不透明なゲンソウ
猫のまんま
項目、1
僕のいるこの世界には魔法が存在する。
僕はただの農民だ。
だけど、僕は魔法に憧れている。理由はとても他愛もないことだ。
ある日のこと、僕の住んでいる村に勇者様がやってきて近くの悪いものを倒しに来てくれたときの話だ。
勇者様は僕たち村人にこう言った。
「僕は勇者だ。君たちがここにいては多少なりとケガをするかも知れない。すまないが少し離れた場所に移動してくれないか」
村人たちは勇者様が最初何を言っているか分からなかった。魔物が出た場所からはこの村は少し離れたところにある。それなのに勇者様はこの村のある場所を離れろと言った。
村人は聞いた。何故この場所を離れなければ行けないのかと。
勇者様は答えた。この場所にいると村人たちが勇者様が使う魔法に巻き込んでしまうかも知れないと。
村人は考えた。魔法がどんなものなのかと……。
村人たちは生まれてから今まで魔法なんてものは見たことはない。話ぐらいは行商人から聞いても詳しい内容までは何を知らない。
勇者様は答えた、とても危険なものなのだと。
村人たちは急ぎ足で動いた。なるべく、数日は困らないような食料をもって、勇者様の用意した場所へと移動した。
そんな中、僕は自分の家に隠れていた。両親は僕が小さい頃に死んでいて祖母に育てられていたが、先日その祖母も老衰で亡くなってしまった。
祖母から畑や家をもらった僕は細々と生活していたが勇者様がきたことによって、好奇心を動かされてしまっていた。
勇者様が使う魔法を見たい。
そう思ってしまっていた。
そんなわくわくする気持ちを押さえられずいると僕の家の外からすごく大きな爆音が聞こえてきた。
なんだろうと思い、外へ出てみると村人たちの家はバラバラに崩壊していた。
どうして、と思った。いまさっきまで建っていた建物はなくなり今そこには瓦礫となった材木が幾度もなく積み重なっているばかり。
昨日まで楽しげに暮らしていた村のすがたとはかけ離れた光景が、僕の目の前にうつっていた。
これが魔法…?
光景に僕は呆けていると勇者様がやってきて僕に言葉をかけた。
「魔物はちゃんと退治したよ。こんな被害がでたけど…君は村の人たちと一緒に避難しなかったんだね」
僕は言葉が詰まった。
「まぁ安心して…もう終わったから」
勇者様は僕が恐怖で声が出ないと思ったのだろうか、僕に優しく言葉をかけてくれた。
「あ、あのこれが魔法なんですか…?」
勇者様はすこし驚いた表情を見せた。でもすぐに何か言いずらそうな表情になった。
「そう…だよ。これが魔法」
「すごい……」
今さっきまであった建物たちは崩れている。どんな魔法を使ったらこんな風になるのだろう。
「すごいものか…これは魔法の恐ろしいとこだよ」
「恐ろしいとこ?」
勇者様は答えなかった。ただ悲しげに微笑んでいた。
どうしてだろうか、魔法はすごいことなのに悪いものとかも倒してくれる力なのに、どうして勇者様は魔法を恐ろしいものと言ったんだろう。
もう一度崩れた村を見渡す。でもこれは勇者様が魔法を悪いものに使った魔法のおかげでこうなっただけで、魔法が怖いものだと僕には思えなかった。
それよりも僕はよりいっそう魔法に憧れた。この力があればいろんな人を悪いものから助けれる。勇者様の苦労も少しはなくなるかも知れない。
勇者様は疲れているんだ。一人でいろんな悪いものと戦ったりしているから。
そんな時に僕が魔法を使えて勇者様の手助けになれたならなぁ。
勇者様は村の様子を見て暗い表情のままだ。しばらくするとそこに村人たちが帰って来て勇者様に感謝していた。
家が壊れた村人もいて困っていたが勇者様には感謝をしていた。
勇者様は何も間違ったことはしていない。それなのに勇者様は僕から見て壊れた村を見てた時の表情と変わらなかった。
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