花の恋文
雨世界
1 ……あなたと、一緒にいたかったな。
花の恋文
プロローグ
大丈夫。君は一人じゃないよ。
本編
……あなたと、一緒にいたかったな。
「よし。できた」
そう言って、書き終えた手紙を見て、井上千夏はにっこりと笑った。(我ながら、100点満点の満足のできだった)
「千夏ー。お昼ご飯できたよー。下りてきてー」千夏が少し前に引越しをした、ずっと近所に住んでいた千夏と同級生の中学二年生の男の子、奥山花くんに手紙を書き終えたときに、ちょうど、そんな千夏のお母さんの声が、一階の台所から聞こえてきた。
「はーい。今行く」千夏はそう返事をする。
時間を確認すると、ちょうど十二時だった。
それから千夏は大切な手紙を真っ白な封筒の中に入れて、それからその手紙を持って、自分の部屋を出ると、二階から一階まで、とんとんと元気よく階段を駆け下りていった。
「先にちょっと手紙出してくる」
玄関で靴を履きながら、千夏は言う。
「早く帰ってくるんだよ。ご飯。冷めちゃうからね」千夏のお母さんが台所から顔だけを出して、千夏に言った。
「はーい。行ってきます」
そう言って、千夏は元気に自分の実家を駆け出していった。
手紙を出してくる、とは行っても赤いポストは千夏の家の本当にすぐそばにあった。
二軒隣の家の前の川辺の道路のところに、その赤いポストはあった。
千夏はいつものように、そのポストの前まで移動をすると、そのポストの中にさっき書き終えたばかりの手紙を入れた。
その手紙を手放すときに、少しだけ、……千夏の指は震えていた。
「……これで、よしっと」
にっこりと笑って千夏は言う。
それから千夏はさっき走ってきた道をまた急ぎ足で走って、自分の実家に戻って行った。
季節は春。
千夏の走っている川辺の道路の周辺には、桜がたくさん植えられていて、(この千夏の住んでいる田舎の白鳩町の桜の名所にもなっていた)その桜の木々には、満開の桜の花が咲いていた。
その桜の舞い散る花びらの中に、千夏は、ずっと遠くに行ってしまった奥山花くんの面影を見ていた。
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