7話 秘密結社・武者倶楽部
「ぷふぁー♪」
ワゴン車の後部座席で瓶入りのジンジャーエールを、一気飲みをした由良穂香は、満足な表情をした直後、対向車線から赤と黒の憲兵隊カラーのオフロード車が、見えて、素早く身を潜めた。
防諜機関でもある探題憲兵隊は、一般人が関わることはまずない組織だが、関わるとかなり面倒な組織だ。
【白夜のタルタルソース】と、書かれた明らかな営業車は、さほど疑われる要素が少ないらしく、憲兵隊は何の疑いもなくすれ違った。
憲兵隊本部長の娘が、隠れるのも変だが・・・・
僕がそんな事を思っていると、
「家臣くん、家臣くん」
と早朝のパン屋で買ったシュークリームを食べながら呼んだ。
「これから行くところの事を説明して良いですか?」
「うん」
「時代が、魚座からみずがめ座の時代に移行するのって知ってます?」
「多分・・・知らない」
「みずがめ座の時代はですね、あらゆる既得権益が消えて、完全な自由競争の時代になるのです」
「・・・」
「私が所属している【武者倶楽部】って言う倶楽部は、その時代に対応する為の力を、手にしようとする武者修行をする者たちの集まりなのです」
武者倶楽部・・・・一見すると、剣道部や弓道部の集まりの様な名称だが、そんな倶楽部が、自販機の奥に無線機を仕込んだりするだろうか?
「その倶楽部と、あるじが誘拐された事も、何か関係があるんですか?」
僕の問いに、バックミラーに映る由良穂香は、微笑んだ。
普通の女子高生がする微笑みの種類とは、違う深い意味があり過ぎる微笑みだ。
だが、そんな微笑にも関わらず、あるじの頬にはクリームが着いている。
あるじは、じっと僕を見つめた。
「頬のクリームを取って!」と目で訴えていた。
「そんな恋人同士みたいなこと出来ません」的な視線を僕は送った。
でもあるじは目で訴え続けた。
信号で止まると僕は仕方なく、あるじの頬のクリームを取って上げた。
そして、指に着いたクリームを、あるじは「お食べ」と目で命じた。
由良穂香の考えているあるじと家臣の関係性が良く解らないが、僕がクリームを食べると、あるじは嬉しそうに納得して話を進めた。
「憲兵隊の娘だからって線も消えた訳ではないですけど、憲兵隊がこの件で動いた形跡がないみたいだし、今のところ【武者倶楽部】関係の可能性が高いと思われます」
話はより複雑になったって訳だ。ただでさえ記憶もないと言うのに・・・
7時を過ぎると、街は徐々に混雑し始めた。
あるじと同じセーラー服を着た女子高生の姿も、見え始めた。
その姿を見かけると、あるじは素早く身を潜めた。
僕らは何をしようとしてるんだろう。
そんな疑問を持ちつつも、あるじに言われるまま、地下街の駐車場に入った。
追われている身?として、地下に入るのは、ちょっとした背徳の興奮が、身体を巡った。
一番奥に車を停めると、僕らは地下街に向かった。
地下街では、表の社会の人が、表の学校や職場に向かっていた。
セーラー服を着たあるじとスーツ姿の僕も、一見、表の社会の人間に見えないこともなかった。
でも、今から僕らが向かうところは、あるじが「秘密の巣窟」と呼ぶ場所。
つづく
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