008

社長の息子なのに誰にも構ってもらえないのかしら、と奈々は失礼ながらも少し可笑しくなってしまう。

手近にあったビール瓶を掴むと、奥の席へ入っていった。


「倉瀬さん、ビール注ぎましょうか?」


奈々はそう倉瀬に声をかけながら、控えめに隣に座る。


まわりの男性よりも上品なスーツを着こなしているように見えるのは、社長の息子というフィルターで見てしまうからだろうか。

組んだ足が長く、スラリと堀ごたつの下へ伸びている。

一方奈々の私服は、大人しめのAラインのワンピースにカーディガンを羽織っており、普段の見慣れている制服の奈々よりも少し幼く見えた。

故に、思わず倉瀬は聞いた。


「お前、今何歳だよ?」


「倉瀬さん、女性に年齢聞くとか、完全にセクハラですよ!」


突然のセクハラ発言に奈々は頬を膨らませ怒ったように言うが、倉瀬はまったく表情を変えず飄々としている。


「まあいいですけどね。27ですよ。」


呆れたように言うと、倉瀬は驚いた顔をした。


「27には見えないな。」


「それ、どっちの意味です?上に見えるのか下に見えるのか…。」


完全に不満そうな顔をして、奈々は倉瀬をうらめしそうに見た。

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