第4話 俺たちの結論 その2
そうしてアレコレ攻防した後、話の続きをすることになった。風呂も入り(これまた一悶着あったのだが)明日の用意もしたし。後は学校での対処の方法とかを考えていかないとか。
「……さて、真奈」
「はい」
「しばらくは様子見ということだし、まずは無理をしない範囲で登校は続けよう。明日、俺と真央もついていく。3人で4者面談だ。伊導はそのまま学校へ行ってくれていい」
「え、いいのか?」
また倒れたりしないだろうか?
急に不安になってきた。
「大丈夫だ。もし何かあってもすぐに家に帰らせる。真央には済まないが、頼めるか? 俺も仕事があるしな、面談が終わったら学校を離れないと。そして、取り敢えずは明日の朝からはもう伊導に出来るだけ接触しないようにしてみよう。それでどのくらいで症状がで始めるのかを確かめないとな」
「わかったわ」
確かに、病院でも家でも、殆ど真奈に付きっきりであった。父さんの言うとおり、明日から本格的に色んなことを試していくことには賛成だ。
「うう……」
「どうしたんだ、真奈?」
妹は急に俯き、暗い表情だ。
「いざ考えると、やっぱり怖いなって。先日も倒れたのは本当に急だったから……お兄ちゃんも、一緒にいてくれない……?」
「うーん……俺も学校があるしなあ」
そろそろテスト期間も近づいているし。真奈のことが心配なのは間違い無いが、俺にも俺の生活があるのだ。天秤にかけられることでは無いが、それでも今ここで学校を休むのは少々辛いものがあるのは確かだし。
ただ帰宅部なので、一度登校すれば夜までずっと離れている、ということはないのでその点は不幸中? の幸いか。
「でも、何かあったら駆け付けるようにはしようかな」
「ああ、もしそうなったら、お前の学校にもきちんと事情を説明しておこうか。」
「そうしてくれると助かる」
取り敢えず、明日の事はこれで決まりのようだ。
「次に、二人暮らしの件だが。期間は……そうだな、ひとまずは1年間でどうだ? 短いと思うかもしれんが、それでもし少しでも効果が出れば引き続き二人暮らしをすればいい。治る見込みがないのにいつまでも二人きりにさせておくわけにもいかないしな。その時は別の方法を模索する必要がある。こういうのは、判断するタイミングが大事だと思うぞ」
1年間か……今が秋だから、来年の秋か。
俺は今、高校一年生。
で、真奈は今中学三年生。そろそろ受験に備えてラストスパートという期間に入るだろう。
真奈は誰の遺伝か、頭は昔から悪くない。むしろ学校の成績はいい方だと聞いている。
なので『伊導お兄ちゃんのことが好き好きすぎて脳がアヘアヘしちゃうのおおおおお病』に罹ったからと言って、すぐに学業が覚束なくなって人生がどうこう……という事態にはならないと思う。
ところで真奈はどこの学校に進むつもりなのだろうか?
「じゃあ、来年は学校でも一緒にいられるし、家でも二人きりでいられるのね!」
「え?」
「あら、聞いてなかったの? 真奈、伊導の高校に進みたいって言ってるのよ。あなたのことが好きだから、というわけじゃなくて、部活動が強いし、推薦もあるのよ。それに進学実績もそこそこあるのよねあそこ」
妹の所属するは美術部だ。中学では残念ながら地方大会止まりであったが、真奈自体のそのポテンシャルはなかなかなものだそう。
俺の高校の美術部は中堅高校って感じで、ここら辺では一番の実績を持つと入部体験期間に宣伝していたのを思い出す。
もし入学して実力を伸ばすことができれば、きっと本人にとってタメになるに違いない。
手に職があるというのは社会に出てもアドバンテージになるしな。
「なるほど……」
ただ俺と一緒になりたいという訳じゃなく、きちんとした理由があるのであれば納得はいく。
「だが、まだ受かった訳じゃないぞ?」
「でも、美術部の顧問の先生は、この技術力で地方大会落選なんておかしい、とまでおっしゃっていたわ。頭も悪くないんだし、そこまで厳しくはなさそうだけど」
「だが油断は禁物だ。受験というものには魔物が潜んでいる……」
父さんはどこか遠い目をし、そう呟く。過去にいったい何が?
「私、受かってみせる。そして高校でお兄ちゃんと
と、俺の方を向きさっきのようにウィンクをする。さりげなく好き好きアピールしてくるのやめてもらえませんかね妹様。流石に両親とも気付いていると思うぞ。
「おい、真奈。何度も言うが、近親恋愛はダメだぞ。二人暮らしをさせるのも真奈の病気が早く治ってほしいのと、何より伊導のことをそんな関係を認めるような奴じゃないと信用しているからだ。お前も、情に絆されるじゃないぞ、いいな!」
「わかってるよ父さん。大丈夫」
「むう〜〜〜」
真奈よ、そんなに頬を膨らませても恋愛対象にはならないから。いつまでもただの可愛い妹でいてくれ。
「二人暮らしの物件には後日案内する。今度の休日にでも見に行こう。家具なども必要だろう? 大家さんにも話を通しておかないとな。実は、俺の昔からの知り合いなんだ」
そうなのか。じゃあ、何かあってもある程度融通はきくかな?
「念を押すようだが、お前たちの動向は監視するからな。絶対に、絶対に間違っても間違いを起こすんじゃないぞ? もし万が一そうなったらご近所に顔向けできんからな」
父さんもしつこいけど、でも近親恋愛というのは本来はそれくらい忌避されるものだということだろう。
「さあ、今日はここまでにしましょう」
「そうだな。明日は学校に行かなければならないしな。伊導も、早く寝なさい」
「ああ、わかった。お休み」
「おやすみなさい、二人とも」
「おやすみ〜」
そして共に二階に上がる。そして、部屋の扉を開けようとした時。
「……ねえ、お兄ちゃん」
「ん、なんだ?」
一旦掴んだドアノブを話した妹は、俺のほうに近づいてくる。
「お兄ちゃん成分……寝る前に、補給していい?」
「あ、ああ、そうだな」
俺は妹が抱きついてくることを予想して、向かい合ってやった。その時――――
チュッ。
「えっ?」
頬に、柔らかいものが……!?
「えへへ、しちゃった。告白してから、初めてのキスだね? まだ、ここまでしかできないけど……いつか、堂々と口と口でできたらいいな?」
ほんのりと頬を赤くした真奈は、そのままシュババッと自室へ引っ込んでしまった。
「……今の、やっぱりそういうこと、なんだよな?」
二人きりになったらいったいどうなってしまうのだろうか?
幾ら俺が我慢しても、あっちから攻撃してきてはいつか間違いが起こりそうだ。いや、絶対に起こさないけどな!
こういう行動も、思い切って矯正させるべきだよな。
俺のことを諦めさせ、病気の治療の糸口を見つけ、さらに1年間を二人きりで無事に過ごす。なかなか難易度は高いが、これも妹の将来と、俺の健全な未来のためだ。
「はあ、早く寝よう……」
そうして俺は少しモヤモヤしたものを抱えながら、ベッドに横になると、いつのまにか眠りにつくのであった。
――――ちゅんちゅん。こけこっこー。
「おはよう、お兄ちゃんっ♡♡♡」
「え、なんでここに妹が!?」
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