第34話 ショウキ
『クロムゥー。もっと真面目にやって!』
「やっとるわ!」
俺はアスタロトに向かって怒号を飛ばす。その声は自然の中に溶け込んでいく。
現在俺たちがいるのは何処かの雑木林だ。それもそのずっと奥。けもの道もなく、ただただ湿った落ち葉が地面を覆っている。空を見上げれば、緑の葉を付けている木もあれば、茶色の葉を付けている木もある。
そんな人の寄り付かなそうな場所に、俺とアスタロトの二人でいた。
他の皆はまたドライブに出掛けてしまった。まぁ何処に向かっているのかは、知らねぇが……。一時間ほどしたらここには迎えに来るらしい。ある意味
そんな事よりも何故俺たち二人だけでここにいるのか?
それは俺の
そしてそれの感染力も非常に高く、最低でアウトブレイク、最悪パンデミック以上のものを引き起こす。災禍。それが【
なので雑木林の奥地。そこでアスタロトが俺たちを覆うように【
ちなみにこの【
それとアスタロトはこの雑木林に入る時、意味深な事も言っていた。
『
まぁ、そんなこんなで俺たちはここにいる。
で、俺は面倒くさいが、アスタロトがどうしてもと言うので、やっているのだが……。
正直アスタロトはクソだ。
「
とアスタロトに聞いて見れば、
『うーん……気合い!』
「はぁ?」
とだけ答えたのだ。もう殴り飛ばしたかった。
だから俺はアスタロトが『放出』すると言っていたのを思い出して、それに従ってやっている訳だが……。
(次に出て来た言葉は何だ? クロム、真面目にやってだぁ? お前も真面目にやれよ!)
そしてアスタロトは木の上でくつろいでいる。
俺はこの悪魔についている漆黒の六枚の翼を、むしり取ってやりたかった。
(まぁコイツ翼が無ければ、俺は一人で移動出来ないんだがな……)
まだ俺は歩く事が出来ない。
あの魔道具・刃の義足は、確かに俺に従っているらしいが、俺がそれを扱えなければ意味が無い。宝の持ち腐れとはこういう事だ。
その点アスタロトがいれば俺が何をしなくとも、その翼で空だって飛ぶことも出来る。ここにだってその翼で来た。
つまりアスタロトには一応文句は言えないのだ。
因みにアスタロトの力に【
で、俺は今アスタロトを睨んでいる訳だが……。流石にしびれを切らしたのか、アスタロトは落ち葉の上に降りてくる。
そしてピクピクとした笑顔で、
『うーん……。ちょっと、ちゃんとやってくれないかな? こっちも色々あるんだよ。ルシファーとか、リヴァイアサンとか、ルシファーとか、ルシファーとか……ルシファーやな……。ルシファー……ね?』
対して俺も超絶スマイルで、対抗の意思を見せる。
「おぅ……そうか。……その翼綺麗だな。お前一回後ろ向けよ……。六枚も要らないだろ? 俺に六枚くれよ。良いだろ……アスタロト?」
お互い睨み合う。
『…………』
「…………」
三十秒程及んだ睨み合い。……先に音を上げたはアスタロトの方だった。
『……あぁ~もう! 分かったよ。私も真面目にやれって事でしょ? 分かったよ……。バカクロムッ!』
(……勝った)
俺は心の中でガッツポーズをする。
『……じゃぁちょっと待って。私考えるから』
「ヘイヘイ」
そう言うとアスタロトは空中で
するとアスタロトは目を開けて、
『そう言えばクロムって、ザドキエルを【
目の前で羽音が物凄くウザイが考えて見る。
(……あの時は確か。……ただ殺したかった? 違うなぁ)
俺は少し考えたところで、ふと疑問に思った。
「アスタロト。何故そんな事聞くんだ?」
そもそもの話なのだが、
それなのにも関わらず、俺に何考えてたと聞くと言うことは……。
(……
と言う仮説に至った訳だが、
『……うーん。あのねぇ。私も良く分からないんだけど……。
アスタロトは相変わらず翼をバサバサとさせながら言う。
何となく想像通りだったので、特にリアクションはしないが……俺の精神が壊れるところだったのか……正直覚えていない。
覚えているのは、ただただ謎の高揚感。まるで全てを手にしたような感覚。それ――――。
「……ぁ」
『ん、どうかした?』
アスタロトが顔を覗き込んで来る。
「いや、何でもねぇ……」
『ん~? 小さな事でも良いよ』
アスタロトは『早く早く』と急かすように、翼をバサバサとさせて、
「流れてた」
『う……ん。何が?』
アスタロトはやや困惑した表情。
「曲が」
『…………曲? ど、どんな?』
俺はその曲を頭の中で流しながら――――。
「――――
『……そ、そう』
アスタロトは翼をバサバサするのを止めて、どうしていいのか分からない表情をしていた。
◈ ◈ ◈
(……交響曲第九の……「新世界より」? ……あのドヴォルザークのやつ? ……なんで?)
全く意味が分からない。何故あんな時に限って、頭の中で曲が流れるのだろうか? 謎は深まるばかりだ。
(じゃあ、交響曲第九の「新世界より」をイメージすれば【
分からん。その一言に尽きる。
現に今クロムの表情を見ると、多分だが頭の中であの時の事を……。曲をイメージしているのだろう。指がノリノリである。しかし【
だがクロムはその状態から固まったままだ。何か思いつめた表情をして……。
『……クロムは、音楽は好きなの?』
適当に話を振ってみた。するとクロムは、やはり何かを思いつめた表情で、
「あぁ……凄く好きだ…………。大好きだ。小さい頃…………。姉ちゃんと…………。ミザリーさんと…………。感動して…………。ピアノも…………」
クロムはそれ以上は何も言わなかった。
私はその言葉に少し引っ掛かりを覚える。
そう言えばこの今の私の姿はクロムのお姉さんの姿。今クロムが呟いていたそのお姉さんやミザリー? と言う人は今はどうしているのだろうか?
そもそもだが、
(……クロムって何で天を憎んでるんだろ?)
私たち堕天使・悪魔は神への不信感。
(じゃあクロムは?)
そこでクロムと契約した時の事を思い出す。
私の天に対する憎しみを言った後――――あの時のクロムの表情……。
私はクロムに聞いた。
『……そう言えばクロムはなんで天を憎んでるの?』
クロムはこちらを向いて、
「そりゃあ――――ぁ?」
――――ゾッ!?
辺りに
あの時に比べれば、威力も範囲も小さい。
だが、
『……【
悪魔系最強の
◈ ◈ ◈
『ク、クロム……一回落ち着いて! ね? えっと』
「何故今その質問をした? 何故お前は俺を見透かそうとするんだ?」
小規模な【
しかしそんな事よりも、
『ち、違う。私は!』
そしてどんどん威力が……!
「黙れぇ、飛ぶなぁ……」
『……ぇ?』
それは明らかに……私以外の誰かにを向いて。
「……軽い正義感でエゴを垂らすな……!!」
【
クロムはまた何かに話かける。
「お前は俺の物音を聞くな。お前は俺の物事を見るな。お前が俺の物語を語るな。……俺を知って良いのは俺だけだ!!」
――ビシッ。
(【
『そこまでの……憎悪を……。何処で……?』
ギョロッ!
するとクロムは私の声に獣のように反応して、
『【
私は木の上に【
これで確定した。クロムの【
だが問題はここからどうするか? 【
次の瞬間、
「ぐッ!? がッアアああああァあああアアァああああアア!!」
(な!?)
クロムは頭を抑えながら絶叫を上げる。目は飛び出しそうに見開き、狂気をも感じる。
そして……【
バタッ。
クロムはその場に倒れた。
私は直ぐにそこに駆け寄り……クロムが口を開いた。
「…………奴らは身勝手に人を……生命を殺す。俺の大切な人達も……無感情に殺す。天使共……。全ての神々は……。俺の敵」
なんとなくは感づいていたが、それがクロムの憎悪の正体。
しかしクロムは少し勘違いしているようだった。
(……この際、全部聞いてみるか)
『……身勝手に生命を殺す。今クロムがしたことはどうなの?』
「…………」
クロムは特に何も言わなかった。
神がするしないの問題ではなく、クロム自身はどうなのか? 自分も出来ていないのに、他人にどうこうする権利はないと思う。
それに……私の一番の謎。
『クロムは天使を恨んでるのは知ってる。天使がクロムに何かしたんでしょ?』
「あぁ……」
クロムはぼんやりした表情をしていた。
『じゃあ、クロムが恨んでいる神は一神教の頂点……つまり私たち悪魔が恨んでいる、聖書のゴッド・ヤハウェ・アッラーの事を言っているの?』
「あぁそうだ。それに他の神々も……」
周りの瘴気がまた濃くなりつつある。
『じゃあ他の神々にからは何をされたの? ……私は他の神々は恨んでいないよ?』
クロムは少し考える表情をして、
「……神は人を無感情で殺す。どの書物にもそう書いてあった。どの神話でもそうだ。平気で生命を……。我々を……。人なんて……。その程度だと……」
『うーん……それは本当なの?』
辺りの瘴気が消える。それはクロムの中で何かが変わったということだ。
『クロムの話を聞いてると、聖書には恨みがあるみたい……。それもちゃんとした理由付きで……。だけど……他の神々は関係なくない? まぁ、会った事ないから分からないけど……。私も昔は神だったからね……。文献には違う事が書かれてたりしていたよ?』
「…………お前の今言った話は本当か? ……まだ他の神々は信用出来るのか?」
その眼差しはとても――――。
『……うん。例えば考えてみてよ。ギリシャ神話のゼウスとかヘラとかなんてメッチャドロドロ恋愛してるよ。日本の古事記とかでも……』
私はそれだけ答えた。
「…………」
クロムは虚空を見つめる。
そして彼の
『……クロム?』
「もう一度聞く。他の神々は信用出来るのか?」
『……うーん。……ごめん、やっぱり分からない。私も確証が無いからね』
彼は何かを掴んだような表情をしニヤリと笑って、
「そうだ……。聞けばいいじゃねぇか……。俺の憎悪がどこまで行くのかを……ハハハッ」
『……どうしたの?』
「チッ、俺は少し考え過ぎだったのかもなぁ……」
『う、うん』
彼の表情に光が灯る。
そしてニヤリ嗤い、クロムは上半身を起こす。
「決めた……。今からの行き先……」
『……何処に行くの?』
その答えは果てしなく、そして異常で――――。
「行くぞアスタロト……
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