第62話 荒ぶるドラムと急変するベース

 

 そうして次の日の放課後、泰斗とクラスメイトと共にこの前行ったこの町の南にあるホコ天エリアに。

 以前先生を尾行したときには、サブカル街から電気街に曲がってスタジオへ入って行ったのだが、今回は駅から直接電気街へ向かう。


 電気街には、家電量販店やPCパーツの店など様々なお店があるが、その筋には音楽関係も纏めて配置されているのだ。

 学生が借りられる格安スタジオもあり、そこでは楽器まで貸し出してくれる。なんと良心的なのだろうか。


 そうして四人、目的地へ。


「ここかー」


 と、小田原さんがポツリという。


「皆よろしくな」


 と大迫くんがいう。




 この二人はクラスメイトの小田原綾乃おだわらあやのさんと、大迫宏一おおさここういちくんだ。因みにカップルである。もう一度いうがカップルである。さらにいうと二人ともウチのクラスの学級委員だ。


 小田原さんは文芸部に所属する大人しめ系女子だ。昔の霞みたいな感じだと泰斗は言っていた。


 大迫くんも文芸部に所属しており、七三分けに眼鏡をかけている、まさに男子版学級委員と言える見た目をしている。


 二人はここにいるだけあって当然楽器が演奏でき、バンド内では小田原さんがベース、大迫くんがドラムを担当することになっている。


 そこに俺のキーボードと泰斗のメインのギターが加わるわけだ。尚、ボーカルについては曲を歌ってみて決めることになっているので未定だ。最悪、演奏だけでも盛り上がると思うし、無理に歌をつける必要もないだろうとは思っている。




「ああ、こちらこそ!」


「よろしく二人とも。じゃあ入ろうか」


 そうして受付をし、当てられたブースへ向かう。


「じゃあまずは機材のセットからだな」


 泰斗が準備をしだす。


「済まない、そこらへんはよくわからんから任せてもいいか? 早めに覚えるようにするから」


 ピアノは弾けるが、流石にこの手の機材を使ったことがないのでそこら辺は任せるしかない。


「そうか、じゃあ今日のところはこちらでやるから、また覚えてくれたらいいよ」


「ああ、ありがとう」


 そういう大迫くんにお礼を言って、俺はキーボードの用意をしながら皆の動きを見ておく。


「んじゃ、出来たやつから適当に音出しして行こうぜ!」


「りょーかい」


 と返事をし、小田原さんがベースを担ぐと--





「--いえええええええい、てめーら準備はいいかああああああ!!!」





「「!?!?」」


 俺と泰斗が揃ってそちらを振り向く。すると、先ほどまで大人しかった小田原さんは、あの美術教師の富佐子を五倍男らしくしたような活発な雰囲気に様変わりしていた。


「な、なんだ?」


「ああ、すまない二人とも。アヤはベースを持つと人が変わるんだ。まあ演奏に支障はないから安心してくれ」


「は、はあ」


 腕に支障はなくともこちらの心臓に支障が出そうだ。マジでびっくりしたわ!


「それでは僕も」


 と大迫くんがスティックをもち椅子に座ると--





「--おらあああああああ! きばっていこうぜえええええええ!」





「「!?!?」」


 えっ、君もそういう系だったの!?


「泰斗」


「いや知らねえよ、でもいいんじゃねーか? これくらいテンション高い方がノッてやり易いと思うぜ?」


「そ、そうか」


 そういうものなのかなと無理やり自分を納得させ、用意してもらった機材に繋いだキーボードの前に立つ。


「じゃあまずは軽く音合わせからしようぜ」


「おっしゃああああ、アタシについてこいよおおおおおお」


「オレのビートについてこれるかなああああ???」


 いやどっちなんだよ、協調性を持とうね、君たち?


 そうしてなんとか始まった練習は、3時間ほどたっぷりとして終わった。





「今日はありがとう皆! これから1ヶ月ほどよろしく!」


 泰斗が締めの挨拶をする。


 文化祭は11月23日から25日の3日間、26日は片付けの予備日だ。なので今日は10月16日ということで1ヶ月ちょっとの期間一緒に練習をし、そして人前で演奏することとなるな。


「こちらこそ、今日は楽しかったよ。僕も久々に演奏できたからよかった」


「うん、コウのドラム、カッコ良かった」


 と小田原さんが彼氏を見つめてスカスカオーラを出す。くっ、ただでさえ泰斗と霞というカップルが身の回りにいるのに、また一つ組み合わせが増えるとは……

 だが文句を言っても仕方がない、青春は今しか体験できない貴重なものだからな。といない歴イコール年齢がほざきます。


「次の練習はどうする?」


「そうだな……文芸部は基本的に月と金に活動しているから、火曜から木曜、そして休日は基本空いてるよ。テストも終わったし」


「だね、私もコウと同じだから」


「そうか、じゃあ練習は基本火曜と木曜、そして土日のどちらかの週3日でどうだ?」


「うん、それでいいと思う」


「僕も賛成だ」


「俺も大丈夫だぞ」


「じゃあそういうことで! またな!」


「ああ」


「ばいばい」


「また!」


 そうして四人別れ、俺は帰宅する。


「ただいまー」


「あ、おかえりお兄ちゃん。今日は遅かったね?」


 時計を見ると、8時半過ぎだ。5時から練習し始めたから、仕方ないな。


「あれ、言っただろ、バンドの練習があるって」


「ああっ、そうだった……観に行けばよかったなあ」


 と何故か残念がる真奈。


「文化祭で演奏するんだから、別にいいだろ?」


「えー、間近で見たいんだもん! ピアノを弾くお兄ちゃんの姿、昔からめちゃくちゃ好きだったんだよ? ああ、この人と私将来結婚するんだって……」


 などと憧れの視線を向けてくる妹。


「ええ……真奈、そんな小さい頃からそんなこと思ってたのか? 幼稚園とか小学生だぞ?」


 いくらなんでも早熟すぎやしないか? 女子ってそういうものなのかなあ。男子は基本パンツがどうとか言ってる年頃だしな。


「当たり前じゃない。私は生まれてから死ぬまでお兄ちゃんと一緒にいるんだから、運命共同体なんだよ?」


「いやいや、どれだけだよ。とにかくこれからは週に3日ほど遅くなるから、晩ご飯食べていてもいいしな?」


「うん、残念だけどそうするね? 流湖先輩もたまには顔出してくれてるじゃない?」


「ああ、じゃあまた頼んでおこうかな。こういうとき知り合いが近所に住んでいると助かるな」


 というか一つ下の階だが。


 ----ピンポーン!


 するとちょうどチャイムが。


「あ、出てくるね!」


「ああ」


 そうして真奈が扉を開けると、いまさっき話題に出していた流湖が立っていた。噂をすればなんとやらだ。


「二人ともいた〜! あのね、お義母様たちが来ているよ?」


「あれ、そうなのか。何も聞いていなかったけど」


 というか今余計な変換をしなかったか? んん?


「買い物に行った帰りに寄ったんだって〜、サプライズで驚かしに来たんだとか」


 なんだそりゃ、よくわからないサプライズだな。まあでも会えることは嬉しいから早く行こうか。


「連絡ありがとう」


「いえいえ〜、ここでしっかりと夫を迎えに行く妻の印象を付けておかなくちゃ……」


 後半は何を言っているか聞き取れなかったが、何なのだろうか?


「お兄ちゃんいこっ」


「ああ」


 そうして隣の折原家に行き。


「あら、伊導、真奈、一週間ぶりね」


「ああ、久しぶり母さん」


「お母さーん、会いたかったー!」


 そうして出迎えてくれたのは、我が母親の伊勢川真央だ。真奈が抱きつきそれを暖かく迎える。


 母さんたちは告知通りに定期的に俺たちの様子を見に来ており、ちょうど前回一週間前に来ていた。ので買い物ついでに『兄妹仲の定期検査』をしに来たのだろう。そもそもは依存症の他にも俺と真奈が望まぬ関係にならないようにするための荒治療的な二人暮らしだからな。


「父さんは?」


「え? 今日もお仕事だわよ、残念だけど帰りは遅くなるって言っていたわ」


「そうなのか」


 さっき流湖は"達"と言っていた気がするが、聞き間違えたのかな?


「それよりも、早く上がってちょうだい? 真奈も行きましょう」


「え? ああ、うん」


「はーい」


 母さんはやけにニヤニヤしている。一体何があるというのか、サプライズって母さんのことじゃなかったのか?


 そうして真奈と手を繋ぐ母さんと、それに教えに来てくれた流湖と奥に行くと----





「----あらぁ、イドちゃん!」


「おう、伊導! 久しぶりだな!」






 ええ、じっちゃん、ばっちゃん!?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る