011

今日はお酒が入っていることもあり、いつもより少し饒舌だったのかもしれない。


「言い訳なので聞き流してくださいね。」


奈々は前置きをした上で、今まであまり人に話していなかった事をポツリと語った。


「大学三年の時に突然母が入院したんです。ちょうど就活を始める頃。末期癌で余命も宣告されて、就活どころではなかった。毎日病院に通って母との時間を作りました。私には就活に打ち込むよりも大切な時間だと思ったから。合間に就活もしたけど、やっぱりダメですね。本気度が足らなかったと思います。四年生のときに母は亡くなりました。覚悟はしていたので大丈夫だったけど、家のことや手続きなどをしていたらあっという間に卒業になってしまって。とにかく働かなくちゃと思ってとりあえず派遣登録したんです。で、トントン拍子で今に至ります。」


奈々はそこまで一気に言うと、はにかむようにグラスを煽った。

なぜこんなことを倉瀬に告白してしまったのか、自分でも分からない。

ぬるくなったビールはあまり美味しくなかった。

そんな奈々の話を、倉瀬は静かに聞いた。


倉瀬が黙ってしまったので、奈々は申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。


「すみません、変な話して。」


だが倉瀬は殊更真面目な顔で優しく言った。


「いや、お前立派だな。お母さんも、嬉しかっただろうな。」


倉瀬の言葉に、奈々は一瞬瞳を大きくして、そして倉瀬が今まで見たことのない笑顔になった。


「ありがとうございます。」


まるで花が咲いたかのような屈託のない彼女の笑顔に、倉瀬はしばし目を奪われていた。

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