第154話 俺、フタマタの変身を見て驚く

 月夜のこと。

 冥界下りの準備をしていると、フタマタが寄ってきた。


「くーん」


「おっ、どうしたフタマタ。今日は甘えん坊さんだな」


 大くて双首のもふもふわんこという外見のフタマタ。

 わしわしと撫でると、目を細めて嬉しがった。


「わん」


「なんだ、俺に報告が?」


「わんわん」


「えっ、実はシーマに付き合ってもらってヒミツの特訓をしていた!?」


「わん、わおーん!」


「見てて下さい、私の変身だって!?」


「わおおーん!」


 フタマタが吠えると、月に照らされたその体が、黒いシルエットに変わった。

 それが変形していく。


 ま、まさかこれは……。

 人化するのか!?

 シーマも人化した使い魔だって言ってたもんなあ。


 ついにフタマタも?

 俺は犬のままでいいと思うんだけどなー。


 そう思って変化を眺めていたら、おかしなことに気付いた。


 あれ?

 ちっちゃいシルエットだ。

 しかも二つに分かれた。


 やがて、黒いシルエット状のフィルターが消えた。

 そこにいたのは、黒い髪の女の子と、白い髪の男の子だ。

 小学校に上る前くらいの年齢に見える。


「じゃーん」「じゃーん」


「おおーっ、二人になった!」


「どうですか、あるじさま!」「どう? あるじちゃん!」


 トテテテテ、と走ってきて、俺の膝に二人で手をついて見上げてくるので、ほっこりしてしまった。


「人化してもフタマタは可愛いなあ。双首だから二人になったのかあ」


「フマです! おねえちゃんです!」


 黒髪の幼女が元気に挙手した。


「タタです! おにいちゃんです!」


 白髪の幼児が元気に挙手した。


 二人はじーっと見つめ合う。

 意見がぶつかりあってしまったな。


 その後、二人はスッと腕を振りかぶった。

 ま、まさか拳で決めるのか!?


「じゃーんけーんぽん!!」


 おっ、フマが勝った。


「フマです! おねえちゃんです!」


「タタです! おとうとです!」


「おお……!! 仲良く喧嘩しないで決められて偉いぞ……!!」


 俺は二人をわしわしと撫でた。

 二人の幼児が、キャッキャ言って喜ぶ。

 これはこれで可愛いな!


「ふっふっふ、どうじゃ? どうじゃオクノ? フタマタの特訓の成果は……!!」


 得意げに、シーマが現れた。


「うむ、正直めちゃくちゃびっくりした。超かわいい」


「そうじゃろうそうじゃろう。ちなみに二人に分かれて、幼子の姿になっても、フタマタの知性は維持されたままじゃ。身体能力はやや落ちるから、戦う時は元のわんこに戻るのがよいじゃろうな」


「なるほどー」


 俺は二人を抱き上げた。

 二人共、キャーッと歓声をあげた。

 可愛いな!


 ちなみに、フマがちょっと礼儀正しくて俺をあるじさまと呼び、タタがちょっとわんぱくで俺をあるじちゃんと呼ぶ。

 俺はどう呼ばれても一向に構わんっ。


 抱き上げられたフマとタタは、揃ってシーマに手を振った。


「ありがとうシーマおねえちゃーん」「シーマねえちゃんありがとー!」


 シーマも目を細めて手を振り返す。

 同種の使い魔同士、通じるものがあるんだろうな。


 悪の女呪法師であったシーマが、こんな優しい感じで笑うとは誰も知るまい。

 まあ、稀代の虐殺者が子煩悩なパパやママだったりとかよくあるもんなー。


 俺はその辺、それはそれ、これはこれとして気にしないことにしているのだ。


「あるじさま、いまのところはー、ちっちゃくなれるだけだけど」「これで、あるじちゃんのまちにいってもめだたないよ?」


「なんと、そんな事を気にしていたのか……! いい子だなあ」


「ほめられた!」「ほめられた!」


「ところで、二人ともフタマタの時よりもちょっと幼い感じになってる気がするんだが?」


 俺の疑問に、シーマが答えた。


「人化して時が浅いからじゃ。まだ、人化した使い魔としては赤ん坊同然なのじゃ。これから色々な事を学び、人間としても成長していくのじゃ」


「なるほど……! つまりこれは一足早い子育て……!」


 一年弱したら、ルリアが産む子どもを育てることになるしな。

 感覚を掴むために、フタマタが協力してくれるようなものだ。


「よーし、あるじは頑張っちゃうぞー」


「がんばれーあるじさまー!」「がんばってあるじちゃーん!」


 やる気が満ち満ちてくる。

 ちなみに、途中でラムハとアミラがやって来て、ちっちゃい子を二人抱っこしている俺に、衝撃を受けたようだった。


「オクノに隠し子が!?」


「そんな、オクノくん信じてたのにー!」


「待て、待つんだ!! 俺の説明を聞け!」





 ということで、二人に説明をした。


「まさかフタマタが人の姿に……」


「それがこんなに可愛いなんて……」


「フマです! おねえちゃんです!」


「タタです! おとうとです!」


「な? 可愛いだろ」


「かわいい」


「かわいい」


 お姉さん達をデレデレにする魔力を持つフタマタ……!!

 これはこれで強力な能力かも知れないな。


「あるじさま、そろそろフマ、みまわりしないとだから」


「あるじちゃん、タタ、おしごとがんばるね」


「そうか! 頑張るんだぞー」


 二人をわしわしと撫でると、キャッキャ言って喜んだ。

 そして、フマとタタがまたシルエットに変わる。

 戻るのは一瞬。


「わん!」


 見覚えのあるもふもふ双首わんこのフタマタがそこにいた。


「そうかー。フタマタの二つの頭、フマとタタだったんだなー」


「わんわん!」


 そうですよー!と尻尾をぶんぶん振りながら肯定してくるフタマタ。

 そして彼は、夜の見回りに出掛けて行った。


「シーマ、いい仕事だ」


「そうじゃろうそうじゃろう。より一層フタマタを大事にするんじゃぞ……。あやつには幸せになってほしい……」


 シーマが遠い目をした。

 メイオーがいる職場は本当に大変だったのであろう。


 去りゆくフタマタを見送ると、ラムハとアミラが俺の両脇に立った。

 がしっと両腕に、彼女達の手が絡まる。


「どうされたんですかね……?」


「私とアミラでリベンジを要求するわ」


「今度は二人がかりだし、鍛えてるからこの間みたいに一方的に負けたりしないからね」


「なんですって……!? しかし、ハームラが万一できちゃうことは無いようにしたので、そういう行為は別にしなくても……?」


「それとこれとは別!! こっ、これは、コミュニケーションなんだから!」


「そうそう。お姉さん、ラムハには色々と技を教えたいしね……!」


 な、なんだってーっ!?

 かくして、二対一のハンデキャップマッチをすることになった俺なのであった。






「よし、勝った……!」


 翌朝。

 清々しい目覚めとともに、ベッドに突っ伏したラムハとアミラを寝かせておいて外に出た俺。


「うう……悔しい……また腰が抜けた……」


「お、お姉さんまで動けなくされるとは……。オクノくん恐るべし……」


 なかなか危ないところだった。

 だが、戦う度に俺のパワーも増してきている気がするぞ。

 まだまだ負けはしない。


「よう、オクノ、おはよう。明日だっけ、冥界下り?」


 ミッタクが下着同然の格好をして甲板にいた。


「ああ、そうだ。しかしまた、男のムラムラを誘うような姿をして……」


「ん? ムラムラって、あれか。戦う気になったってことか? いいぜ、うちはいつでも受けて立つ!」


 ミッタクが女子連合に加わった時、俺は初黒星を付けられてしまうかも知れない……!

 いや、何を持って勝ち負けとかはよく分からんのだが!


「じゃあ、ここは健全にレスリングで勝負と行くか。相手の肩を甲板につけたほうが勝ちだ」


「いいぜ! 朝飯の前に運動だ!」


 ということで、俺とミッタクは健全なレスリングに励むのだった。

 


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