第42話 不良に絡まれた流湖、そして俺は
お店の角に隠れた通路の奥の方で、流湖は絡まれていた。
更に不幸なことに、人通りが少なく暗い空間のようで、俺たちが気付けたのが幸運なくらいのロケーションだろう。
「おい、何してんだお前ら」
俺たちは慌てて駆け寄る。
「い、伊導くんっ」
「あ、彼氏か? そっちの女も中々いいじゃねえか、大人しく差し出せば見逃してやるよ僕ちゃん」
「「「ぎゃはは!!」」」
リーダー格らしき男が理瑠を見て舌舐めずりをする。理瑠は慌てて俺の後ろに隠れた。背中を掴む手が震えている……
「おい、流湖を離せ。そっちこそ、いま解放するなら許してやるぞ?」
「は、なにこいつ?」
「先輩、やっちゃっていいんじゃないっすか?」
「そうだなあ、悪い子にはお仕置きしなきゃなあ」
「きゃっ」
先輩と呼ばれた男は流湖を下っ端に押しつけ、こちらに近づいてくる。
「お、お兄さんっ」
「安心しろっ」
さらにガタガタと震える理瑠を落ち着かせるために、腕を後ろにし頭に手をやる。
「は、はいっ」
「なーにカッコつけちゃってんの? こんなところでオネンネしちゃったらいつ見つかるんだろうねえ?」
不良どもは全く悪びれる様子はなくそう言ってのける。
「まあ、二人には違う意味でベッドにオネンネして貰うけどな!」
「ぎゃはは!」
「いっ、伊導くん助けてっ!」
流湖を見ると、身体をベタベタと触られていた。必死に逃げようとしているおかげか、まだ大事な部分までは侵入されていないようだが。あの抵抗もいつまでもつか……
「伊導くん助けてっ! だってよぉ!!!」
「ぐおっ」
が腹を狙って蹴りを放ってきた。俺は慌てて腕で受け止める。こいつ、やり慣れてやがるな。
「お兄さん!!」
「理瑠、早く誰か呼んで来るんだ!」
「でもっ」
「いいから!」
「は、はいっ」
彼女を送り出そうとするが。
「おっとそうはいかねえぜ!」
「ひゃあっ」
下っ端の一人が理瑠に抱きつきそれを防ごうとしてくる。
「まて!」
だが俺はとっさに横っ飛びをし、そいつをなぎ倒した。
「早く行け!!」
「ひゃいい」
たたらを踏んで転けそうになりながらも、なんとか逃げ出せた。後は時間稼ぎか……
「しね」
その声に後ろを向くと、男が足を大きく上げて振り下ろそうとしていた。
「ぐはっ」
抱きついて倒れたその背中を、足蹴りしてくる。
が、俺はとっさの判断で、横にコロコロと転がった。そして今下っ端の顔に脚が入り、嫌な音がする。
「ちっ」
「くそっ」
だが俺も少し擦ってしまい、脇腹が痛い。こいつ、まじで殺そうとしているのか? それになんでここは防犯カメラがないんだ。こんなのやりたい放題じゃないか!
「しぇんぱい、はなぎゃあっ」
男が顔を押さえて左右に体を振る下っ端の腹を蹴り黙らせる。なんと容赦のない……一応味方だろうに。
「ああったまきたなあ、君、やっぱ死んでくれない?」
「なっ!」
羽織ったジャケットの胸ポケットから、短めのナイフを取り出す。こいつ、こんなもの持ってやがったのか……!
「そいつ、好きにしていいぞ」
「まじっすか! あざっす!」
「いやああ!! 伊導くん!!! いやああああ!」
「流湖っ!」
「いい女だなあ、へへっ」
廊下のさらに奥に連れて行かれた流湖を押し倒し、下っ端がイケナイことをしようとする。
「うりゃあ!」
同時に男が思いっきりナイフを振り下ろしてきた。
これは……そうだこうすれば! 俺はとっさの思いつきの行動に出る。
「うおっ!?」
「貰った!!」
背負っていたショルダーバッグを急いで外し、チャックをあけ、そこに腕を突っ込ませたのだ。
そしてそのまま、走り出した勢いでベルトの部分で首を絞めてやる。
「ぎっ!」
思いっきり力を込めてなぎ倒した後、流湖のもとへ。
「ぎへへ、初めては優しくってな〜〜」
「いやあ、いやあっ、ごめんなさい許してごめんなさいそれだけはいやあああああ!!!!」
下っ端はチャックを開け、今にもコトに及びそうだ。
「流湖おおおおおおお!」
彼女の上に四つん這いになりマウントを取っていた下っ端の股間を、おもいっきり蹴り上げてやる。
ぐにゃり、と嫌な感触を感じるが、すぐさまレスリングのように抱きついて彼女の上から引きはがす。
「ふざけるなこのくそがきゃあああああ!!」
そのまま痛がりながらも必死に抵抗をする下っ端とグルグルと上下を入れ替えながら揉み合っていると、男が再びナイフを手に取り走ってくる。
「いぢ、い、伊導くんんんん!」
ふおおっ! 俺は今日一番の力を込め、なんとか下っ端と上下を入れ替えると。
グサリ。
「ぐあああああ!」
「なんだと!?」
「ひっ」
俺の上に乗っかった下っ端の背中に、ナイフが突き刺さる。
「いでえええ、ぜんばいいてええよお」
「う、うるせえ!」
「ひぎゃっ」
男は下っ端の顔を蹴り、気絶させてしまった。歯が何本か飛び散るくらいの勢いだ。
「お前、殺すだけじゃ飽きたらねえ。全身バラバラにしてやるからな!」
完全に逆恨みであるが、仲間を倒された怒り? によって激昂する。
ん、あれは? 俺は、周りを見渡すとあるものが目に入っ
た。
男が下っ端の背中からナイフを抜くと、下っ端はびくりと体を震わせる。
「お楽しみは後からだぜ……そこのメスガキは廃人になっても使い回す性奴隷行きだからな?」
ナイフの血を舌で舐めとるいかにもそれらしい行動を披露し、そう流湖のことを脅す。
「いやあ、いやあ、伊導くん助けて、いやあ」
俺はズリズリと尻餅をつきながら近づいてきた流湖の耳にあることを舌打ちする。流湖はとても嫌がるが、俺が必死に早口で説得すると、なんとか理解してくれたようだ。
「本当ね? し、信じるからね? 伊導くんのこと」
「ああっ、いくぞ」
そして俺は廊下の奥に向かって走り去る。
同時に、流湖は不良たちのリーダー格に向かい、笑顔で接近しているハズだ。
「ああ? なんだあいつ、逃げるのか? ぎゃはは!」
「ね、ねえ、お兄さん? 性奴隷じゃなくて、せ、セフレじゃダメかな? ほら、どう?」
「あ? どうした、見捨てられた途端しおらしくなりやがって。セフレだと? ふうむ……」
男はなにやら考え込む仕草を見せる。その隙に俺は、先ほど見つけたソレを思いっきり押す。
「流湖、どけ!」
「うん!」
「そうだな、金曜日担当なら……ぐはあああっ!?」
震えながらも転がるように飛び退く流湖を通り過ぎ、俺は廊廊下の奥から持ってきた
脛に直撃させることができ、男はその場で蹲ってしまった。
「いっでででで」
「流湖、逃げるぞ!」
「うんっ、あ、あしが……!」
流湖はやはりこんな目にあったせいか、うまく身体を動かすことができないようだ。先ほど飛び退けたのが奇跡だったくらいだろう。
「なにっ? ごめん失礼する!」
「ひゃっ」
俺は昨日妹にしたようにお姫様抱っこをし、流湖を抱えて店舗エリアに行く。
するとちょうど、理瑠が誰かを連れてこちらに向かって来ているのが見えた。
「先輩、大丈夫ですか!?」
「それよりもあいつらを!」
「奥にいる三人ですね」
警備員を数人と、警察官が数人。それぞれ二手に分かれて男たちを拘束していく。
「あ、バッグ」
俺はその隙に理瑠に流湖を預けバッグを回収する。
「あちゃあ、やっぱ結構破れてるな」
それほど物を入れていなかったので中身は奇跡的に無事だが、男が中でナイフを暴れさせたのかそこの方が破けている。
「お兄さん、お怪我は!?」
「いや、ちょっと痛んだだけだ。それより流湖を早く介抱してあげないと
「そうですね! 先輩を連れて医療室に行きます」
そうして二人は他の警備員に連れられて去っていき。
俺はひとまず一人、事情聴取を受けることになった。
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