第162話 俺、戦場の只中に出現する

「よし、全員集まったな」


 俺は指差し確認する。

 ラムハ……は俺の腕にくっついてる。


 カリナ……も逆の腕にくっついてる。動けない。


 アミラ、フタマタ、女神、シーマ。

 フロントとジェーダイは、向こうで冥界の仲間達と別れを惜しんでいた。

 なるほど、古代文明人はなんか古代って感じがする服装だな。


 キョーダリアスよりも、ちょっとハイカラだ。

 この世界も、古代文明が終わってちょっと文明が退行したんだろう。


「待たせた」


「お待たせである」


 二人が戻ってきたので、それで帰還しようということになった。

 ……あれ?

 あと一人いないような。


『いい? ミッタク。私からは心構えしか教えてあげられないわ。冥界から物を持って帰ると大変なことになるからね。だからちゃんと聞いておいてね』


「なんだよ改まって」


『ミッタク、あなたは明らかにあの仕方ないお父さんのせいで、男の子みたいに育てられてるの。だけどけあなたはとっても綺麗なのよ! ちゃんと自覚して、そしてあなたをちゃーんと引き受けてくれる人を逃さないようにしなさい! いいわね!』


「お、おう!」


『オクノさんを手放しちゃ絶対だめよ! あと、近いうちにちゃんとエッチすること! いいわね!』


「お、おう」


 二周り位小さい母親に、押されっぱなしのミッタクだ。

 ミッタクパパよりも圧力が高いな!

 後、なんか俺にも変なプレッシャーをかけてきた。


『オクノさん、うちの娘をちゃんとリードしてくださいね! そこのところ、子供と一緒なんですから!』


「はっ、分かりました」


 俺も押されて承諾する。

 戦争が終わったら、ちょっとミッタクと夜の大作業をすることを考えておかねばならん。

 だが、俺一人では手に余ろう。


 スッと助けを求めるように視線を巡らせると、アミラが得意げに挙手してきた。


「お姉さんが手伝ってあげる」


「あっ、助かります」


 持つべきものは年上のお姉さんだ。

 ミッタクもそうなんだけど、精神年齢はカリナと一緒だしな。


「ひどーい。オクノ、私に頼ってくれても……」


「ラムハさんは俺よりも経験がないでしょ」


「そ、そうだけどぉ……」


 おっ、ラムハがふくれた。かわいい。

 最近めちゃめちゃ甘えてくる。

 クールな時期が長かった分、ギャップ萌えだな。


 まあ、女神様とも分離したし、背負うものが何もなくなって子ども返りして甘えてるのかも知れない。

 いいことだ。


 ちなみにカリナはぶら下がるのに飽きたようで、ひょいっと飛び降りるとフタマタのところに遊びに行ってしまった。

 フタマタは犬モードだと大変な人格者なので、カリナの相手をしてあげている。


 さてさて、これで全員がひとまとまりになった。


 ずっと横で見ていた冥神ザップが、うんうん頷く。


『そろそろ良いかな? では、打ち上げますぞ』


「打ち上げとは一体?」


 不穏な響きだ。

 俺の質問に、冥神はガイコツヘッドをカタカタ鳴らした。

 笑ってごまかしたな、あれ。


『では、ハームラ。タイミングを合わせるぞ』


『はーい。行きますよー。むむむむーっ』


『はぁーっ! 冥府昇降術!』


 ハームラとザップの間に紫色の光が生まれ、それは一つになって俺達を包み込む。


 そして俺達は、エレベーターのように上に向かって昇って行った。


 冥府の番人達とか、死者達がわーっと集まってきて、みんなで手を振っている。


「じゃあなー! また転生したら会おうなー!」


 俺も大いに手を振り返した。


「おふくろともいよいよお別れだなあ。うちに色々言えて満足したから、大人しく転生するって」


「ほうほう」


 俺が相槌を打っていると、横からアミラが口を挟んできた。


「じゃあ、ミッタクはオクノくんの子どもを産まないとね。きっとそこにお母さんが帰ってくるから」


「そ、そうなのか!?」


「そんな都合良くは……」


 驚くミッタクに、突っ込む俺。

 だけど俺の唇は、アミラの指先で止められてしまった。


「モチベーション、モチベーション。これでミッタクも勉強する気になるかもしれないでしょ」


「なるほど……さすがはお姉さん」


「でしょ」


 アミラが笑った。

 おっ、こういうのはキュンキュン来るな。


「おし、帰ったらアミラさんを指名します」


「やったっ! 今度は負けないからね」


 例によってラムハがむくれる。

 そんなやり取りをしながら、俺達は地上へ────。






 飛び出したと思ったら、そこは戦場だったのである。

 わあわあという叫び声があちこちで響き渡り、すっかり乱戦状態になった王国軍と帝国軍が、激しく揉み合っている。


「あちゃー! 戦争が起きてしまっているなあ」


 戦場の中心に、突然紫色の巨大な玉が出現し、そこから俺達が姿を現した。

 これにはみんな驚いたようで、しばらく戦闘が止まる。


 だが、止まらない連中もいた。


 横合いで、イクサが一組の男女とやりあっている。


 ほう、イクサとやりあえるような強いのが、帝国にいたのか。

 黒髪、黒い目でまるで日本人のような。


「おやあ?」


 俺が首を傾げると、イクサと男女が俺に気付いた。

 そして、戦闘を停めて距離を取る。


「戻ってきたか、オクノ! 一気に攻めるぞ!」


「多摩川なのか? 王国についたのか、お前」


「君には色々謝りたい事とかあるけど、それはできなさそうだよね。敵と味方だもん」


「あ、あーあーあーあー! お前らがあれか! 生き残り三人のうちの二人!!」


 俺はポンと手を打った。


「あ、戦争は止めさせるね。行くぞ。タイムブレイク!!」


 時間の流れそのものを一時的にぶっ壊す、時の呪法。

 キョーダリアスという世界が、この呪法の行使について抵抗してきた。

 ということで、恒例!


「世界を担ぎ上げて……エアプレーンスピンだっ!!」


 持ち上げた世界を、地面に叩きつけるイメージ!


 その時、世界が文字通り震撼した。


「うわあーっ!!」


 戦場全体が大いに揺れる。

 実際は世界全体に激しい揺れが走っているわけだが。


 それに、これは地震ではなく、なんというか世界という概念自体が揺らいでいる。

 無生物には何の影響もないが、生物はみんな腰を抜かして動けなくなるのだ。


「むっ」


 さすがのイクサも膝を突いた。

 相手の男女は尻もちをついている。


「こ、これは一体……!?」


「多摩川くん、何をしたの!?」


「これはな、強制的に停戦させる呪法だ」


 俺は悪びれずに答えたのだった。


 きっと、こんな感じの戦争が世界のあちこちで起こっている事だろう。

 原因は一つ、戦神メイオーだ。


 あんにゃろめを放置しておくと、いらん争いばかりが起こるようになる。


 事態は一刻を争うようだな。

 さっさと準備して、メイオーをぶっ倒しに行かねばだぞ。


 だが、その前に。


「ちょっと王国に顔出しに行く。おい、二人とも」


 元クラスメイトの二人に声を掛けた。

 腰を抜かしているとは言え、さすがはこれまでの時を帝国で過ごしてきたクラスメイト達だ。

 二人とも、気丈に俺を見上げてきた。


「あと一人と、皇帝に会う。案内してくれ」


 この戦争はサクッと片付けるのだ。


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