【新説昔話集#4】新説一寸法師

すでおに

新説一寸法師

 5年たっても10年たってもちっとも大きくならず、いつまでたっても小さいままの一寸法師はある日おじいさんとおばあさんに言いました。


「おら都へ行きたい。都へ行って侍になりたい」


 二人は驚いて反対しました。こんなに小さな子をよそへ行かすことなど出来るはずがありません。ましてやこんな人里離れた辺鄙な山奥から都へなど。

 

 しかし一寸法師の決心は固く


「おらは都へ行く。都で立派なお侍になって来る」


 二人を説得し、針で出来た刀を腰に差し、お椀の舟に乗って、一路都を目指して川を出発しました。


「よいしょ!こらしょ!どっこいしょ!」


 小さな体をいっぱいに使ってお箸の櫂を漕ぎ、どんぶらこどんぶらことお椀の舟で川を下ります。

 水の流れは時に激しく、急流に流され、濁流に飲み込まれそうになりました。しかしそんな苦難をものともせず懸命に櫂を漕ぎ続け、法師はとうとう辿り着きました。


「ついに都に着いたぞ!」


 ところがです。


 喜び溢れる法師の目の前には予想もしていない光景が広がっていました。


 なんと都の人々はみな自分と変わらぬ背丈だったのです。

 

 法師はようやく知りました。


 そうです。一寸法師が小さいのではなく、おじいさんとおばあさんが大きかったのです。人里離れた山奥で生まれ育ったため今まで気づかずにいたのでした。


 なんということでしょう。自分はごく普通の人間だったのです。嬉しいやら口惜しいやら、心中は複雑です。


 しかしそんな思いも初めて目にした都の景色に霞んでいきました。

 色とりどりの着物を着飾った人々、老若男女が行き交う街並み、景気の良い掛け声。

 見るもの全てが新鮮で、得も言われぬ感動を覚えました。


 感慨深げに都を眺めていた法師はひと際きらびやかな集団を見つけました。お姫様の一行です。


「なんときれいなことだろう」


 美しいお姫様にうっとり見惚れていた、次の瞬間、突如都が悲鳴に包まれました。


「鬼だー!鬼が出たぞー!」


 大きな鬼が現れ、お姫様の一行に襲い掛かったのです。それは度々都へ来ては人間を喰らう恐ろしい鬼で、都の人々は鬼を見るや否や大急ぎで家々に逃げ込みました。


 家来たちは姫を守ろうと懸命に立ち向かいましたが敵うはずはありません。


 法師は


「おらが成敗してくれる!」


 侍になるために都へやってきたのだと、臆することなく、針の刀を抜いて勇敢に立ち向かいました。


「えい!やあ!」


 しかし


 ぱきんっ


 針の刀は屈強な鬼には通用せず、あっさりへし折られてしまいました。


 万事休す。


 その時です!


 ずしーん どしーん

 ずしーん どしーん


 今度は地響きが都に響き渡りました。

 何事かと辺りを見回すとびっくり。なんと山ほどもある大きな人間が二人、都へ向かって歩いて来ます。


 ずしーん どしーん

 ずしーん どしーん


 どんどん近づいてくる巨人に鬼も姫も目を丸くして唖然呆然。

 しかし法師には見慣れた光景でした。


「おじいさん!おばあさん!」


 巨人は耳馴染みのある声にすぐに気づきました。


「おお法師や、無事に辿り着いたか」


 心配で様子を見に来たおじいさんとおばあさんでした。二人もまた初めて見る都の寸法に驚きながらも、法師を見つけて安心した様子でした。

 鬼はというと、さっきまで我が物顔で大暴れしていたのに、巨人の出現に呆然と立ち尽くしています。


 法師はこれ幸いと


「鬼が暴れている!助けてくれ!」


 大声で叫びました。


 するとさすがの鬼もこんな巨人には敵わないと


「これでどうかおゆるしを」


 どんな願いでも叶うという、打ち出の小槌を置いて一目散に逃げていきました。


 助けてもらったお姫様は驚きつつも礼を述べ、たくさんの褒美を授けました。大判小判に、米や味噌、美しい着物まで。

 しかし大きな二人に大判小判は役に立たず、米は米粒ほどでしかありません。


 これではせっかくの褒美がもったいないと、法師は鬼が置いていった打ち出の小槌をおじいさんとおばあさん目掛けて振りました。


「小さくなーれ、小さくなーれ」


 おじいさんとおばあさんは法師たちと変わらぬ背丈になり、都で三人、褒美を糧に幸せに暮らしましたとさ。


 おしまい

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