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一方倉瀬は、就職活動とは無縁の生活だった。
大学を卒業したら家を継ぐため有無を言わさず親の会社に入る。
幼稚園から大学まで親に敷かれたレールを進んできた倉瀬だったが、それが別に嫌ではなかったし、むしろ何の疑問も持たずそういうものだと早くから受け入れて育ってきた。
あくせくと就職活動をする同級生を尻目に、行き先の決まっている倉瀬は何ら変わらない生活をしていた。
また、通っていた大学が私立の一貫校だったこともあり、倉瀬と似たような境遇の者も多くいたことも事実だ。
だから今まで就職難民に出会ったことはなかった。
おそらく奈々が初めてだ。
「お前くらいしっかりしてれば、普通に内定出そうなのにな。」
お世辞でもなんでもなく、倉瀬の本心から出た言葉だった。
同情でも憐れみでもない、ただ真っ直ぐな言葉に、奈々は一瞬息を飲んだ。
今までそんなことを言ってくれる人は一人もいなかった。
なぜ派遣なのかと問われることすらなかったし、自分から誰かに話すこともなかった。
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