2話 家臣があるじに奢る?(*゚0゚)ハッ

由良穂香の足は、鍛えられた足だった。


「ネットに繋がらないと、情報の海の孤島にいるみたいです」


水牛党はスマホとか補給してはくれなかったのだ。

靴下を脱いだ由良穂香は、車のダッシュボードに足を乗せ、足の指を開いたり閉じたりしていた。

毎日欠かせないストレッチらしい。


そして、開いた状態の足の指を一回、閉じた状態の足の指を一回、2眼カメラで撮影した。

車内のラジオのニュースが終わると、何かのクラシックの音楽が流れ始めた。

「チャイコフスキーです」

由良穂香は呟いた。

「こんな感じのが好きなんですね?」

「このクルミ割り人形は、好きな方・・かな」


僕に記憶が在っても、きっと知らない知識だろう。


「これからどうします?」

「少なくとも憲兵隊の娘が誘拐されたことは、まだ報道はされてないみたいです。

報道管制が敷かれているのか?

それともお父さまは、私が誘拐された事すら知らないのか?

誘拐犯が接触を持っていないのであれば、その可能性もあるかもです。

でも、お利口さんな娘が帰らず、家は大騒ぎだとは思います」


「お父さま」と言う女子が、リアルに存在することにちょっと驚いた。


「とりあえず家に帰ります?」

「家政婦さんに連絡してみたいです。

急に帰ったら、家臣くんが、射殺されてしまうかも知れないのです。」

「えっ!」

「そんな驚かないでください。冗談ですよ。

憲兵隊は公的機関ですよ。公然とは撃たないのです。」

「公然とは・・・」

「安心してください。家臣くんは私の初めての家臣です。

だから、死ぬときは一緒です。

生死を伴にするあるじと家臣は、恋人以上の関係です!」


由良穂香の真剣な目が僕を見つめた。

美少女にそんな目で見つめられて、僕にどうしろって言うんだろう。


「とりあえず、どこかで、公衆電話をさがしてみてください。」


由良穂香に言われ、僕はワゴン車を発進させた。

昼間でも酷道は、どこか薄暗く、寂びれていた。


人の管理から離れ、文明から遠ざかろうとしているようだった。


土砂が崩れたまま放置してる道や岩が転がっている道を、僕は慎重に車を進めた。

イノシシが道の真ん中でくつろいでいて、クラクションを鳴らすと、めんどくさそうに退いてくれた。


それ以外、人も対向車も見かけなかった。


「あっ止めてください!自販機があります!」


車を止めると、由良穂香は飛び出して行った。

さすが陸上部なスタートダッシュだった。

その先には、見たことのないメーカーの、ちょっと錆びついた自販機があった。


由良穂香は一通り見た後、車に戻ってきた。


「お金・・・ちょうだい」

「えっ?」

「だって家臣くんに俸禄あげちゃって、今、20円しかないもん」

「家臣があるじに奢るの?」

「うん♪」

由良穂香が美少女全快で返事をするもんだから、僕は仕方なく、財布をだした。


「一緒に来て、家臣くんも選んでください」


そう言われ、僕は錆びついた自販機に向かった。



つづく 

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