第63話 祖父母襲来
「なんでここにじっちゃん達が?」
「何故って、伊導と真奈に会いに来たに決まっておろう?」
じっちゃんは湯呑みに入れられたお茶を一口すする。
「久しぶりに孫の顔を見たくなったんじゃ」
その隣に座るばっちゃんはおかきをボリボリと頬張る。
「ね、サプライズだったでしょ?」
と、俺の後ろに立って腕を後ろに回す流湖は笑顔で言った。
「サプライズというか、まあそうだけど」
母さんのことかと思っていたから単純にびっくりしたぜ。まさか二人がこの町に来ていたなんて。
じっちゃんとばっちゃんは父方の祖父母だ。なお、母方の祖父母は俺が生まれる前に亡くなっているらしく写真でしか顔を見たことはない。
で、二人はこの町からは
今回のような事前の連絡もなしに来たのは初めてだ。まさかサプライズなんてする人たちとは思っていなかったので、新たな一面を知った気分だ。
「ルコちゃんはいい娘だね〜、こんな老いぼれに優しくしてくれて」
「いやあ、そんな」
と流湖は控えめに照れる。
「そうだなあ、ところで伊導とはどういう関係なのかのお、まさか男と女の関係じゃあるまいな?」
とじっちゃんは目をきらりと光らせる。
「いいいいいや、まだそんなんじゃ……」
流湖は顔を赤くし慌てて否定するように手を横に振る。
「まだ?」
「いえ、一切ありません!」
「なんじゃ、お似合いだと思ったのに残念だの」
とじっちゃんは肩を落とす。
いきなり何を言い出すんだこの人は。
「え? お、怒っていらっしゃったんじゃ」
流湖はじっちゃんの反応に驚き、目を見開く。
「ん? ああ、勘違いさせたかの、すまんな流湖ちゃんや。伊導はいい男じゃ、こんな娘と付き合ってくれていたらと思い聞いたまで」
じっちゃん……煽るのはやめてほしい。
「そうじゃそうじゃ、イドも早く身を固めてひ孫の一人でも見せんかえ?」
ばあさんは意地悪な笑顔を浮かべる。
「「ひひひ孫!?」」
すると俺は偶然にも彼女と同時に叫んでしまった。
顔を真っ赤にし流湖は俺のことをチラチラ見てくる。
「ほうほう、既に息はぴったりじゃないか、相性の合う相手と結婚するのはいいことじゃぞ? 子供も早く出来やすいし」
「いやいやいやっ、俺はまだ自分の子供を見せるなんて歳じゃないだろ!? っていうか二人ともやめてくれ、本当にそんなんじゃ無いんだから。それと、母さんから俺たちがここにいる事情は聞いたのか?」
取り敢えずここは話を逸らしておこうと思い、俺たちの今の状況をどこまで知っているのか訊ねてみる。流湖は『こここここどもって……』とうねうね身体をくねらせているが無視をしよう。
「ああ、ある程度は聞いておるよ? 真奈も大変なことになったの」
「う、うん……」
先ほどから端の方で肩身の狭そうにし、やけに大人しくしていた妹が答える。どうしたんだ? いつもなら二人に会えたともっとはしゃいでるのに。
「マナ、どうしたんだい? 元気がないように見えるけど」
案の定ばっちゃんも気になったのか優しく訊ねる。
「おばあちゃん達は流湖先輩が気に入ったの?」
「そうだねぇ、中々いい子だし、気も効くし。イドになんかはもったいないくらいだと思うけど。でもこの娘はイドのことが好きって言うんだから、それなら遠慮なしに付き合って貰いたいよ」
「そうだの、鉄は熱いうちに打てとは言うが、恋も冷めきらぬうちに行くところまで行くのが一番じゃ」
じっちゃんたちは流湖から色々と話を聞いていたようだ……というかそんなことを教えていたなんて外堀でも埋めるつもりだろうか? もしそうなら既に成功してあるといえるが。
「そうなんだ……ううん、やっぱりなんでもないよ! ごめんね心配かけて」
「そうか? 孫のことが心配になるのは当たり前、なんでも言ってくれていいぞ」
「そうじゃそうじゃ、ここで言いにくいことなら、後で三人で話そうかえ? 勿論、あたしと二人きりでもかまわんがね。男や身近にいる女性に話しにくいこともあるじゃろうさん」
「うん……ありがとうおばあちゃん達、じゃあ今度でいい? 出来れば二人に聞いて貰いたい話があるんだけど……」
「うむ、かまわんぞ」
「わしもじゃ。ほれ、そんな顔せずにこっちにおいで」
「うん!」
そうして真奈は二人に可愛がってもらう。
「じゃあ伊導、私はお義父さんとお義母さんを連れて帰るから、またね。今度はあの人も連れてくるから、きっちり生活態度を確認させてもらうからね?」
父さんを連れての定期検査だろう。今のところは特に真奈との関係も依存症に関しても変化はないが、断ると何かを隠しているんじゃないかと疑われそうだし、素直に受け入れるべきだ。
「はいはいわかってるよ。そんな心配しなくてもちゃんとやってるんだけどな。まあ母さん達の顔を見られてよかったよ。そういやじっちゃんばっちゃんは、まだこの町にいるのか?」
と真奈を可愛がる二人に聞く。
「もう数日はな」
「うむうむ、オドにも話を聞かなければなるまいし」
「わかった、じゃあ明日は一度そっちに帰るかな。母さんいいか?」
「わかったわ、晩ご飯用意しておくからね」
「頼んだ。真奈も一緒に行くだろ?」
「勿論!」
とじっちゃん達に慰めてもらった妹はすっかり元気になったようで、笑顔で返事をする。
「ん? そうじゃ、ルコちゃんも一緒にどうかの? お父さん、今日明日はいないんじゃろ? 将来の嫁さんと今から仲良くなっておくのはいいことかもしれんし」
ほあ? ばっちゃん今なんて?
「え? いいんですか? 確かに大工の仕事で問題が発生したとかでいませんが……でも家族団欒にお邪魔するのは悪い気がします。それにアパートの管理もあるし」
そ、そうだな。家族団欒だもんな。
「いいんじゃいいんじゃ、それにイドがいないうちに話しておきたいこともあるからのお。一日二日居なかったからってすぐにどうこうなるものじゃなかろうに?」
おいおい、皆で俺のいない間に何を話すつもりなんだ!?
「そこまで仰るなら、断るのも悪いですし寄らさせていただいてもいいでしょうか」
「遠慮しないで〜いつでもウェルカムだわよ〜」
と母さんが答える。母さんまで流湖のこと嫁扱いする気じゃないだろうな!?
「お、俺もじゃあ」
「お兄ちゃんは駄目っ!」
と、真奈は服の上から腕を掴む。
「なんだよ? 真奈だって流湖が二人と仲良くするのは嫌だろ?」
小声でそう囁く。が、妹は首を小さく振った。
「今日は先輩に譲ってあげたいの……だめかな?」
「うーん……なんでだ?」
「それは、その、色々複雑な感情があるというか。今ここで簡単に説明できることじゃないから、それも含めてお兄ちゃんに話を聞いてほしいし。二人きりになりたいんだけど、やっぱり駄目?」
と俺を見上げて懇願してくる。
「そうか。そこまでいうなら、仕方ないか」
こちらはこちらで何か話があるようだし、向こうには余計な話が出ないよう念でも送るとするか。
「じゃあ伊導くん、行ってくるね?」
「ああ、また明日。じっちゃんばっちゃんも!」
「おう、楽しみにしておるでの!」
「うむうむ」
「夜更かししたらだめよ〜」
「わかってるって」
「バイバイ、おじいちゃん、おばあちゃん、お母さん!」
そうして四人はこの家から出て行き、俺と真奈もアパートに戻る。
「んで、話ってなんだ?」
いつものようにベッドに腰掛け、早速訊ねてみる。ちなみに今日は何故か横並びではなく、真奈は自分のベッドに腰掛け対面する形だ。
「うん……私、おばあちゃんたちが来ていたのは知っていたの。だってお兄ちゃんより早くここに帰ってきたから」
「そうなのか」
まあ考えると当たり前か。部活が終わって帰ってきても6時過ぎのはずだし。きっと晩ご飯も皆で食べたのだろう。
「それで、流湖先輩と仲の良さそうに話をしていて……その様子を見ていると、私って必要なのかなって思って」
そう言うと、真奈は突然泣き出してしまった。
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