな噂が囁かれる中で奈々が見てきた倉瀬は、仕事に対してひたむきで厳しくて、でも時には優しい、まわりのことをよく見ている人だった。


案外悪い人じゃない。

むしろとても素敵な人なのではないか。


そう考えるようになっていたのに、先程奈々が目にしたのは完全に遊び人の倉瀬だった。

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